コインベースが考える、暗号資産の未来を決める3つの柱

コインベース(Coinbase)は、米証券規制当局と戦うという、とてつもなくコストのかかるはずの戦いに挑んでいるにもかかわらず、活発な動きを見せている。上場している暗号資産(仮想通貨)企業として最大規模の同社は先週、新しいブロックチェーン「Base」を立ち上げたが、主にいくつかの話題のアプリケーションのおかげで、驚くほど広く普及している。さらに8月14日には、親暗号資産的な法案を推進する独立非営利団体として「Stand With Crypto」の正式設立を発表した。

暗号資産の取引高が低迷し、これまで取引手数料から収益のほぼすべてを得てきた同社にとってはキャッシュフローが少なくなる時期だが、コインベースは暗号資産普及の将来について、これまで以上に発言し始めた。まず注目すべきことに、取引手数料が低迷するなか、コインベースはサブスクリプションモデルによって、継続的な収益源を見つけたようだ。

ブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)CEOの先日の四半期決算説明会で、ブロックチェーンのスケーラビリティ、ユーティリティ(金融以外の暗号資産のユースケース)、そしてアメリカにおける規制という、普及に向けての3つの柱について語った。

規制に関しては、同社が身にしみて理解している通り、不可解な暗号資産規制の誤りを正す、あるいは規制の欠如を解消する必要がある。コインベースは、人々を暗号資産から遠ざけている信頼と知識のギャップを実際に乗り越えた数少ない企業のひとつであることを考えると、同社の考えに注目する価値はあるだろう。

技術的な問題

ある意味、最初の2つのテーマは、コインの裏表のようなものだ。あるいは、少なくとも、密接に関連する問題への対処法といえる。

アームストロング氏は、ビットコインのライトニング・ネットワークや同社のイーサリアム・スケーリングプロトコルであるBaseなど、現在あるスケーリングソリューションに特に強気のようだった。特に、ビットコインNFTがチェーンを混雑させて以来、同社がライトニングの統合を示唆してきたことを考えれば驚きはないが、それでも注目を集めた。

ブロックチェーンのスケーラビリティとユーティリティは技術的な問題であり、技術者は技術的な解決策を容易に想像できる。暗号資産業界は、その13年の歴史の中で、インフラに関して「開発すればユーザーは後からついて来る」というタイプの考え方を過剰に重要視してきた可能性がある。

しかし、実際のところ、暗号資産の非金融的なユースケースは何年もの間、ほとんど手が届かないものだった。ブロックチェーンはシーソーのようなもので、有意義な数のユーザー流入があれば、常に取引手数料が上昇し、ほとんどの人は高過ぎて手が出なくなってしまう。

アービトラム(Arbiutrum)やオプティミズム(Optimism)のようなイーサリアム・ブロックチェーンのレイヤー2(L2)ネットワークは、アームストロング氏が指摘したように、ここ6カ月間で有意義な普及を見せており、状況は変化するかもしれない。予測を立てるとき、私が提供できるのは反事実的思考や事実の確認だけだが、いずれわかるだろう。

より長い、あるいはより優れたシーソーを作れば、取引手数料を即座に急上昇させることなく、より多くの人がシーソーに乗ることができる。そしてより多くの人がいれば、メッセージサービスやソーシャルメディアなどの需要もついて来る。

最後に指摘しておきたいのは、非金融用途の例を挙げるとき、アームストロング氏がすぐに金融用途の例を挙げたことだ。

「決済用のステーブルコイン、DeFi、NFTなど、これらはすでに大きなトラクションを得ている。しかし、レイヤー2のソリューションがオンラインになれば、これらはもっともっと大きくなると思う」とアームストロング氏は述べ、その後、次のようにも語った。

「しかし、ユーティリティをはるかに向上させ、支払いを国際的により速く、より安くすることができれば、ますます多くの人々が毎日、暗号資産を使うようになり、それが間接的に私たちのビジネスの成長につながる。この話はここまでにしておこう」

1番のハードルは規制

技術的な問題には、技術的な解決策があることを考えると、暗号資産の主なハードルはアームストロング氏が挙げた最後の柱である規制だ。アームストロング氏は決算説明会の中で、コインベースが主導している「Stand With Crypto」に何度か言及した。

Stand With Cryptoは、多くのブロックチェーンロビー団体と同様に、暗号資産を対象にし、暗号資産のために設計されるアメリカの法律の方向性に影響を与えることを目指す。

これは2つの理由から重要だ。まず、暗号資産市場構造法案(正式名称はFIT21)と「ステーブルコイン法案」という、もし可決されれば暗号資産業界を変革させる可能性のある2つの法案があり、両法案はすでに下院金融サービス委員会と下院農業委員会で超党派の支持を得て可決され、上院に提出されようとしている。

そして2つ目に、暗号資産推進者たちの間では、ワシントンDCにおける暗号資産の既存ロビー活動ネットワークが業界の期待を大きく裏切っていると考える声が高まっている。

暗号資産に関する規制や法律が不足している現状を見渡せば、そう思うかもしれないが、特に過去の無法行為の後では、暗号資産をアピールすることは簡単な仕事ではない。コインベースは、他の団体に資金を提供するよりも、連携したロビー活動団体の方がうまくいくかもしれないと考えたようだ。あるいは、ちょうど適切なタイミングでロビー活動の世界に足を踏み込んでいるのかもしれない。暗号資産規制を形成するチャンスはこの先、5年前よりも確実に増えるだろう。

どこに向かうのか?

しかし、政治の世界はおそらくテクノロジーの普及よりも予測可能性が低く、アメリカがどのようなルールを持つかはまだわからない。現在、参考となる2つの不完全なモデルが存在する。事業者を追い出し始めたカナダの暗号資産改革と、ヨーロッパを暗号資産のハブに変えるかのようなMiCA規制パッケージを最近可決したEUだ。

カナダはアメリカよりもはるかに小さな市場であること、ヨーロッパの人々は我々よりも政府の監視に寛容であることなど、この比較には欠点もある。しかし、要点は変わらない。アメリカはどちらに向かうのだろうか?

暗号資産普及の歴史においてコインベースが果たした役割を過大評価するのは簡単であり、同社の抱える法的問題や暗号資産に対する需要の低迷を考えると、同社がこの先も常に突出した存在であり続けるとは限らない。

また、同社自身が「オンチェーンが新しいオンライン」と述べているように、暗号資産が中央集権的な企業から実際のブロックチェーンに移行しつつあるという事実もある。しかしそれでも、暗号資産の将来を先導する存在であることに変わりはない。

逆風が吹き荒れているが、十分に安定した柱の上に建てられていれば、その存在感を維持し続けるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:コインベースのブライアン・アームストロングCEO(CoinDesk archives)
|原文:The 3 Things Coinbase Says Will Determine the Future of Crypto