トークンセールはコロナ禍でなぜ増える──2017年のブームとの違いは?

ビットコイン価格の上昇に合わせて、トークンセールが再び活況を呈している。

「Ava、Dot…、2017年の再来だ。良くも悪くも」と、ZenGoウォレットのオウリエル・オハヨン(Ouriel Ohayon)CEOはツイートした。

コーネル大学のエミン・ギュン・シラー(Emin Gün Sirer)教授が立ち上げたスタートアップのAva Labsは7月、同社の「Avalancheブロックチェーン」の開発資金を調達するため、パブリックトークンセールを実施し、約4200万ドル(約45億円)を取得している。

イーサリアムの共同創業者ギャビン・ウッド(Gavin Wood)氏が率いるポルカドット(Polkadot)もその数日後、プライベートトークンセールで4300万ドル(約46億円)を調達。

以来、イーサリアムブロックチェーンはますます混雑し、トークンセールはその勢いを増している。

プラットフォームを圧迫

イーサリアムの競合を目指すスマートコントラクトプラットフォームのNEARプロトコル(NEAR Protocol)は、トークンセールプラットフォーム「コインリスト(CoinList)」の混雑が影響し、セールの開始を予定日から1日延期した。

「かつてないほどのトラフィックがコインリストのサーバーに集中し、サイト全体が停止しました。NEARのトークンセールは、当初の開始予定時刻から24時間延期されることになりました」とCoinDeskが入手したコインリストのEメールには記載された。

8月12日午後、NEARは1500の参加者から3000万ドル(約32億円)を集めてトークンセールを終了している。

2020年のトークンセールの特徴

スタートアップはまずベンチャーキャピタルから資金を調達して、プライベートセールを実施する。次にKYC(顧客確認)やコンプライアンスを管理するプラットフォームを通じて、一般へのトークン販売を行う。

NEARは2020年4月、VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が主導した2160万ドル(約23億円)のプライベートトークンセールの後、今回のトークンセールを行った。

NEARの他にも、cLabsは5月に12時間で1000万ドル(約11億円)を調達している。

トークンプロジェクトは少なくとも2020年7月までに、大規模の資金調達を行っている。分散型金融サービス(DeFi)を手がけるスタートアップのAva Labsやチア(Chia)のようなイーサリアムブロックチェーンの競合となるプロジェクトも、迅速に事業を拡大する戦略を打ち出している。

トークンブームPart 2

2017年に見られたトークンセールのブームと異なり、2020年のトークンセールはコインリストやGate.io、バイナンス(Binane)などの暗号資産(仮想通貨)取引所を通じて行うことが多い。

もちろん、すべてのトークンセールが、ポルカドットやAva Labsのような大型の資金を調達できるわけではない。新型コロナウイルスによる経済危機下で、小規模のトークンセールが数多く行われている。

バイナンス・ラボ(Binance Labs)が支援するサンドボックス(Sandbox)は8月、300万ドル(約3億2000万円)を目標にトークンセールを行っている。Gate.ioをはじめとする他の取引所も、バイナンスに続いて、トークンセールのためのIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)プラットフォームを立ち上げている。

Gate.ioの発表によると、トークンセールは2020年現時点までに、4600万ドル(約49億円)以上の資金を調達しているという。

目標はコンセンシス

Ava Labsは「イーサリアムの保有者をターゲット」にした、「Athereum」と呼ばれる新しいトークンを含めて、この先もさらにトークンセールを予定している。

「我々は現状のままのイーサリアムを取り込む」とシラー氏は述べ、イーサリアム保有者にブロックチェーンの乗り換えを促す考えであることを明らかにした。

スタートアップの多くは依然として、名のある「イーサリアム・キラー」になることを目指している。

スタートアップ各社の野心的なビジネスモデルについて、イーサリアムの共同創業者のジョー・ルービン(Joe Lubin)氏は、多くの有望な創業者たちが目標としているコンセンシス(ConsenSys)を例にあげた。

コンセンシスはイーサリアムの開発企業であり、インキュベーターとしてスタートした。そしてイーサリアムコミュニティを築き上げた後、同社はインフラプロバイダーと投資部門に分離した。

コンセンシスはイーサリアムのエコシステムのあらゆる分野に投資を行っているが、これはシラー氏が、Ava Labsでいつか実現することかもしれない。

「多くのスピンアウトを生み出す母船。我々はプロジェクトをスピンアウトさせ、それぞれが独立した収入モデルを確立していく」とシラー氏は話す。

管理されたトークンセール

2015年のイーサリアムのセールや、それに続く2017年のトークンセールとは異なり、多くのトークンの生みの親たちは今、管理された流通による継続的なセールを好む。規制上の理由と、トークンが限定的である印象を作り出すためだ。

Ava Labsもそのようにして、アンドリーセン・ホロウィッツなどのVCや投資家から(複数回のトークンセールの前に)資金を調達した。トークンセールは今、ちょうどシリーズBの資金調達と同じように段階的に実施されている。

下半期を見据えて、シラー氏はAvaコミュニティのためにノンファンジブルトークン(NTF:non- fungible tokens)を作るための取り組みもサポートしていく。

ゲームスタートアップのポリエント・ゲーム(Polyient Games)は、Ava Labsの技術を利用する計画だ。同社のブラッド・ロバートソン(Brad Robertson)CEOは、イーサリアムではなくAvalancheブロックチェーンを選択した理由に、より多くの容量に対応できることをあげた。

イーサリアムは2017年、クリプトキティーズのようなNFTを使った収集型ゲームでネットワーク障害を起こしたことで知られている。それ以降、ネットワーク容量の問題が完全に改善されたわけではない。実際、最近もネットワークの混雑は非常に深刻で、取引手数料に数十ドル相当を支払うことも珍しくない。

新たなアプローチ

「市場に出ているすべてのネットワークを検討した。DeFiのエコシステムに対して、特にNFTに重大な課題を突き付けてきたスケーリングとトランザクションの問題を解決するために、Avalancheは最も良いポジションにいると感じている」とロバートソン氏は述べる。

Ava LabsはユーザーがNFTだけでなく「新しいデジタル資産の発行」を実現できるようにし、同社が提供する新しいサービスに参加するための「avaxトークン」を利用できるようにする計画だ。

これは、2020年のトークンプロジェクトに共通する戦略とも言える。

スタートアップ企業は、自らのブロックチェーンを有益なものにする上で、他の企業がプロダクトやサービスを開発してくれることに賭けている。

この戦略はコンセンシスの初期のトークン発行サービスやプラットフォームを思い出させるが、それらはコンセンシスがインフラや投資に軸足を移したときに衰退していった。

「イーサリアムブロックチェーンには数多くの、さまざまなユースケースがあり、我々はそのほとんどをサポートしている」とコンセンシスのマネージャーとしてインフラサービスを率いるインフラ(Infura)のマイケル・ゴッドセイ(Michael Godsey)氏は言う。

それでも、ブロックチェーンにとらわれないサービスがすでに存在しているという事実は「次なるコンセンシス」を築くことの魅力を削ぐものではない。

多くの起業家は、2017年のトークンブームで見られた富の創造、あるいは富の再分配を再現することを願っているようだ。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Token Sales Are Back in 2020