渋谷で開幕したイーサリアムのカンファレンスとハッカソンの祭典「ETHTokyo 2025」で12日、イーサリアム創設者のヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏やイーサリアム財団理事長(president)の宮口あや氏らが登壇した特別AMA(Ask Me Anything)セッション「Japan × Ethereum:TechからRealへ」が行われた。
セッションには、同財団でファウンダーサクセスチームを率いるエイドリアン・リー(Adrian Li)氏とステーブルコイン・RWA(現実資産)担当責任者のアッシュ・モーガン(Ash Morgan)氏も参加。「日本企業・社会として、どのようにイーサリアムを導入・活用していくか?」をテーマに、ブテリン氏らが国内企業の担当者や開発者から寄せられた質問に答えた。
モデレーターは、ブロックチェーンスタートアップの成長支援などを手がけるKudasai取締役の脇田洋平氏とN.Avenue/CoinDesk Japan代表取締役CEOの神本侑季が務めた。セッションでは、地域創生に生かせるWeb3の可能性や規制当局との対話、エコシステム成長の鍵など実務に直結する論点が次々に投げかけられた。
国内のWeb3企業が世界で競争するために、規制当局と業界が取るべき対応を問われた宮口氏は、当局と開発者が対話する必要性を訴えた。

宮口氏は、規制そのものは必ずしも悪いものではなく、必要であると述べたうえで、当局はしばしば金融機関との対話に偏りがちになると指摘。イーサリアムは金融プラットフォームにとどまらず、多様なソリューションを構築できることを踏まえ、金融以外のユースケースを検討する企業や実際に開発を進めるビルダーとも当局が積極的に意見交換する意義を指摘した。
バリデータの集中リスクについて質問を受けたブテリン氏は、イーサリアムでは高いセキュリティとグローバルな分散性をレイヤー1(L1)の最優先事項にしていると説明した。
多くのチェーンが高速化を追求するあまり、バリデータがデータセンターに集中し、ネットワークの集中化を招くリスクがあると指摘。このリスクを回避するため、イーサリアムはクライアントの多様性を確保していると述べた。

そのうえで、高速な取引やスケーラビリティはレイヤー2(L2)が担うべきとの考えを示し、L2間の相互運用性を高めることが、エコシステム成長の鍵になると展望を語った。
若手エンジニアとも暗号技術巡り対話
ブテリン氏は、この日のAMAに先立つ11日にも、ZKP(ゼロ知識証明)に関するミートアップや情報発信を行う日本のオープンコミュニティ「ZK Tokyo」が実施したイベントに参加。コミュニティの若手エンジニアらと、ゼロ知識証明や完全準同型暗号(FHE)がイーサリアムに果たす役割について意見を交わした。
ブテリン氏は、こうした技術がスケーラビリティやプライバシー保護の観点で重要であり、将来的にイーサリアムの利便性を飛躍的に高める可能性があると指摘。ZK Tokyoのメンバーとの対談では、現在の暗号技術の課題や実装における展望についても言及していた。

イーサリアムは2015年にメインネットがローンチされ、今年で10周年を迎えている。8月には、イーサ(ETH)が過去最高値を更新するなど注目を集めた。ただ、国内のイーサリアム上でのプロダクト開発や活用は世界的に見ると限られている現状もある。
この数日間、ブテリン氏は企業担当者や開発者の声に直接耳を傾け、日本での社会実装の可能性について真摯に議論を重ねた。国内のイーサリアム活用がどこまで進展するか、今後の動向に注目が集まる。
|文・撮影:橋本祐樹
|トップ画像:AMAセッションに登壇したヴィタリック・ブテリン氏(中央)


