三井住友フィナンシャルグループ(三井住友FG)および傘下の資産運用会社、三井住友DSアセットマネジメントは8月1日、都内で「ブロックチェーンと金融イノベーション:デジタルアセットの次世代商品戦略」と題したグループ勉強会を開催した。三井住友銀行、SMBC日興証券、SMBC信託銀行など各社の職員らが参加し、トークン化資産や暗号資産(仮想通貨)を活用した次世代商品戦略について事例や知見を共有した。
開会のあいさつに立った三井住友FGデジタルソリューション本部長の白石直樹氏は、2008年のビットコイン(BTC)誕生からの技術進化を振り返り、近年は異なるブロックチェーン間での資産移転やステーブルコイン(SC)の活用、不動産などRWA(現実資産)のトークン化が進んでいると指摘。国内でも暗号資産に関する税制改正や法整備の議論が進み「盛り上がりを見せている」と述べた。

そのうえで、技術革新と規制整備が同時に進む今こそ、グループ全体で新たなビジネスを検討する意義は大きいとし、今回の勉強会の重要性を語った。

新しい金融決済インフラの構築
続いて、日本銀行で決済機構局参事役などを務めた後、7月に同グループのデジタル戦略部部長に就任した下田尚人氏が「ブロックチェーン×金融の未来」をテーマに講演した。下田氏は日銀在職中に関わったG7(主要国首脳会議)やFSB(金融安定理事会)などの国際会議や各国当局との協議を振り返り、ブロックチェーンが金融システム全体を変えるには長い時間がかかるとの見方が最近までは一般的だったと振り返った。

しかし、ブロックチェーンの技術進歩や、トランプ大統領就任に伴う政策転換を契機に「潮目が変わった」と説明。現在のブロックチェーンエコシステムは伝統的な金融システムに比べて規模はまだまだ小さいものの、「速いベースで成長しており、今後、ターボチャージがかかったように成長が加速するかもしれない」と述べた。
中長期的な展望としては、ブロックチェーンを通して低コストで24時間稼働する金融インフラが構築され、安価でアクセスしやすいサービスが提供される可能性に触れたうえで、世界のフロントランナーを目指すためにも、グループ内での知見共有が不可欠だと結んだ。
「資産」の効率性を革新する技術
「Web3が拓く次世代経済圏」をテーマに講演したのは、Web3領域のリサーチ事業などを手掛けるHashHub代表取締役社長で、SBI証券戦略事業推進部次長の加藤諒氏。
加藤氏はもともと野村證券でM&A業務に従事した後、SBIグループでは伝統金融とWeb3領域の双方に携わっている。自身を既存金融とWeb3の「ハイブリッド」と表現し、金融のプロの視点からブロックチェーン技術がもたらす可能性について解説した。

加藤氏は、AIが「生産性を革新する技術」である一方、Web3・ブロックチェーンは既存のルールや構造を変え「資産(アセット・モノ)を革新する技術」だと説明。取引の即時決済やスマートコントラクトによる事務自動化、改ざん不可能な記録による透明性の確保が、従来の金融システムの非効率性を解消する可能性があると述べた。
加藤氏は最後に、ビットコインの時価総額が金(ゴールド)やApple株に次ぐ規模に成長していると述べ、2100万枚という発行上限が迫るなかで資産としての争奪戦がますます激化するとの見方を示した。
ST・SCが拓く国内市場の可能性
セキュリティ・トークン(ST)やステーブルコイン(SC)の発行・管理基盤を手がけるプログマ(Progmat)の代表取締役 Founder and CEO、齊藤達哉氏は「金融×デジタルアセット融合の最前線」をテーマに国内市場や世界の潮流について解説した。
三菱UFJ信託銀行から独立した齊藤氏は現在、三井住友FGなどからも出資を受け、権利や資金などあらゆる価値をデジタル化するプラットフォーム構築を進めている。齊藤氏はデジタルアセットを「分散型台帳上で電子的に移転可能な財産的価値」と定義し、世界的に証券取引や資金決済がSTやSCに移行する一方、暗号資産はETF化が進むなど「金融領域と双方向に融合しつつある」段階だと位置づけた。

ETFについては、海外ではブラックロックなどがカストディ事業者と連携して新たな資金流入を呼び込んでいる事例を紹介。海外への資金流出や国内プレイヤーの地盤低下を避けるためにも、日本でも信託銀行などと連携したETF組成の仕組みが欠かせないと述べた。
さらに、国内でも「トークン化MMF(Monry Market Fund)」組成に向けた検討が具体的に進んでいることや、暗号資産の規制を資金決済法から金融商品取引法に移す議論が進んでいることに触れ、2026年以降の市場や関連ビジネスに大きな影響を及ぼすとの見通しを示した。こうした点を踏まえ齊藤氏は、国内市場の成長には技術革新だけでなく、規制や実務面の整備と「金融グループが本気になること」が重要だと訴えた。
機関投資家参入の鍵を握るカストディ
講演の最後に登壇したのは、機関投資家などにデジタル資産のカストディサービスを提供するSBI Zodia Custody代表取締役の狩野弘一氏。シティバンクグループで20年間にわたり為替トレーディングに携わった後、2019年からブロックチェーン分野に注力しているという。

狩野氏はまず、これまでのデジタル資産市場が個人投資家主導で拡大してきた歴史に触れた。そのうえで、即時決済や国際送金といったブロックチェーンの利点が注目される一方、国ごとに異なる規制や定義が金融機関参入の障壁となっていると指摘。日本では2018年のコインチェック事件を機に資金決済法の改正が進んだが、国際的には暗号資産を取り巻く制度整備は進んでおらず「ルールが明確でない」のが現状だと述べた。
そのうえで、暗号資産の時価総額が2028年までに4.5兆ドルを超えるというビットワイズ社の予測を引き合いに、デジタル資産のさらなる普及には「分別管理による顧客資産保全が不可欠」と指摘。交換業者が自らカストディを担うのではなく、資産保全やマネーロンダリングおよびテロ資金対策(AML/CFT)の観点からも、独立したカストディ事業者の存在が重要になると述べた。特にETFなどを通じて兆単位の資金が流入した際、流出リスクを取引所が「全額補填」する従来モデルには限界があるとし、法的責任を明確にする必要性を訴えた。
勉強会の最後には、三井住友DSアセットマネジメント副社長執行役員兼COOの伊木恒人氏が挨拶。Web3の世界はまだ形成途上だが「大きな可能性が横たわっている」と話し、本勉強会が数年後に振り返った際に「転換点」として位置づけられることを期待すると締めくくった。

|文・写真:橋本祐樹


