- エルサルバドル政府のビットコイン・オフィスは現地時間8月29日、同国の準備金について保管方法の変更を発表した。
- 当局はこの変更を「量子コンピュータに起因するリスクの軽減」および「将来への備え」と位置付けている。
- ビットコイン業界の重鎮アダム・バック(Adam Back)氏は、今回の変更は健全なビットコインの保管を行っている証左だと述べた。
エルサルバドルは、同国によるビットコインの保管方法を全面的に見直した。そして、今回の変更は現在のセキュリティを強化するとともに、将来発生する可能性のある技術的リスクに備えるものだと述べた。
同日の発表において、同国のビットコイン・オフィスは、国家の準備金すべてを単一のウォレットから複数の新しいウォレットに移管したと明らかにした。各ウォレットの保管可能ビットコイン数は500BTCに制限され、これはいずれかのウォレットが不正アクセスされた場合の潜在的な被害を軽減するためのものである。
当局は、この新しい仕組みは既存の業界慣行を踏襲しつつ、量子コンピューティングの進歩も見据えたものだと説明した。量子マシンは、ビットコインだけでなく、銀行、電子メール、オンライン通信といった日常的なシステムを保護する暗号計算を、将来的に解読する可能性があると当局は指摘した。
懸念されるのは、コインが使用される時だ。ビットコインを移動するには、その資金を保護するデジタル署名をブロックチェーン上で公開する必要がある。現在は安全だが、理論上は、将来の量子コンピュータが公開情報を悪用して秘密鍵を計算し、取引が承認される前にコインを盗む可能性がある。
エルサルバドルは、コインを多くの未使用ウォレットに移すことで、準備金について一度に公開された鍵が多すぎる状態になる可能性を低減している。保有資産の大部分は、現在攻撃できない情報で保護されており、各ウォレットのサイズにも上限を設けているため、たとえ侵害が発生しても準備金全体が危険にさらされることはない。
同政府はまた、透明性を確保するためにすべてを単一のアドレスに保管していた以前の体制が、不必要なリスクを生み出していたことを認めた。そのアドレスは繰り返し使用され、鍵がブロックチェーン上でほぼ常に閲覧可能になっていた。新しいモデルでは、公開ダッシュボードを通じて誰でも複数のウォレットにまたがる準備金を追跡できるため、同じアドレスを繰り返し使用することなく、信頼性を保つことができる。
簡単に言えば、今回の見直しは、1つの巨大な金庫から複数の小さな金庫へと資金を移すようなものである。これらの金庫の鍵は開けられるまで隠されたままで、1つの金庫に大量の現金を保管することはできない。
量子コンピューティングの観点以外からも、これはビットコインの基本的な管理方法に合致している。経験豊富なユーザーは、プライバシーとセキュリティが弱まるため、同じウォレットを繰り返し使用することに対してしばしば警鐘を鳴らしている。また、大きな残高を小さな塊に分割することが推奨されており、こうすることで何か問題が発生した場合の影響を最小限に抑えることができる。
だからこそ、ビットコインの初期におけるパイオニアの1人であり、ブロックストリーム(Blockstream)CEOであるアダム・バック氏は、今回の見直しを称賛した。Xへの投稿で、同氏は資金を1か所に集めて同じアドレスを再利用するのではなく、資金を複数箇所(ビットコイン用語ではUTXOと呼ばれる)に分割することが「一般的に良い方法」だと述べる。
ビットコインの着想源ともなり、サトシ・ナカモトも引用したプルーフ・オブ・ワーク・システム「ハッシュキャッシュ(Hashcash)」を発明したバック氏は、量子コンピュータに関する議論には直接言及しなかった。しかし、同氏のコメントは、エルサルバドルの新たなアプローチが、ビットコインの世界で長年ベストプラクティスとして認められてきた原則を踏まえていることを強調する。
多くの研究者は、ビットコインを脅かすほど強力な量子コンピュータの登場には、まだ10年以上かかると考えている。また、必要に応じてネットワークは新たな防御策を導入する可能性がある。しかし、エルサルバドルはそこまで待つつもりはない。
透明性とより堅牢な保管モデルを基に、エルサルバドルは今後、国家がビットコイン建ての準備金をどう管理すべきかのテストケースとしての地位を確立し、他国が追随できる道を切り拓いている。
|翻訳・編集:T.Minamoto
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|原文:Has El Salvador Made Its Bitcoin Holdings Quantum-Proof? Not Exactly …


