ブロックチェーン推進議員連盟の第31回会合が11月17日、検討が進む「暗号資産法制および税制」を議題に開催された。
金融庁が金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループでの検討状況」を説明、関連する4つの業界団体である日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)、新経済連盟、日本ブロックチェーン協会(JBA)がそれぞれ「暗号資産法制および税制に関する要望等」を述べた。司会・進行は神田潤一議員が行った。
冒頭、平将明議員が「(暗号資産の)キャピタルゲイン税制がいよいよ最終局面となっている。税制は何年もかけていろいろなものを実現してきたが、総仕上げとなるので、解像度の高い議論をしていきたい」と欠席した同議連会長の木原誠二議員に代わって挨拶した。

また平氏はステーブルコインについて「世界の中で日本がどういう戦略的なポジションを取るのかについても今後、追加的に議論する必要があるだろう」と述べた。
WGの検討状況:金融庁
金融庁は7月からこれまで計5回開催しているワーキンググループ(WG)の検討状況を説明。具体的には、
・金商法の仕組みやエンフォースメントを活用して対応。
・暗号資産を2つの類型 類型①発行者(中央集権的管理者)が存在する暗号資産、類型② 類型①に該当しないもの に分けて情報提供の義務を課す。
・業規制としては、第一種金融商品取引業(証券会社等)に相当する規制を課す。
・インサイダー取引規制を整備する。
などがあげられた。内容はこれまでにCoinDesk JAPANが「WG 論点総まとめ」で適宜伝えているものを集約した形だ。
短時間の説明だったので、特に触れられなかったが「規制見直しの基本的な考え方」の中で「利用者保護を通じた健全イノベーション」に加えて、「暗号資産がグローバルに取引されることに伴う国際性への配慮」「変化の速い分野であることを踏まえた規制の柔軟性に留意」と記されていたことが目を引いた。
「30件弱が承認見送り」と審査プロセスを説明:JVCEA小田氏
続いて、4つの団体がそれぞれ「暗号資産法制および税制に関する要望等」を発表。まず、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)代表理事の小田玄紀氏が「暗号資産審査プロセス」と「JVCEAの体制強化」を説明した。

暗号資産規制については、先日「国内の暗号資産交換業者が取り扱うビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など105銘柄」を金融庁が規制対象とする方針が伝えられた。その意味で審査を担うJVCEAの役割は今後、ますます重要になる。
小田氏は「これまでに30件弱が承認見送りとなっている」と説明。資料には「国内取扱い銘柄が105銘柄であることから20.4%が承認見送りとなっており、一定の牽制がされていることが伺える」と記し、JVCEAの審査機能を強調した。
3団体連名での税制改正要望:JCBA廣末氏
続いて、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長の廣末紀之氏が、日本ブロックチェーン協会(JBA)、JCBA、新経済連盟の3団体連名での「2026年度 税制改正要望について」の以下、4つの要望骨子を説明した。

①所得税:分離課税
②所得税:寄付に係る税制の明確化と合理化
③資産税:評価・取得費に関する整備
➃暗号資産同士の交換への損益タイミングの見直し
さらに、廣末氏はJCBAとしての税制改正要望を説明。詳細は、すでにCoinDesk JAPANで伝えている以下の記事を参照してほしい。
関連記事:暗号資産に20%の分離課税を、取引形態や登録有無を問わず一律適用を提案──JVCEAとJCBAが税制改正要望【訂正】
規制の段階的な適用:JCBA河合氏
次に法制への要望を、JCBAのリーガルアドバイザーを務める弁護士の河合健氏が説明した。

冒頭で河合氏は、1年近く金融庁と協議を続けており、金商法の中に位置付けることには賛成していると述べた。
そのうえで、日本では株式はほとんどが東京証券取引所で取引されていることに対して、暗号資産は市場構造が大きく異なると指摘。JVCEAに株式と同等の市場監視体制の整備を課すことは過大な負担を強いることにつながるとし、規制の段階適用などを求めた。
日本経済活性化:新経済連盟の伊藤氏
新経済連盟は政策部副部長の伊藤洋氏が出席。3団体連名での税制改正要望に加えて、暗号資産のETFでの取扱いと、レバレッジ倍率を暗号資産の種類ごとに設定可能にすることを求めた。

また、税制全般に対する基本的な考え方として「税率を引き下げて日本経済活性化を促し、税収を増やして再び国内投資へ」を説明した。
「ネット決済」「Japan Cold Wallet」などセキュリティのアイデア:JBA加納氏
日本ブロックチェーン協会(JBA)は代表理事の加納裕三氏が「暗号資産の税法・業法改正へのJBA意見」を説明した。
税制については、3団体連名での税制改正要望とは別に「JBA独自提案」として「源泉分離課税導入の必要性」をあげ、「株と同様に源泉分離と申告分離の選択制にすべき」と述べた。
また、WGで検討が進められている暗号資産の分類については、類型①、類型②の分類にはグレーな部分があるとして、新規発行と事実上同じような行為も規制対象とすべきと述べた。加納氏は9月の第2回目のWGで同様の意見を表明している。

さらに、アイデア段階の構想としたうえで、セキュリティについての構想を発表。Web3は非中央集権的な取り組みは面白いが、セキュリティ、特にカストディについては「ブロックチェーンを触らない」中央集権的なアプローチが考えられるのではないかとし、①ネット決済、②Japan Cold Wallet、③クリプトカストディライセンスを提案した。
「ネット決済」とは、金融機関が多数の取引をまとめて、差分のみを決済することを指す。現状、暗号資産交換業者間の暗号資産の移動にはブロックチェーンが使われているが、ネット決済とすることで、ブロックチェーンを極力使わないようにし、ハッキングリスクを低減しようというアイデアだ。
「Japan Cold Wallet」は、より大胆なアイデアだ。「日本政府が運用するウォレット」を開発し、各社のウォレットをセキュリティを強化するために中央集権的に管理しようというものだ。
「クリプトカストディライセンス」は、暗号資産交換業ライセンスには預かり可能な金額の上限を設け、上限を超える場合、クリプトカストディライセンスまたはJapan Cold Walletの活用を必須とするアイデアだ。
加納氏は「暗号資産交換業者はほぼセキュリティ業者のようになっている。取引にはそれほどイノベーションはなく、ウォレットやブロックチェーンを使うところにイノベーションがあり、かつ非常に難しい部分でハッキングの対象になっている。ここを厳しいライセンスにすることで、一段セキュリティが上がった状態を作れるのではないか」と述べた。
申告分離課税の「重さ」:木原会長
金融庁と各団体の発表後の議論では、暗号資産をステーブルコインに変えた場合の課税、アンホステッド・ウォレットの取引をどのようにして課税対象とするのか、JBAから提案されたネット決済やJapan Cold Walletに対する意見が交わされた。
会議の最後には、途中から参加した木原会長が挨拶。これまで暗号資産関連の法改正に関わってきたことに触れ、自身は「超推進派」ではあるが「金商法に入れ、その先に申告分離課税に持っていくことは、業界の皆さんが考えているよりも重いことをしっかり認識してほしい」と述べた。

つまり、「金商法に入ることは、投資商品という認識のもとで投資家保護をするという行政府の意思表示であり、申告分離課税に持っていくことは、さらに一歩踏み込んで、政府としても(投資商品として)奨励していくという一段階ステップが上がること」であり、「覚悟を示して投資家保護について深堀りしてほしい」と続けた。
また、暗号資産の審査についても「暗号資産交換業者と自主規制機関の審査だけでは足りないと思っている」と述べた。
来年度にかけて、暗号資産法制および税制は大きな変化が予想される。まずは今月末、あるいは12月上旬に予定されている金融審議会WGにおいて、議論がどのように収れんするのかに注目したい。
|文:増田隆幸
|写真:CoinDesk JAPAN編集部


