教育支援からまちづくりまで──島根発、デジタル公共財とメタバースが描く新しい地域のカタチ【セミナー現地レポート】

CoinDesk JAPANを運営するN.Avenueは7月18日、ブロックチェーンやNFT、DAO(分散型自律組織)などの活用が地方創生に果たす役割について考えるイベント「島根発!Web3で加速する地域創生〜DXの先にある、持続可能な未来への共創〜」を島根県民会館で開催した。
経済産業省中国経済産業局が共催、島根県が後援した本イベントでは、メタバースを活用した不登校支援や教育にDAO(分散型自律組織)を取り入れた取り組みを行う事業者らが登壇。Web3技術が不登校支援や教育といった身近な社会課題にどう実装されつつあるかが紹介された。
みんなでつくる「デジタル公共財」
セッションの1人目には、島根県地域振興部地域振興課デジタル戦略室の望月恵氏が登壇。人口減少や過疎化、高齢化といった日本全体の課題が先行する県内で、Web3技術の果たす役割について行政の立場から語った。
望月氏は、これまで行政が中心に担ってきたサービス領域と民間企業や住民が担う領域との間に「協調領域」を作る重要性を指摘。共創の場を「デジタル公共財」として構築していくビジョンを提示した。
実例として、同県の中山間地域では郵便局員が配達の際に高齢者の見守りを兼ねるなど、既存資源を重ね合わせたサービスに取り組んでいる事例を紹介し、こうした現場にWeb3技術を活用する余地があると述べた。国の交付金制度でもブロックチェーンやNFTの活用が進められており、制度面からも追い風が吹いているという。
また、街づくりにも言及すると、地域内外のステークホルダーを巻き込める仕組みとしてDAOのモデルが活用可能ではないかとの見方を示していた。
メタバースで広がる学び、学習履歴を記録
2人目に登壇したのは、出雲市を拠点にeスポーツやメタバースを活用した不登校児童支援に取り組む木村一彦氏。県のeスポーツ連合の事務局長を務める傍ら、県内でICTを活用した教育支援も実践している。

木村氏はまず、eスポーツが単なる娯楽ではなく、世界的に注目される競技であると強調。総額93億円の賞金がかけられるWorld Cupなど国際大会が開催されるほどの規模を持ち、全世界で1億3000万人に及ぶ競技人口がいると紹介した。
文部科学省の調査によると、全国の不登校児童生徒は約34万人。島根県内でも2500人以上にのぼり、不登校率は全国でも上位に入るという。こうした現状を踏まえ木村氏は、2010年以降に生まれたα(アルファ)世代の子どもにとってeスポーツは最も身近な文化の一つであり、不登校支援に有効な手段になり得ると語った。
木村氏は「テクノロジーに抵抗がない」デジタルネイティブ世代に向け、「Fortnite(フォートナイト)」や「Roblox(ロブロックス)」などを通じたメタバース空間に「デジタル教育支援センター」を設置した取り組みを紹介。アバターを介したコミュニケーションや、仮想教室での授業・部活動を通じて不登校児童が参加しやすい学びの場を創出しているという。
実証実験では、デジタル上の黒板や教材を用いた算数・社会・英会話の授業やeスポーツ部活動などを3カ月実施し、参加した16人全員が「もっと続けたい」と前向きな声を寄せたと述べた。
木村氏は最後に、こうした活動にWeb3技術を応用できる展望として、学習履歴やスキルをトークンやNFTとして可視化し、児童が意思決定に関わる「学習コミュニティDAO」の可能性に言及。一方で、ICTリテラシーの格差や制度面の未整備、地域の理解不足といった課題も多く、引き続き地域と連携しながらデジタル拠点の整備と実装を進めていくと語った。
市民参加型で「まず使ってみる」
セッションの最後には、Hiroshima Web3協会理事の進藤史裕氏が登壇。社会インフラの老朽化や災害対応、医療・介護負担の増加といった地域の深刻な課題に対し、DAOやトークンエコノミーの仕組みを用いた市民参加型の新しい解決モデルが有効だと話した。

進藤氏は、街の清掃やイベント運営、インフラ点検などの地域活動に市民が関わり、貢献度に応じてポイントやトークンを得られる「地域貢献ゲーム」のような実証事例を紹介。「共感を通貨に変える仕組み」としてWeb3技術の社会的価値に注目し、地域の担い手不足を補いながら、人々が主体的に関わる新たな市民参加のモデルになり得ると語った。
イベントの締めくくりには、N.Avenue代表取締役社長の神本侑季がモデレータを務め、「島根の未来をWeb3でどうアップデートするか?」をテーマにしたパネルディスカッションが実施された。
望月氏は、Web3やDAOといった仕組みを地域に無理なく取り入れるには、まず課題を深く理解することが不可欠だと述べ、現場主導の取り組みの重要性を強調。木村氏は、Web3技術は教育支援の現場にも有効になり得るとし、「まずは使ってみる」ことが変化の第一歩になると語った。
新藤氏は、子どもや地域住民が意思決定に主体的に関わる環境を設計できることがWeb3の本質であり「使いながら一緒につくっていく」ことが実装の鍵になると話した。会場からは「Web3を活用するには何から始めればよいか」といった質問も寄せられ、参加者の関心の高さがうかがえた。
|文・写真:CoinDesk JAPAN
|トップ画像:左からモデレーターを務めた神本、木村氏、新藤氏、望月氏