ステーブルコインに注力するリップル、XRPの役割は終わりか──RippleXマーカス・インファンガー氏に聞く

伝統的金融との融合、拡大するRWAトークンの決済手段としてのステーブルコイン「RLUSD」の役割──リップルが6月10日〜12日、シンガポールで開催したXRPレジャー(XRPL)のカンファレンス「Apex 2025」は、そうしたテーマに溢れていた。

最近のニュースを見ても、リップルの「RLUSD」への注力は明らかだ。では、XRP(エックス・アール・ピー)はどうなるのか、決済手段としての役割はもう終わりなのか、また日本ではSBIと強固な関係を築いているが、USDCの普及を推進するSBIとはライバル関係になってしまうのか。

カンファレンスを取材して浮かんだ疑問を、XRPL開発者の支援・エコシステム構築を担うRippleXのシニア・バイス・プレジデント、マーカス・インファンガー(Markus Infanger)氏に聞いた。

トランプ政権の影響は

──トランプ政権の誕生でリップルを取り巻く環境はどのように変化したか。

インファンガー氏:全体的には非常にポジティブだ。新政権の暗号資産(仮想通貨)に対する新たなアプローチが、特に米国で多くの機会を生み出している。これまで米国はこのテクノロジーに対して規制の観点からやや遅れを取っていただろう。世界最大の経済圏がこのテクノロジーを徐々に支持し始めていることは、世界全体にとっても良い兆しだと思う。

ただし、私たちの注力は常にグローバル。ブロックチェーン技術自体はグローバルであり、XRPレジャー(XRP Ledger)もまたグローバルだ。私たちは世界中に拠点を構え、各国の規制当局と連携している。アメリカが盛り上がっているからといって、APAC(アジア太平洋)から手を引くことはない。APACはXRPコミュニティ、XRP Ledgerエコシステムにとって非常に重要な地域だ。

XRP ETFの見通しは

──リップルのガーリングハウスCEOは、2025年後半には「XRP ETF承認の波が来る」と語っていた。現在の見通しは。

インファンガー氏:XRPは長い歴史を持つデジタル資産の1つだ。特に送金などで実世界でのユースケースが証明されており、日本を含めた多くの市場で明確な規制を受けている。アメリカでは、裁判所によって規制の明確性を獲得した数少ない暗号資産の1つだ。

XRPを中心としたデジタル資産インフラ、金融インフラの構築が国際的に進展しており、香港やブラジルなどでも取り組みは進んでいる。またXRPが現在、時価総額で3〜4位に返り咲いている状況を見ても、デジタル資産を支える金融インフラのさらなる発展と成長がアメリカをはじめ、世界中で期待できるだろう。

──日本では、暗号資産ETFはまだ承認されていない。この点についてはどう捉えているか。

インファンガー氏:日本市場については詳しくないので個人的な見解になるが、日本には魅力的な金融市場の伝統があると思う。かつて私が大手金融機関で仕事をしていたときも日本は重要な市場だった。

だがデジタル資産、特にXRPの人気を考えると、問題は「承認されるかどうか」ではなく、「いつ承認されるか」だ。もちろん規制が大きく関わってくる問題であり、日本においても、規制当局と積極的に対話していきたいと考えている。

RWAトークン化への取り組み

──RWA(現実資産)のトークン化は業界の主要トレンドとなりつつある。リップルはどのように取り組んでいくのか。

インファンガー氏:RWAトークン化は、私が強い情熱を注いでいるテーマであり、より生産性の高い金融システムを構築したいと考えて私はリップルに参加した。トークン化は、そうした目標を実現するための入口、あるいは主要なイネーブラー(推進要因)だと感じている。

この2、3年を振り返ると、金融機関はブロックチェーン技術を実験やPoC(概念実証)ではなく、実際の課題を解決する手段として認識し始めている。具体的には、担保管理や財務管理、ステーブルコインを活用した決済などでの活用を目指しており、リップルは伝統的金融機関のパートナーとして非常にユニークなポジションにあると認識している。

最近では、世界最大規模のコマーシャル・ペーパー(CP)発行企業であるグッゲンハイム・トレジャリー・サービス(Guggenheim Treasury Services)と提携、XRPレジャー上でデジタル債権を発行して、貿易金融や貿易サプライヤーの事前資金調達などのユースケースに活用することを模索している。

RLUSDの日本デビューの可能性

──日本でもステーブルコインの流通が、まだ小規模だが始まった。リップルが手がけるステーブルコイン「RLUSD」を日本市場に投入する計画はあるか。

インファンガー氏:RLUSDは2024年末にローンチされ、現在では時価総額は3億ドルに達し、順調なスタートを切っている。これは、コンプライアンスを重視した、透明性の高い、機関投資家向け米ドル建てステーブルコインの需要が存在することを証明している。

私たちは今、パートナーシップを深化させ、さまざまな国や地域での採用を促進できる方法を検討している。日本は世界第4位の経済大国であり、デジタル資産インフラへの統合を進めることは非常に理に適っている。

RLUSDはすでにMoonPayやRevolut、Bitstampなど、多くのデジタル資産取引所に上場している。同様の動きを日本市場でも実現したいと考えている。

RLUSDとXRPは両立できるのか

〈インタビューの前には、メインステージでのセッションに登壇〉

──RLUSDが決済のユースケースで普及することで、XRPの役割が低下する恐れはないのか。

インファンガー氏:私たちはむしろ逆と考えている。RLUSDは冗長性を提供する。私たちの決済プロダクトでは、毎年数十億ドル規模でXRPが使われている。さらにRLUSDの導入は、より多くの決済ユースケースを可能にし、選択肢を広げる。RLUSDの普及は、XRPの役割を弱めるのではなく、むしろ強化・支援するものと考えている。

XRPがRLUSDのような高品質の金融資産と取引できるようになることで、XRPエコシステムに流動性が提供される。XRPレジャー上の他のステーブルコインと同様に、RLUSDとの取引は、XRPの流動性を活性化させる「フライホイール効果」をもたらす。

XRPはXRPレジャー上でガス(取引手数料)トークンとしての役割を担っており、特別なポジションを持っている。さらに、自動ブリッジ機能のような特徴もある。これは流動性の低い2つの資産があった場合、XRPが自動的に仲介して取引を成立させる仕組みだ。

実際、RLUSDのローンチ以降、XRPレジャーでのXRPの流動性が増加している。つまり、互いに相乗効果をもたらしている。RLUSDとXRPの関係は、非常に良好なシンビオティック(共生的)な関係だと考えている。

──日本市場では、XRPは個人投資家の間で高い人気を誇っている。今後、XRPの成長戦略をどのように描いているか。

インファンガー氏:まず伝えておきたいことは、XRP市場はリップルがコントロールしているわけではないことだ。仮にリップルがなくなったとしても、XRPは存在し続け、成長していくと信じている。

リップルは、常に日本を重要な市場と捉えている。SBIとの以前からの戦略的パートナーシップはもちろん、昨年は日本・韓国の開発者を対象としたファンドを立ち上げ、最近では、日本貿易振興機構(JETRO)とパートナーシップを締結した。ブロックチェーン技術を使って、日本の社会や経済に新たな価値を生み出すプロジェクトを支援することが目的だ。

USDCを推進するSBIとはライバル関係に?

──SBIは今、USDCの普及を推進している。ステーブルコイン市場で競合することにならないか。

インファンガー氏:暗号資産業界の他の多くの事例と同様に「競争と協調の共存(co-opetition)」と考えている。

伝統的な金融市場と比べると、暗号資産はまだ非常に小規模な業界であり、1つの企業だけでなく、業界全体を浮上させるための上昇潮流のような動きと考えている。ステーブルコイン市場は現在3500億ドル規模だが、今後2.5兆ドル〜3兆ドルにまで成長すると予測されている。私たちは、RLUSDのようなコンプライアンスを遵守し、透明性の高いステーブルコインには確実にニーズがあると確信している。RLUSDはニューヨーク州のトラスト・チャーター(信託憲章)の下で運営され、透明性のメカニズムが他のステーブルコインとは明確に違う。

実は私たちがRLUSDをローンチしたとき、長年にわたってリップルの決済プロダクトを使用してきた既存の金融機関や決済サービスプロバイダーからの強い需要がすでに存在していた。彼らからは「リップルはステーブルコイン発行に興味はあるか?」との声が多数寄せられていた。

一方で、XRPレジャーの開発者コミュニティからも「ステーブルコインを活用したユースケースを構築したい」との声があった。私たちはそうしたニーズに応えた。

RLUSDが、投機的な用途ではなく、実際の金融ユースケースで活用されることを期待している。RWAトークン化においては、決済資産が必要であり、RLUSDがその役割を果たすと考えている。

リップルは、伝統的金融機関との広範な関係と強い実績を持っており、非常にユニークなポジションにあると考えている。金融機関にとっては、ワンストップのソリューションプロバイダーといえるだろう。伝統的金融機関は、RLUSDを既存ビジネスにおける摩擦を解決する手段として活用することに大きな関心を示している。とてもエキサイティングな状況だ。

〈金融機関での20年以上のリーダーシップ経験を持つインファンガー氏〉

|文・撮影:増田隆幸