TradFi(伝統的金融)が暗号資産の主役に──大規模シフトが始まる

暗号資産(仮想通貨)ネイティブから伝統的金融へと、暗号資産インフラの大規模なシフトが始まっている。だがそれはイデオロギーや「銀行口座を持たない人々に銀行サービスを」という新たな願い、あるいはオルタナティブ(代替)金融システムの推進が原動力ではない。伝統的金融の参入と、伝統的金融の引き込みという両方の力が作用している。

つまり、一方では、伝統的な金融機関がビジネスチャンスを見出し、この有望な資産クラスの分け前をめぐって、暗号資産に参入している。もう一方では、機関投資家が暗号資産ネイティブ企業に対する信頼を失ったため、伝統的金融機関をこの分野に引き込もうとしている。

そして伝統的金融機関は参入しているだけでなく、暗号資産ネイティブの取り分を奪い始めている。

先物の未来

10月末、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が「バイナンスに代わって、先物取引所のトップに躍り出ようとしている」というニュースが話題となった。これは驚くことではない(下図参照)。

バイナンス(Binance)は透明性が低く、あまり規制を受けていない。暗号資産をヘッジ目的でショートしようとする個人投資家や機関投資家を想像してみてほしい。その多くは、分散されたバランスシートを持つ伝統的金融機関でショートすることを強く好むだろう。

極端な言い方をすれば、暗号資産のみを扱う取引所で暗号資産の大きなポジションを持つことは、ベア・スターンズからリーマンのCDSを購入するようなものである(つまり、リスクが大きい)。

運用面では、大手機関投資家の投資スタイルは、数十年にわたる証券法の改正(信用調査、KYC、AMLチェックなど)を経て形成されている。

取引所ごとのBTC先物の未決済の建玉

ステーブルコイン

中央集権型ステーブルコインにとって、即時決済とリスク回避はもはや独自のアピールポイントにはならない。市場は前進した。透明性の高い裏付け資産、バンキング機能に関するオープン性、流動性と利回りが今や最も重要な要素となっている。

DeFi(分散型金融)ステーブルコインは、各プロトコルが独自のニッチを切り開き、競争上の優位性を探そうとしているため、当然のように状況は異なる。

テラ(Terra)崩壊の後も、DeFiは新しい構造を実験し続けている。FRAXのような第1世代ステーブルコインプロトコルの多くは、資本効率を向上させる方法を模索していた。

しかし、最新世代のステーブルコインプロトコルは、利回りをユーザーに渡すことに重点を置いている。事実上、TradFi(伝統的金融)のリターンをDeFiにインポートしており、そのほとんどは米国債の利回りだ(例えばFrax、Ondo Finance、Mountain Protocol)。

USDT(テザー)とUSDC(サークル)の優位性は永遠に続くのだろうか?

唯一の確実な答えは、外部の利回りをインポートするDeFiと、規制を設けた法域で発行を進める伝統的金融機関の双方からプレッシャーを受けるということ。しかし、いずれにせよ、TradFiの存在感は拡大している。

ハイブリッド金融機関の台頭

つまり、金融機関が「中心に躍り出る」ことが予想される。暗号資産ネイティブ企業はよりTradFi(伝統的金融)的になる一方で、TradFiの金融機関は暗号資産分野での事業を強化する。

現状を見てみよう。コインベース(Coinbase)は暗号資産ネイティブ企業で、上場企業になった。同社は現在、個人顧客向けに先物を提供している。DeFiステーブルコインのFRAXは、短期米国債やレポ取引への投資を通じて利回りを得る方法を生み出した。

JPモルガンは決済を効率化するために独自のプライベートブロックチェーンを開発し、毎日10億ドル(約1500億円、1ドル150円)を取り扱っている。4億人以上のアクティブユーザーを抱える決済大手のペイパルは、NYDFS(ニューヨーク州金融サービス局)の規制下にあるパクソス(Paxos)とのパートナーシップによって、ステーブルコインに参入した。

野村ホールディングスとスタンダード・チャータードは、それぞれ独自のデジタル資産カストディサービス(コマイヌ、Zodia)に投資している。そして、ブラックロック(BlackRock)とフィデリティ(Fidelity)は、ビットコインETFを申請している。イギリスでは、業界大手がAML/CTF制度のもとで暗号資産会社として登録している。規制当局さえもシフトに適応している。

伝統的金融機関による暗号資産の受け入れは、暗号資産の本来のビジョンを脅かすものではなく、むしろさらなる発展とイノベーションの触媒となる。

金融機関は、暗号資産分野に正当性、流動性、多様性をもたらすことで、すべての参加者に利益をもたらす、より強固でレジリエントなエコシステムの構築に貢献している。

暗号資産の未来はゼロサムゲームではなく、金融の世界を変革し得る協調的かつ創造的な試みだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Handover Begins: TradFi Takes Center Stage in Crypto’s Next Phase