ブロックチェーン上で瞬時に取引されるデジタル通貨「ステーブルコイン(SC)」。USDTやUSDCなど、米ドルに連動するステーブルコインの時価総額が40兆円を超える中、日本でも円建てのステーブルコインJPYCの発行が始まるなど、銀行や事業会社による動きが加速している。
こうした中、国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを通して、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指すN.Avenue clubは、11月19日開催の3期5回ラウンドテーブルのテーマにステーブルコインを採用。
Visaでアジア太平洋地域のデジタル通貨ヘッドを務める Nischint Sanghavi(ニシント・サンガヴィ)氏や、Progmatファウンダーの齊藤達哉氏、ナッジ代表取締役の沖田貴史氏らを迎え、主要先進諸国の規制動向、金融機関や事業会社が検討しているユースケースなどについてのプレゼンを聞いたほか、来場者でディスカッション。ステーブルコインがもたらすデジタル経済の大変革について探った。
ラウンドテーブルは会員限定のイベントのため、その一部を以下にレポートする。
新しい支払いのエコシステム・イノベーションの一部に:Visa

冒頭、オンラインでプレゼンしたのは、Visa Head of Digital Currencies Asia Pacific の Nischint Sanghavi(ニシント・サンガヴィ)氏。サンガヴィ氏はステーブルコイン市場について、過去1年間で急速に伸長し、過去5年間では取引量が100億ドルから2,500億ドル超へ拡大していると説明した。
さらに、ベッセント米財務長官の「取引量は10倍・15倍、最終的には37兆ドル規模になる」との発言を引用し、すべての事業会社にとって、ステーブルコインをエコシステムに取り込み、ユースケースを準備することが必須であると述べた。
金融/アセットのオンチェーン化は不可避:Progmat

メインセッションで最初に登壇したのは、Progmat, Inc. 代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏だ。齊藤氏は、グローバル金融とデジタルアセットの融合、国内外のステーブルコイン市場、関連案件やプロジェクトの動向について概説した。
特に海外ステーブルコイン市場については、従来は「暗号資産関連」が中心だったが、規制整備を背景に「銀行コンソーシアム」による共同発行プロジェクトが生まれていると指摘、国内でも3メガバンクによる「共同発行」に係る実証実験が金融庁の支援案件に採択されたことを紹介した。さらに金融/アセットのオンチェーン化は不可避として、セキュリティ・トークン(ST)の拡張、トークン化MMF、トークン化株式などの取り組みに触れた。
地方創生・インバウンド領域でのSC活用:チェンジホールディングス

株式会社チェンジホールディングスは、グループ内に「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクを抱え、地方創生やサイバーセキュリティにも注力する事業会社。続いて登壇したのは、同社の地方創生ユニット・観光DXチームのマネージャーである甲斐豪之氏だ。
甲斐氏は同社のステーブルコイン活用の展望として①ふるさとチョイスでの決済手段追加、②インバウンド観光の課題解決、③錦鯉プロジェクト、④富山県南砺市のゲストハウスを核とする地域創造モデル――の4案を提示した。
例えば、②のインバウンド領域では、海外発行クレジットカードの手数料が店舗負担となる課題の解決、旅行中に獲得したリワードを帰国後も利用可能にする仕組み、さらには旅行先への再訪を促す設計を実現する取り組みを紹介した。
推し活クレカを発行するナッジの強み:ナッジ

最後に登壇したのは、Z世代に人気の“推し活につながる”クレジットカード「ナッジ」の代表取締役の沖田貴史氏。沖田氏はナッジについて、ユーザーやクラブと共創してつくり上げる取り組みであり、提携パートナーは約200社にのぼると紹介した。
日本ではキャッシュレス化の遅れが問題視されているが、沖田氏は「課題の内容が変化している」と指摘。以前はマーチャント側の受け入れ体制が課題だったが、現在は加盟店数が増えており、むしろ若年層の“カード未保有・キャッシュレス未対応”が課題だと述べた。
また、ナッジが支持されている理由として、①アプリ主導型の使いやすさ、②口座振替以外の返済方法が標準装備されている点、③推し活を支援できる点――の3つを挙げつつ、「推し活専用というより、若い世代の“メインカード”として使われている」と補足した。
STを活用した新しいビジネスモデルなどについてディスカッション
ラウンドテーブルの後半は、参加者全員が6つのテーブルに分かれディスカッション。テーマは「ステーブルコインを活用した、新しい顧客体験・ビジネスモデルとは?」で、BtoB領域での活用、クロスボーダー取引でユースケースの可能性などがあげられた。
N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。
|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑


