ビットコインETF、投資家に適している場合(と適していない場合)

1月にビットコインETFが承認されたことは、アメリカの暗号資産(仮想通貨)市場にとって歴史的な出来事だったことは間違いない。

普及面でも、アクセス面でも影響がある。暗号資産に関心のある投資家は、米証券取引委員会(SEC)が最終的に譲歩したことに大きく安堵し、金融ニュース担当の記者は「Newborn Nine(新生ナイン)」と呼ばれる9本のビットコインETFのうち、どれが運用資産総額と取引高でトップの座を獲得するかに注目している。

これは進歩の兆しであり、一握りの熱心な業界リーダーがここ数年間、度重なる申請を通して、また少数ではあるが訴訟を通して、念入りに推進しようとしてきたことだ。ビットコインETFの承認は、正しい方向への大きな一歩だろう。

しかし、より現実的な疑問もある。投資家はビットコインETFを保有でき、それは素晴らしいことだが、それで十分なのだろうか?

ビットコインETFは暗号資産投資における目覚ましい革新だが、すべての人に適しているとは限らない。

私はETFの大ファンであり、ETFが投資を民主化するために行ってきたすべてのことを支持している。ETFは21世紀で最も重要な金融イノベーションのひとつだが、ビットコインをETFに組み入れることは、フェラーリに補助輪をつけるようなものだ。まあ、それも良いだろう。

ビットコインETFが素晴らしいものではないと言いたいわけではない。しかし、私が言いたいのは、補助輪を外せば、もっと素晴らしい世界が広がっているということだ。

投資家にとって適している場合

ビットコインETFが重要な理由のひとつは、投資家が慣れ親しんだ方法で暗号資産を試す機会を提供するからだ(例えば、金のETFは2000年代初頭から利用可能だ)。まったく新しい世代の投資家に暗号資産への門戸を開く。

ビットコインETFを所有することで、ビットコインの潜在的な価格上昇に間接的に投資でき、カストディ、取得、処分の責任を、ブラックロック(BlackRock)、グレイスケール(Grayscale)、フィデリティ(Fidelity)、アーク・インベスト(Ark Invest)などの有名で実績のある機関投資家に委ねることができる。

ビットコインに手をつけ始めたばかりの投資家、あるいはこ特別な関心を持つ投資家にとって、ETFは潜在的に成長するビットコインへのエクスポージャーを、少ない労力とブランドの信頼による特別な保証で提供する。

ほとんどの場合、手数料は低く、アクセスはシンプルで簡単。また、401Kや退職年金計画にビットコインを追加できるメリットもある。ここ数年、需要が高まっている選択肢に対応できる。

運が良ければ、今年はさらに多くの暗号資産ETFがローンチされるだろう。特にイーサリアムETFの可能性は有望視されている。しかし、現時点ではビットコインだけ。これが次章への前振りとなる。

適切ではない場合:「一方通行の橋」

金融分野のオピニオンリーダーであるデイブ・ナディグ(Dave Nadig)氏は、SECの承認に先駆けて発表した「Why a Bitcoin ETF Doesn’t Matter(ビットコインETFが重要でない理由)」と題する記事でビットコインETFを実に的確に整理している。

彼は、ETF主導によるビットコイン市場の成長のあらゆるプラス面を強調するが、最終的には「一方通行の橋」と表現している。そして、それは多くの投資家にとって問題となるだろう。

なぜか? 実は、ビットコインを直接所有しない場合に失われる、直接投資による多くの素晴らしいメリットがある。

私が直接所有が重要だと考える3つの理由は以下の通り。

  • 分散投資:ビットコインETFを購入することは、ネットフリックスのサブスクリプションを購入したのに1つの映画しか見られなかったり、スーパーボウルの最終スコアを入手したのに試合を見られなかったりすることと同じと考えてみて欲しい。
    ビットコインしかアクセスできないことは、1つの株式だけを所有することと同じであり、市場のパフォーマンスの可能性を極端に制限することになる。
    バランスの取れた包括的なデジタル資産ポートフォリオとして考慮すべき資産は他にも数多くあり、ビットコインETFはその可能性を狭めてしまう。
  • エコシステムへのアクセス:ブロックチェーンをベースにした金融は、仲介者を排除し、流動性を高め、シームレスなグローバル・コネクティビティを構築することこそが重要だ。
    24時間365日、即時取引可能、モバイルでアクセスできる市場であり、高速な分散型取引所(DEX)を通じて、さまざまな暗号資産にアクセスし、現物でスワップすることもできる。
    暗号資産をこれほど強力なものにしているのは、このネットワーク構造であり、それがビットコインに幅広い魅力を与えている。言い換えれば、より広範な分散型の世界へのアクセスを提供している。
  • タックス・ハーベスティング(節税対策の一種):投資資産のウォッシュセールを取り巻く標準的なルール(損失が出ている銘柄を売却して、損失を他の銘柄の利益を相殺して、税金を減らすこと)は、現在のところ暗号資産市場には適用されない。
    つまり、暗号資産市場特有のボラティリティは、タックスロス・ハーベスティングに有利に働く可能性がある。損失を確定した銘柄は、即座に買い戻すことができる。
    ETFでは、ボラティリティを利用する機会は失われる。

ビットコインは間違いなく最も認知され、提供のある暗号資産だが、氷山の一角に過ぎない。

ETFプロバイダーを通じてビットコインに投資することで、投資家は一方通行の橋を渡ることになる。ETFを購入することは、実際にビットコインを直接所有するわけではなく、ビットコインを直接所有するファンドの持分を所有することだ。

全体として、投資家がビットコインETFに投資する際に被る大きな損失は、自己主権の利益に関することだ。ビットコインのメリットは、部分準備銀行システムに依存するのではなく、誰もが自分の資産をセルフカストディできることにある。また、ビットコインの検閲耐性は、資産が凍結されたり、銀行から口座を閉鎖されたりする可能性(これは、ますます大きくなっている問題である)を防ぐ。

ビットコインはセルフカストディが可能なため、カウンターパーティリスクを大幅に軽減できる。聞き慣れたフレーズだが「not your keys, not your coins(鍵を保有していない限り、あなたのコインではない)」は今も健在だ。

暗号資産がメインストリーム市場に流通し始めたばかりで、ほとんどの人が暗号資産に不慣れだった数年前とは異なり、今や金融の専門家はこの新興市場を理解するうえで頼りになる。

我々は、暗号資産業界が市場でこれほど力強く躍進しているのを目の当たりにして興奮している。なぜなら、こうした前進は投資家にとっての機会を増やすだけだから。これはほんの始まりに過ぎない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:When Bitcoin ETFs Are Right for Investors (and When They’re Not)