GAFAの次は「DAOの時代」── アニモカ経営幹部が明かしたWeb3の未来予想

メタバース「The Sandbox」など多くのWeb3企業に出資し、Financial Timesのアジア太平洋地域における急成長企業ランキング2023でも上位につけたAnimoca Brands(アニモカ・ブランズ)。日本法人のCEOに岩瀬大輔氏を起用するなど、国内展開にも力を入れる。空前のNFTブーム、メタバースの勃興など、驚くべき速度で変化を遂げるWeb3の世界の未来を、彼らはどう見ているのか。

来日したGroup Presidentのエヴァン・オーヤン(Evan Auyang)氏と、日本法人Animoca Brands KKの岩瀬CEOに、これからのWeb3を語ってもらった。


クリプト・ウィンターの次に起きること

──世界経済は大きく揺れ、暗号資産の時価総額も2021年のピーク時に比べて大きく下落した。Web3をめぐる今の市況と未来をどう捉えているか?

エヴァン:いま起きているのは、Web3という新たなインターネット革命だ。「Web2」から脱却し、今後はユーザーがデジタル資産の所有権を持って、デジタル上のアイデンティティを自らのものにする時代がやってきている。

しかし、Web3テクノロジーの浸透には時間がかかる。現時点でのWeb3のユーザー数はインターネット黎明期だった90年代中盤のユーザー数に近い。つまり、「やっと受け入れられ始めた」という段階。ウォレット数もまだ2億程度で、潜在的な市場サイズからすると非常に少ない。

実際、一般ユーザーがWeb3の世界へ足を踏み入れるのには、まだまだ手間や知識が必要だ。現時点では「入りやすいこと」「導入しやすいこと」がとても重要だ。

振り返ってみると、インターネット黎明期には、インターネットそのものに批判的な人たちが数多くいた。「何かを調べたいなら、図書館へ行けばいい」「メールより、電話のほうが早い」というような声も聞かれた。2000年代になって便利さが知れ渡り、誰もが利用するようになると、そうした声は消えていった。ただ、「技術が受け入れられる」までに、ある程度の時間がかかるのは避けられない。

ビットコインが発明されたのは2008年だが、さまざまな「アプリケーション」が登場してきたのはつい最近のことだ。ICOブームが盛り上がり、2017年には”崩壊”を迎えたが、当時はアプリケーションがまったく存在していなかった。2021年のNFTブームで起きた最も重要な変化は、ブロックチェーンに「リアルな用途」が誕生し、そのためのインフラや、アプリケーションの整備が進んだということだ。

淘汰されるプロジェクト、生き残るプロジェクト

人々がブロックチェーンの可能性に気づき始めたことで、暗号資産の価値は大きく値上がりし、多くの資本がこの市場に投入されることになった。その後も相場は大きく上下しているが、こうしたブームと崩壊のサイクルは、革新的な技術が定着するまでの期間には避けられない。

たとえば1999〜2000年頃の「ドットコム・バブル」も空前の盛り上がりだった。当時は大企業に高値で売りつけるために何とかドットコムというドメイン名を手当り次第に取得する人もいたぐらいだ。しかし、2001年になると「バブル崩壊」が起き、ナスダック指数は5000超から1600あたりまで一気に下落した。

もちろん、それで淘汰された企業もあるが、しっかりと生き残って発展を遂げた企業も少なくない。ブーム期には、多くのプロジェクトが誕生するが、そのすべてが成功するわけではない。あえなく失敗するものも数多く出てくる。アップ・ダウンは必ず起きるものなのだ。

むしろ、内容の伴わない粗製乱造プロジェクトが失敗するのは当然だし、そういったプロジエクトに成功してほしいとは思っていない。残っていくべきなのは、有用なプロジェクト、しっかりとしたインフラ、優れたアプリケーションだ。

そうやって長期的に考えると、目の前のアップダウンは、私たちにとって「些細な事」にすぎない。私たちアニモカ・ブランズが世界で実行しようとしているのは、本当に必要とされるアプリケーションを開発すること。その観点からすると、今ぐらいのダウンであれば、全く問題ではない。究極的には、開発者は開発をするものだし、この程度で開発の手を止めることはないからだ。

市場の値動きより重要な指標とは

──過去2年で起きた「NFTブーム」の後、キラーコンテンツが生まれていないようにも思えるが?

エヴァン:NFTブームにおいて、真に注目すべきなのは、「本当の意味で使えるインフラ」が整備されてきたことだ。この2年の間に数多くの新技術が登場した。アプトス(Aptos)やスイ(Sui)など多くの高速レイヤー1(L1)チェーンも生まれたし、クロスチェーンの仕組みも進化している。今のレイヤーは「投機レイヤー」ではなく、「開発レイヤー」だ。人々の関心も単なる価格ではなく、ウォレットの性能、セキュリティ、アプリケーション、AIといった観点に移ってきている。

我々が市場を見るときに注意しているのは、表面上の値動きではなく、熱心な開発者がどれだけ参入しているかという点だ。市場のアップダウンは気にしないが、開発者が参入を躊躇したり、重要なプロジェクトを放棄してしまったりしていれば問題だ。

しかし、いまも有力なL1チェーンは、多くの才能を引きつける力を持つ。たとえばポリゴン(Polygon)はイミュータブル(Immutable)とパートナーシップを締結し、手を取り合ってシナジーを生み出そうとしている。この4月にあった「NFT.NYC」でのアニモカ・ブランズのイベントにも大勢の開発者が参加し、協力してプロダクトを生み出すにはどうすれば良いかを話し合っていた。開発への情熱は、まだしっかりと存在しているのだ。

アニモカ・ブランズをけん引するエヴァン・オーヤン氏の正体

──エヴァン・オーヤン氏がアニモカ・ブランズで果たしている役割と、参加した経緯は?

エヴァン:アニモカ・ブランズでの肩書は「Group President」。創業者ヤット・シウのビジョンを実現する体制づくりに取り組んでいる。

2年前、古くからの知り合いだったヤットに「会社のガバナンス面でなにか改善できるところがあるかみてほしい」と言われ、アドバイザーという立場で参加した。最初はフルタイムで働くつもりはなかったが、実際に入ってみると組織は大きく成長し、ヤットにも「個人ではなく、チームが必要ではないか」と言われるようになった。結果的に2021年10月からは、フルタイムで働くようになった。

私のキャリアは、アントレプレナーのヤットとはまったく異なる。米バンカーズ・トラスト(Bankers Trust)やシティグループなどの金融機関で5年、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルティングを8年経験し、その後は香港のバス会社などを経て、アニモカ・ブランズに参加した。

イーサリアムの存在感、チェーン間の競争

──昨年のアップデート以降、イーサリアムの存在感が増している。チェーン間の競争についてはどう見ている?

エヴァン:チェーン間の競争を語るには、まだアプリケーションが少なすぎると考えている。現在のアニモカ・ブランズは「特定のチェーンに依拠しないスタンス」を取り、どのチェーンに肩入れしないようにしている。

どのチェーンを使うのがふさわしいかは、それぞれのコミュニティによって大きく違う。アニモカ・ブランズも、独自のチェーンを作って、エコシステムを築こうとはしていない。チェーンはそれぞれ違う思想で生まれ、特徴もある。それぞれ成功してもらいたいと思っているし、私たちが「このチェーンこそが勝者だ」と決めることはない。

今後はいつか、チェーン間競争が本格化するタイミングが来るだろう。しかし、今はまだ多くのコミュニティが「作ってみよう、実際にやってみよう」と試行錯誤している段階だ。我々も、その動きを見守るべきだと考えている。

もちろんイーサリアムの存在は大きい。アップグレードによって、明らかにスケーラビリティが増した。ゼロ知識証明を使ったL2チェーンも登場した。イーサリアムが「永続的な存在」になる可能性は高まっている。しかし、だからといって他のL1チェーンに可能性がないわけではない。それぞれのチェーンで、運営コミュニティやそもそもの「思想」が異なるからだ。

GAFAの覇権、DAOの時代

──分散化されたWeb3の世界にも、GAFAのように巨大な存在が登場してくるのか?

エヴァン:究極的にいえば、Web3の世界を作り上げていくのは「アントレプレナー」たちだろう。ビジョンと起業家としての実績を兼ね備えた岩瀬大輔をアニモカ・ブランズジャパンのCEOに迎えたのも、そういう思いからだ。

ただ、Web2時代のように巨大で絶対的・支配的な存在が続々と誕生してくるとは考えていない。これからはDAOの時代だ。規模も、考え方も、それぞれ多種多様なDAOが、複数併存していくことになるのではないか。

DAOのあり方について一つ紹介すると、「ApeCoin DAO」はまったく問題がないとは言わないまでも、非常にうまくいっているケースの一つだ。完全に分散化されているため、BAYCを作り出したユガラボ(Yuga LAB)もアニモカ・ブランズも、独裁的に何かを決めて押し付けることはできない。実際、アニモカ・ブランズが出した重要提案が批判され、否決されてしまうという事態もおきている。

ただ、自らの提案が否決されたことを、私たちは「非常に喜ばしい」と捉えた。反対した人たちは「実際に提案を読み込んで、きちんと検討してくれた」わけだし、そうやって意見を出してくれるのも貴重なことだからだ。何より重要なことは、批判によって生まれた議論の結果、提案をより優れたものにすることができたということだ。もちろん、元案も「良い」と思ったから提案したのだが、結果的に「十分に良いものとは言えなかった」というわけだ。

GAFAのようなスタイルの組織だと、重大なことはすべてトップダウンで決まり、下の人たちにはそれを受け入れるかどうかという選択肢しかないケースが多い。それに比べるとApeCoin DAOの意思決定システムは、より民主的といえる。どうやって資産を活用するかを巡り、ApeCoin DAOで数多くの提案がなされるのは、こういう意思決定プロセスを採用していることも大きいのではないか。

アニモカ・ブランズが岩瀬氏を日本CEOに起用した理由

──DAO組織は、参加する「企業」の姿勢も問われるということか。アニモカ・ブランズの企業風土はどんなものなのか?

岩瀬:ベゾスやザッカーバーグをみればわかるが、創業者の人柄は企業風土に色濃い影響を与えるものだ。アニモカ・ブランズも例外ではなく、創業者ヤット・シウの生み出すヤット・カルチャーが根付いている。

ヤットの人柄は温和、オープンで、いつも誰かのためになるようにギブ、ギブ、ギブというスタイルを持っている。彼が集めた経営陣も同じ傾向だ。

協力的でオープンなメンバーの姿勢は外からアニモカ・ブランズと関わっていたときにも感じられたが、中に入ってみると一層明らかに見えるようになった。この企業文化はWeb3の時代に、とても向いていると思う。

──岩瀬氏が日本法人、アニモカ・ブランズ株式会社の代表に就任した経緯は?

岩瀬:実はヤットとは2018年、私が香港で暮らし始めたころからの友人関係だ。私が共同創業し、CEOを務めているWeb3特化のデジタル・レーベル・ブランド「KLKTN(コレクション)」は、アニモカ・ブランズから出資を受けている。今回の直接のきっかけは、ヤットから「アニモカ・ブランズの日本法人を次のステージに進化させたい」とCEO就任を打診されたことだった。

KLKTNは国内の音楽・マンガ・アニメコンテンツに強みがある会社で、アニモカ・ブランズとは得意分野が若干異なるが、目指すビジョンは重なっている点も多い。そこで、2社の連携をさらに深めて、より良い効果を生み出したいと考えて引き受けることにした。

Web3で重要なステーブルコインはどうなる?

──ステーブルコインについて、見解を教えてほしい。

エヴァン:ステーブルコインの存在は非常に大きい。特に今のように暗号資産の値動きが激しい状況にある時期には、「分散化されたチェーン上で、より安全に資産を短期保有」するための重要な手段の一つとなっている。

透明性についても、より高いレベルのものが確保される方向で進んでいる。ステーブルコインの発展はとても重要で、今後はより大きなものも、より小さなものも登場してくるだろう。

一方で、規制の議論も深まっていくだろう。規制やガイダンスは必要になってくるし、いわゆる「オフィシャルなもの」になるためには、発行者の所在地といった問題も出てくるだろう。透明性も、USDC(米サークルが発行するドル連動型ステーブルコイン)と同じようなレベルのものが必要とされている。

ただ、伝統的な銀行ですら100%の透明性が確保できているところはない。国の法定通貨も裏付けは「その国の経済」という漠然としたものだ。銀行預金も預けたお金すべてに担保があるわけではない。規制の範囲内で、銀行は大きなレバレッジを効かせている。そうした点に着目すれば、サークルはむしろ保守的な運用をしていると言えるかもしれない。

アニモカ・ブランズと三菱UFJの密接な関係

──日本では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がステーブルコインなど発行できる基盤を準備するなど、Web3分野での事業展開に力を入れている。アニモカ・ブランズはMUFGとのパートナー関係を、どう捉えているのか。

エヴァン:MUFGは非常に重要なパートナーだ。日本で最大の金融機関として、さまざまな関係性を築いているし、彼らと組むことで日本に多くのWeb3サービスをもたらすことができるだろう。日本のIPを海外に持っていく際にも、大きな力を発揮するはずだ。

NFTなどのデジタル資産は、突き詰めると文化に至る。漫画やアニメなどの文化は、それ自体として非常に興味深い存在だ。アジアのポップカルチャーに大きな影響を与えているし、市場も大きい。だから我々は講談社、集英社などのIPホルダーとの提携を深めて、デジタル・コレクティブルの市場を日本にもたらすと同時に、日本のIPを国外市場にも広げていきたいと考えている。

MUFGとのパートナー関係に期待するのは、その実現力だ。インフラも必要、マーケットも必要、IPの扱いを知っているパートナーも必要だが、それだけでは足りない。地元に強い基盤を持っていて、さらに海外の事情についてもよくわかっているパートナーが不可欠になってくる。

アニモカ・ブランズが日本で焦点を当てる5つの分野

岩瀬:MUFGは国内企業に先駆けて、クリプトやNFTに積極的に取り組もうとしているが、まだ実験段階にある。彼らが挑戦しているのは、日本企業の持つ資産をWeb3で活用し、世界市場に向けて出ていくことだ。

まずはブロックチェーンがポジティブな影響を与えられそうないくつかの分野を選んで、ユースケース、実例を作り出そうと考えている。現時点では教育・不動産・農業・リテール・ヘルスケアの5分野で、Web3を社会実装していこうと考えている。

また、MUFGが開発しているウォレットにも、アニモカ・ブランズのエコシステムが提供できるものがないかと模索している。アニメ・マンガといったIPだけではなく、社会のインフラ産業にも、Web3を使って新たな価値を提供していきたい。もちろん、我々だけでハンドルできる内容ではないので、いろいろな会社と一緒にやっていきたい、という話をMUFG側ともしている。

──Web3技術の導入で、社会はより便利になっていくだろう。ただ、ステーブルコインにしても、日常生活で使えるようになるためには、法律・ルールが整備される必要がある。日本の法規制への対応はどう考えている?

エヴァン:日本は市場として魅力が大きく、日本にあるIPなどの資産も重要である一方で、規制も厳しく「適法ビジネス」への要請も強い。だから我々は、日本に世界で唯一の戦略的拠点を作った。規制当局ともきちんと対話をして、日本のルールに適合した形で、サービス提供をしていけるという自信がある。

次のキラーコンテンツはいつ誕生するか?

──アニモカ・ブランズは数多くのWeb3ベンチャー企業に出資している。ベンチャーキャピタルとしての観点で注目しているエリアはあるのか?

エヴァン:投資先の地域性は、ほとんど考慮していない。そもそもWeb3企業はグローバルなチームで経営されていることも多い。ザ・サンドボックス(The Sandbox)も創業者はフランスにいるが、開発の最大拠点はアルゼンチンだ。あえて地域を挙げるなら、日本や韓国は興味深いし、東南アジアの市場も勢いを増している。中東にも興味を持っている。

──アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)やBAYCなどに続く次の「Web3 キラーコンテンツ」は何が出てくるのか?

エヴァン:「次のコンテンツ」はすでに続々と登場している。昨年はAzukiやmoonbirdsが、最近ではmemelandなども人気を博した。今後はPFP(プロフィール画像)スタイルのものだけではなく、ゲームやモバイルアプリも増えていくだろう。

たとえば、SFアクションRPGの「Phantom Galaxies」、MMORPGの「Life Beyond」、ウォレットの「Blowfish」なども要注目だ。アニモカ・ブランズとしても、コミュニティへのエンゲージをテーマにしたNFT「Mocaverse」をリリースしている。

まだ詳細は伝えられないが、5月には新しい音楽サービスのローンチもある。「ファンとの対話」に特化したコミュニティで、クリエイターエコノミー、AI、Web3が関連するとてもクールなサービスだ。みなさんに気に入ってもらえるだろうと思う。今年は後半にかけて、まだ発表されていないプロジェクトがどんどん明らかになってくる。期待していてほしい。


佐藤 茂:現在、アフリカ・Web3ニュース&ディスカバリープラットフォーム「NODO」でチーフ・コンテンツ・オフィサーを務める。BloombergとDow Jonesで金融・ビジネス記者を務めた後、Business Insider Japan・副編集長を経て、2019年にcoindesk JAPAN・編集長に就任。2023年1月にNODOの設立に参画。カリフォルニア州立大学卒業。

|インタビュー:佐藤茂
|文:渡辺一樹
|写真:小此木愛里