【第5回更新】暗号資産規制、金商法化へ──金融審議会WG第1回〜第5回の論点総まとめ

11月7日、金融庁の金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ(WG)」の第5回会合が開かれ、暗号資産(仮想通貨)規制のあり方を巡る議論はいよいよ大詰めを迎えている。

この重要な局面を理解するため、これまでの議論の流れを改めて整理しておきたい。

2025年7月から11月にかけて開催された計5回の会合では、暗号資産を投資対象として明確に位置づけ、規制の枠組みを現行の資金決済法から、より投資家保護を重視した金融商品取引法(金商法)へと移行させることの是非を中心に議論が交わされた。

金融庁は金商法への一本化を軸に具体的な制度設計を提案する一方、委員からは暗号資産が抱える本質的なリスクや、国内市場の現状を問題視する慎重な意見も相次いだ。

直近の第5回会合では、事業者から業界の存続を危ぶむ声も上がるなど、緊張感のある議論が続いた。

CoinDesk JAPANが金融庁に確認したところによると、ワーキング・グループの議論終結後は、まず報告書が取りまとめられ、金融審議会の総会での報告を経て、法案化のプロセスに進むのが一般的な流れだという。

今後のスケジュールについて金融庁は、「(暗号資産の法律改正は)早期の国会提出を目指しており、通常国会に法案を出す時の過去の例では、年内中に報告書をまとめているケースが多い」とコメントした。

ここでは、第1回から第5回までの会合で何が話し合われてきたのかを振り返る。

第1回(2025年7月31日)

第1回では、まず議論の出発点として、金融庁が同年4月に公表済みのディスカッション・ペーパーの内容を改めて説明した。その上で、これまでの規制の経緯と現状の課題が共有され、今後の検討の方向性が示された。

[第1回WG 事務局説明資料から]
  • 現状認識と課題の共有: 金融庁は、国内の暗号資産交換業者における口座開設数が延べ1200万口座を超えるなど、暗号資産の投資対象化が進展している状況を報告。その一方で、詐欺的な投資勧誘も多数発生しているとし、情報開示の充実、利用者保護、価格形成の公正性確保などが喫緊の課題であるとの認識を示した。また、企業が財務戦略としてビットコインを大量保有する「トレジャリー会社」の動向も話題に上がり、株式市場側で過剰な期待が生まれている可能性も指摘された。
  • 規制見直しの方向性: これまでの資金決済法を中心とした規制の変遷を振り返った上で、暗号資産が投資対象としての性格を強めている現状を踏まえ、投資家保護を目的とする「金商法の仕組みやエンフォースメントを活用することも選択肢の一つ」として、規制の枠組みを見直す方向性を提示した。
  • 暗号資産を分類: 今後の検討にあたり、暗号資産を、資金調達の手段として発行される「類型①(資金調達・事業活動型)」と、ビットコインのように特定の管理者がいない「類型②(非資金調達・非事業活動型)」の2つに分類し、それぞれの性質に応じた規制を検討する考えが示された。

関連記事:金融庁「暗号資産制度WG」が初会合、金商法移行など本格議論へ──ビットコイントレジャリー事業もテーマに

第2回(2025年9月2日)

金融庁が暗号資産規制の「金商法」への一本化を正式に提案。これに対し、委員から国内のIEO(Initial Exchange Offering)の実績を問題視する強い慎重論が提起された。

[第2回WG 事務局説明資料から]
  • 金商法への一本化を提案: 金融庁は、現行の資金決済法に加えて金商法の規制対象とする場合、「二重規制となり規制の複雑化や事業者の負担が生ずるおそれがある」と指摘。その上で、「基本的に金商法のみで規制することが適当ではないか」との見解を示した。その際、暗号資産は有価証券とは本質的に性質が異なるとし、金商法の中で「有価証券とは別の規制対象」として位置付けることを提案した。
  • IEO実績への厳しい指摘: この提案に対し、京都大学の岩下直行教授(元日本銀行金融研究所)が、国内のIEO案件について、そのほぼ全てが公募価格を大きく下回り、中には90%以上も価値を失い「ほぼ無価値になっている」と指摘。この「壊滅的な実績」を持つ商品を一般国民向けの投資対象として金商法の枠組みで扱うことに対し、「正気の沙汰とは思えない」と強い懸念を表明した。

関連記事:金融審議会、暗号資産の金商法化に慎重論も──委員、IEO実績を問題視

第3回(2025年9月29日)

第2回の慎重論を受け、金融庁は投資家保護を強化するための具体的な方策として、発行者が開示する「ホワイトペーパー」の法的な位置づけの強化と、不公正取引規制の整備を提案した。

[第3回WG 事務局説明資料から]
  • ホワイトペーパーの法的文書化: 金融庁は、ICO(Initial Coin Offering)やIEOの際に投資家へ提示されるホワイトペーパー等の情報提供文書を法的に位置づけ、その正確性を担保する方針を示した。
  • 罰則・賠償責任の導入: この実効性を確保するための方策として、「発行者や暗号資産交換業者により作成される情報について、虚偽記載や不提供への罰則や損害賠償に係る民事責任規定等を設ける」ことを提案。これにより、ホワイトペーパーは株式発行における目論見書のように、法的な重みを持つ文書へと性格を変えることが意図されている。また、虚偽記載等があった場合には、国内の全ての暗号資産交換業者での取扱いを停止できる措置を設けることも考えられるとした。
  • インサイダー取引規制の整備: 不公正取引への対応として、暗号資産のインサイダー取引規制の導入を検討する方向性を示した。

関連記事:金融庁、暗号資産「ホワイトペーパー」の法的文書化を提案──虚偽に罰則・賠償責任も

第4回(2025年10月22日)

金融庁は、銀行による投資目的での暗号資産保有の解禁などを盛り込んだ制度改正案を提示。これに対し、委員からは暗号資産が内包する構造的なリスクを指摘する声が相次ぎ、再び慎重な検討を求める意見が出された。

[第4回WG 事務局説明資料から]
  • 銀行による暗号資産投資の解禁案: 事務局から、銀行・保険会社本体が投資目的で暗号資産を保有することや、これらの金融機関の子会社である金融商品取引業者が暗号資産の発行・売買・仲介を行うことを認める案が提示された。
  • 構造的リスクへの警鐘: 京都大学の岩下教授は、暗号資産がマネーロンダリングやランサムウェアなど、実社会における「犯罪を支える基盤」として定着している現実を指摘。規制された交換業者と匿名のオンチェーン取引は切り離せず、市場を完全にクリーンにすることは原理的に不可能であるとし、伝統的金融システムに暗号資産特有のリスクが波及する危険性について警鐘を鳴らした。
  • セキュリティ体制への懸念: ジョージタウン大学研究教授の松尾真一郎氏は、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)が示した説明資料について、技術的理解が不十分であると指摘し、業界団体のセキュリティ管理体制に強い懸念を表明した。

関連記事:銀行の暗号資産投資解禁に慎重論──金融審議会でリスク指摘相次ぐ

第5回(2025年11月7日)

第5回会合では、これまでの議論の整理が行われるとともに、新たに「暗号資産の借入れ」を規制の視野に入れる事務局案が提示された。金融庁が示す規制強化の全体像に対し、委員や事業者からはその実効性やバランスに対する懸念が指摘された。

[第5回WG 事務局説明資料から]
  • 新たな論点「借入れ」への対応:新たに「暗号資産の借入れへの対応」という項目が盛り込まれた。これは、利用者が暗号資産を貸し出して対価を得るレンディングやステーキングといった運用ビジネスを念頭に置いたもの。事務局は、信用リスク等を踏まえた体制整備を事業者に義務付けてはどうかと提案した。
  • 委員からの懸念: 規制強化案の全体像に対し、委員からは現実的な課題を指摘する声が上がった。有吉委員は、一連の規制案が「重厚で、全体として多くの対応を求める内容になっている」と述べた。自主規制機関の体制整備が追いつかない現状では、ビットコインのような基本的な暗号資産の取引さえ行いにくくなる事態も懸念されるとした。岩下委員は、オンチェーン取引までは統制不可能であり、規制には「限界」があることを報告書に明記すべきと求めた。
  • 事業者の声: 事業者サイドからも切実な声が上がった。日本ブロックチェーン協会代表理事の加納裕三氏は、規制の方向性に理解を示しつつも、現状の提案は「イノベーション1、規制9ぐらいの肌感覚」であり、非常に厳しいとの認識を表明。暗号資産交換業者の9割が赤字という経営実態に触れ、このままでは業界が「ほぼ存続できない」と強い危機感を示した。

関連記事:委員「重厚すぎる」、事業者「存続できない」──暗号資産規制に懸念噴出、金融審議会

本ワーキング・グループでの議論は今後も継続される。次回以降の会合の内容も、開催され次第、本記事に追記していく。

|文:栃山直樹
|画像:Shutterstock
※第5回を追加し、更新しました。2025年11月10日11時55分。

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