自民党「デジタル・ニッポン2025」詳報──“国家ビットコイン準備金”は検討段階にない:平井議員

自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部(本部長・平井卓也議員)は5月16日、「デジタル・ニッポン2025」を発表、記者ブリーフィングを開催した。概要は以下で伝えたとおり。

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デジタル庁を大幅に強化

ブリーフィングはデジタル社会推進本部長の平井議員の挨拶からスタート。平井議員は「デジタル政策はずっと問題意識を持ってやってきたが、今やデジタル競争力ランキングで67カ国中31位。さらに労働生産性の低さが懸念されている」と現状への危機感を表明。

だが「遅れている分伸びしろも多いので、そこを何とかしたいと考えている」と述べ、「デジタル庁の機能を大幅に強化したいと考えている」と続けた。

「デジタル庁の設計は、行政のデジタル化にとどまらず、社会全体のデジタル化を推進する司令塔になるべきだという思想で設計した。組織的には1500人程度と大きくなってきたが、社会全体のデジタル化を進めるにあたって、仕事が十分ではないだろうと考えている」

平井氏は初代デジタル大臣でもあり、「あえて今回、デジタル庁に対して厳しいペーパー」になっているが、「デジタル庁は、もっとできることがあるだろうと思っている」と述べた。

次の100年に向けた「デジタル政策2.0」

続いて、事務局長の鈴木英敬議員が「デジタル・ニッポン2025」の概要を説明。配布された概要資料の冒頭には、大きく次の2点が記されていた。

  • 我が国のデジタル競争力、労働生産性、名目GDP成長率は他国に大きく劣後。この四半世紀のデジタル政策の成果を真摯に反省。
  • デジタル政策をドライバーとした 「経済成長の新たな形」 と 国民所得増加 の実現、そして、 国際社会の DX トップランナーへ。

そして、「次の100 年」へ「デジタル政策2.0」を始動 と赤字で強調されていた。

鈴木議員は「今年は昭和100年なので、次の100年に向けてデジタル政策2.0を始動していく」と述べ、“「デジタル政策2.0」に向けた「デジタル庁2.0」の実現” として、以下の4点をあげた。

  • デジタル庁の役割の創設時の「原点」である「社会全体のDX」を実現する「真の司令塔」へ 。これまでの「行政DX」への取組は一定の成果。
  • デジタル行財政改革会議事務局の令和8年度目途の移管を含め、デジタル庁への人的・財政的リソース配分を「世界と戦える」にふさわしいものに。
  • デジタル大臣は、AI政策は言うまでもなく、サイバーセキュリティも一元的に担当 するべき。
  • デジタル庁の政策予算の大幅拡充、デジタル基盤の開発・運用を担う外部関係機関との連携強化を行うために必要な予算もあわせて十分に確保すべき。

さらに特に強化すべき機能として、データ利活用、AI、規制見直し、スタートアップ支援、マイナンバーカードの利活用などを軸に、8つの機能をあげた。

マイナンバーで給付金をプッシュ配布

Web3と隣接した領域だが、特にマイナンバーについては、昨今も議論にあがっている「給付金」の配布への活用をアピール。公金登録口座を活用すれば「今までにないスピードで給付を行うプッシュ型財政支援」が可能になると強調した。

つまり、現状、給付金などを受け取るには、申請が前提になっているが、マイナンバーの仕組みを活用すれば、申請を必要とせずに該当する人に国からプッシュ型で送ることが可能になる。しかも迅速に、低コストで実現するということだ。

その後は、各分野の取り組みを担当の主査議員が発表。データ戦略、AI、デジタル人材育成、サイバーセキュリティ、web3、防災DXの順に説明した。

web3WG副主査・森下議員が説明

web3については、主査の塩崎彰久議員に変わって副主査の森下千里議員が説明を行った。

〈自民党web3WG副主査・森下千里議員>

概要資料では、

  • 暗号資産を新たなアセットクラスに
  • web3を新たな価値創造の手段に

の2点があげられていた。

「暗号資産を新たなアセットクラスに」は、基本的には、自民党web3ワーキンググループ(WG)の取り組みなどで伝えてきたものだ。森下議員は「1200万口座は、FXの口座開設数よりも多いと聞いている。新たなアセットクラスとして社会に位置づけることを目指したい」と述べた。

「web3を新たな価値創造の手段に」については、特に「地方創生の文脈で、デジタルとweb3の力は大変大きいと考えている」と述べた。例えば、セキュリティ・トークン(ST、あるいは「デジタル証券」)は、NISA対象化に向けた制度整備を求めている。

円建てステーブルコインを推進

各担当の説明後の質疑応答では、個人情報保護法に関する質問が出たほか、米国で議論されている「国家ビットコイン準備金」構想について、平井議員は「ビットコインだけを考えてみると金と同等に非常に安定した資産であることは間違いない。まずはETFの中に何を入れていくかという議論がまず進むと思う」と述べ、次のように続けた。

「そのうえで、国家が買い上げるかどうか、資産の中に持つかという議論はまた別の観点。今のところ、アメリカも最終的にどうなるかわからない。我々も今はまだ検討している段階ではない」

ビットコイン準備金については様子見といったところのようだが、一方で「円に裏打ちされたステーブルコインの流通に関して言うと、これはもう、相当具体的に力を入れて進めて行きたい。ドル建てのステーブルコインだけで進めるというようなことはあってはならないと考えている」と述べた。

3月末にUSDCの取り扱いが始まり、日本でもドル建てステーブルコインが流通することになった。国産の、円建てステーブルコインも登場が期待され、4月はじめには、三菱UFJ信託銀行が発行を準備していると報じられた。

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平井議員の発言を聞く限り、政治サイドは円建てステーブルコインを積極的に進めていきたい模様だ。ドル建てステーブルコインの人気は、いわばアメリカの「ドル覇権」を拡大するものであり、日本の国益、経済安全保障上からは円建てステーブルコインを流通させていくことは重要になる。

冒頭の挨拶で平井議員は「この政策(デジタル・ニッポン2025)は今後、自民党の選挙公約や予算、骨太の方針に反映されると考えている」と述べていた。「デジタル・ニッポン2025」はこの後、石破首相、平デジタル大臣に提言される予定だ。

|文・写真:増田隆幸