リップルのステーブルコイン「RLUSD」、日本導入の勝算と差別化戦略──戦略を主導するキーパーソンに聞く

2025年8月22日、SBIグループとリップル社は、米ドル建てステーブルコイン「Ripple USD(RLUSD)」を日本で発行・流通させるための基本合意書を締結したと発表した。すでに取扱いが始まっている「USDC」、そして、この秋には円建てステーブルコイン「JPYC」の登場が期待されるなど、競争が激化しつつある日本のステーブルコイン市場にリップルはどのような戦略で挑むのか。

リップルのステーブルコイン事業をシニア・バイスプレジデント(SVP)として統括するジャック・マクドナルド(Jack McDonald)氏に、日本市場での今後の計画、ライバルとの差別化、グローバル戦略における日本の位置づけなどを聞いた。

RLUSDこそが「ゴールドスタンダード」

──SBIグループとの提携を発表した。今後のタイムラインとスキームはどうなっているのか。

マクドナルド氏:SBIとの既存のパートナーシップをさらに深め、RLUSDを日本市場に展開できることを大変嬉しく思っている。今日(インタビュー当日)も彼らと会い、プロジェクトはすぐにでも着手する段階にある。

最終的な導入タイミングは、規制当局の承認次第となるため、現時点で明確なタイムラインを示すことは難しい。しかし、このプロジェクトは我々にとって非常に優先順位が高いものだ。私たちは日本市場と、RLUSDがもたらす成長の機会に非常にエキサイトしており、総力を挙げて取り組んでいく。

──日本ではすでにサークルのUSDCが導入され、円建てのJPYCも今秋の登場が期待されている。RLUSDの差別化ポイント、優位性はどこにあるのか。

マクドナルド氏:目の前には大きな可能性があると信じている。日本市場はこれからも成長するだろうし、適切な規制があり、政府も前向きだからだ。

そして、私たちはRLUSDこそがステーブルコインにおける「ゴールドスタンダード」(最高水準)であると確信している。

USDCとRLUSDは両立するのか

──SBIとの連携におけるターゲット、戦略は。

マクドナルド氏:私たちの戦略は、リテール(個人)ではなく、一貫して法人や機関投資家市場に焦点を当てることにある。

SBIは日本の銀行や金融機関との間に強固なネットワークと高い評価を築いており、彼らとの連携を通じて法人市場にアプローチできることを非常に楽しみにしている。

──SBIはUSDCとRLUSDの双方を取り扱うことになる。これはSBI側の整理の問題かもしれないが、どういう使い分けになるのか。

マクドナルド氏:SBIがどう考えているかはわからないが、USDCとRLUSDには複数の違いがある。

まず、RLUSDは規制上の強固な基盤を持っている。RLUSDは、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)から認可を受けた信託会社によって発行される。これは、顧客資産を保護する「受託者」(Fiduciary)としての責任を負うことを意味し、資金移動業者ライセンスで運営される他のステーブルコインよりも高いレベルの保護を提供している。

もうひとつは、「ワン・リップル」という統合的なエコシステムだ。例えば、サークル社はステーブルコイン事業が中核と認識しているが、リップルは決済、カストディ、トレーディング、プライムブローカレッジなど多岐にわたる機関投資家向けサービスを展開している。

ステーブルコインは、これらすべてのサービスと連携する1つの要素だ。包括的なソリューションを提供できる点が、私たちの他にはない大きな強みとなる。

RLUSDにとって良いことは、XRPにとっても良いこと

──RLUSDと、リップル・エコシステムのネイティブトークンであるXRPは、どのように役割が分担されるのか。

マクドナルド氏:RLUSDとXRPは、競合するのではなく“相互に補完し合う関係”にある。

我々は、顧客に選択肢を提供する。グローバル決済において、ボラティリティのある暗号資産をブリッジアセットとして使いたい顧客もいれば、米ドルに裏付けられた安定的なステーブルコインを使いたい顧客もいる。

そして重要なことは、RLUSDがXRP Ledger(XRPL)上で発行・取引されるたびに、その取引手数料としてネイティブトークンであるXRPが私用される点だ。

RLUSDの利用が拡大すればするほど、XRPLの活動が活発になり、XRPの需要も高まる。「RLUSDにとって良いことは、XRPにとっても良いこと」だ。

──リップルのグローバル戦略において、日本市場はどのように位置づけにあるのか。

マクドナルド氏:これまでも日本は、リップルにとって重要な市場であり続けている。もともと人気が高かったことに加え、SBIとの長年にわたる戦略的パートナーシップも存在している。

日本は世界有数の金融センターであり、グローバル経済におけるその重要性を考えれば、私たちが日本市場で確固たるプレゼンスを築くことは不可欠なことだ。日本にオフィスは設置していないが、SBIとのパートナーシップを軸に、今後さらに日本での活動を拡大していく。

ユースケースはいくつも考えられる

──具体的には、どのようなユースケースを想定しているか。

マクドナルド氏:想定しているユースケースは多岐にわたる。

まず「決済」は極めて重要だ。大規模なグローバル決済は、リップルの事業の中核であり、RLUSDはリップルの決済ネットワークにおいて、すでに最も利用されているステーブルコインとなっている。

次に「資本市場」だ。トレーディングの決済や、プライムブローカレッジにおける担保としての活用が期待される。

「企業財務とSCaaS(Stablecoin-as-a-Service)」の可能性もある。大企業や金融機関が独自のステーブルコインを発行したいと考える際の技術パートナーとしての役割を担うことができる。

「RWA(現実資産)のトークン化」では、XRPL上でRWAをトークン化する際、RLUSDはその取引の入口(オンランプ)と出口(オフランプ)として機能する。

「機関投資家向けDeFi」、つまり安全かつ規制に準拠した形でDeFiに参加するためのツールとしても活用できる。

──日本には現在、外国ステーブルコインには100万円の上限があるが、この規制をどう見ているか。

マクドナルド氏:もちろん、私たちは日本の規制を完全に遵守して事業を行う。100万円という上限は、日本の規制当局がステーブルコインという新しい分野を監督していく上での「第一歩」だと理解している。

当局がリップルのような信頼性の高い発行者の活動を評価し、市場が成熟していくにつれて、いずれこの制限が緩和されることを期待している。金融庁とは、まさにこれから対話を開始する段階だ。

──最後に、日本の潜在的なクライアントやパートナーに向けてメッセージを。

マクドナルド氏:伝えたいことは3つある。

第1に、私たちは日本市場の可能性に心からエキサイトしていることだ。SBIや規制当局と協力し、最高水準のステーブルコインであるRLUSDを日本の皆様にお届けできることを楽しみにしている。

第2に、日本のデジタル資産市場は、ステーブルコインに限らず、これから大きく成長すると確信している。

そして第3に、リップルは単なるステーブルコイン発行者ではないことを伝えたい。「ワン・リップル」として提供する包括的なソリューションこそが私たちの強み。私たちは、この重要なタイミングで日本市場に参入するのに最もふさわしい存在であると自負している。

〈リップルのステーブルコイン事業シニア・バイスプレジデント、ジャック・マクドナルド氏〉

|インタビュー:増田隆幸
|構成・文:瑞澤 圭
|撮影:CoinDesk JAPAN編集部

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