デジタル資産トレジャリー(DAT)企業、あるいは暗号資産トレジャリー企業は、上場株への投資という形で暗号資産へのエクスポージャーを提供する。だがそこに“ハイプ(盛り上がり)”は実態に見合っているのだろうか?
DATは、デジタル資産の購入を明確な優先事項とする上場企業を表す。新たに登場した概念だが、比較的長い歴史を持っている。
DATの起源
1989年、Michael Saylor(マイケル・セイラー)氏はソフトウェア企業としてMicroStrategy(マイクロストラテジー)、現在のStrategy(ストラテジー)を創業。同社は一定の成功を収め、1998年に上場。だが2000年に株価が劇的に崩壊し、時価総額の99%以上を失って、SEC(米証券取引委員会)の調査を受けた。
意外なことに、Strategyは倒産しなかった。今もソフトウェアやサービスを細々と提供している。だが、本当の転機は別のところにあった。同社は2020年にビットコイン(BTC)の購入を始め、今も買い続けている。
当初、この動きは熱狂的な布教活動に思えた。セイラー氏はビットコインを買い、テレビに出て他の人々にもビットコイン購入を勧めた。それが同社の投資価値を押し上げた。しかし時間が経つにつれ、別の現象が現れた。Strategyがビットコインを買い増し、かつビットコイン価格が上昇し続けるにつれて、同社は「ビットコイン箱」になっていった。ソフトウェア事業の痕跡はわずかに残っているに過ぎない。
追随者が登場
この時点で、同社の株価や時価総額はビットコイン価格に収れんしていくはずだった。だがそうはならず、株価はプレミアムで取引された。こうした状況を見て、利ざやを狙うプロモーターたちが“眠りから覚めたように”動き出し、DAT(デジタル資産トレジャリー)というモデルが生まれた。
DATの純資産価値(NAV)と時価総額の倍率(比率)は「mNAV(multiple of NAV)」と呼ばれ、ある種の特別なパワーを生み出す。1ドルでデジタル資産を買い、時価総額が2ドル増えるなら、他になにもする必要はない。株式を売ったり、借り入れを行ったりして資金を調達し、それをデジタル資産の購入に投入すれば株主価値を増やせる。こうした動きが続く限り、企業にとっては“マネープリンター”、つまりお金が増え続ける仕組みとなる。
Strategyがこの戦略を続けるなか、他の企業も気づき始めた。自分たちも同じことをすれば良いのではないかと。そしてDATを作り始めた。
Mara Holdings(マラ・ホールディング)のようないくつかの企業はBTCを購入し、その後、他の暗号資産を購入する企業も登場した。例えば、Bitmine Immersion Technologies(ビットマイン・イマージョン・テクノロジーズ)はイーサ(ETH)を、Forward Industries(フォワード・トレジャリーズ)はソラナ(SOL)を購入している。

DATのメリット
これらのプロジェクトに関わるプロモーターたちにとって、メリットは明確だ。株式価値が非対称に増え、しかも公開市場で取引されることで、短期間で利益を得ることができる。BTCはもともと流動性が高いが、それ以外のほとんどのデジタル資産にとっては、資産を買い支える“パブリックな受け皿”を作ることは、資産価格を押し上げ、一気にエグジット(出口)を確保できる可能性を秘めている。この構図こそ、最近DATが急速に広がっている大きな理由だ。自社株が低迷している企業の経営者にとっては、なおさらだ。
では、購入側にとってはどうだろうか? mNAVが膨らむ前にDAT企業の株を手に入れられるなら悪くない。企業がDAT戦略を実行し、価値を高めていけば、株主として利益を得られる可能性がある。しかし、公開市場で株を買う一般投資家は、多くの場合、すでにmNAVがプラスになった後で購入することになり、投機的な色彩が強くなる。基礎となる資産に上乗せされた“プレミアム”を買う形になり、プレミアムは簡単にしぼむ可能性がある。
以前、Strategy株は、顧客のためにBTCを購入することに慎重、あるいは法的に購入できなかった金融機関にとって価値があった。BTCの代わりにStrategy株を保有すれば良かった。
考えるべきリスク
しかし、そのような“タブー”は薄れ、規制当局の否定的な姿勢も緩和された今、この手法は以前ほど魅力がなくなりつつある。同時に、より直接的にデジタル資産に投資できるETF(上場投資信託)なども承認されており、DATの優位性はさらに薄まりつつある。
規制面の問題もある。BTCは証券にはあたらないため、Strategyは「1940年投資会社法」が定めるファンド(’40 Act Fund)には該当しない。だが、他のデジタル資産を保有するDATにも、同じ論法が適用されるかどうかは明らかではない。将来、業界に厳しい姿勢を取る政権が誕生すれば、状況が変わるかもしれない。
さらに、DAT企業が借り入れを行って資産を購入している場合、市場が不安定になれば清算が発生し、リスクが高まる恐れがある。DAT企業の“プレミアム”は、すでに崩れ始めている兆しもある。

こうした複数のリスク要因を理解することは、DAT企業株の購入を考えるうえで極めて重要だ。現在の環境では規制リスクは大きくないと考えられるものの、プレミアムが崩壊するリスクはあり、購入時にDAT企業のmNAVを把握することが重要になる。レバレッジ(借り入れ)の有無も要チェックだ。
さらに、DATはETFなどの金融商品よりも戦略を変更しやすいため、経営陣の動向を継続的にモニタリングすることも重要になる。
|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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|原文:Crypto for Advisors: Digital Asset Treasuries


