デジタルドル、米FRBとMITが40種類のブロックチェーンを検証──共同実験が明かすCBDCの開発課題

アメリカの主要都市に散在する連邦準備銀行は連邦準備制度理事会(FRB)に統括されるが、その中のボストン連邦準備銀行は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデジタル通貨イニシアティブ(DCI)と連携を深め、アメリカの中央銀行デジタル通貨、いわゆる「デジタルドル」に関する実験を行っている。

この共同実験はこれまでの取り組みをもとに、デジタルドルが既存のドルを補完する方法を明確にするものだと、ボストン連銀のシニア・バイス・プレジデント、ジム・クンハ(Jim Cunha)氏は述べる。実験の成果は今後公開され、デジタルドルの具体化に向けて検討される可能性もある。

「我々が行っていることはより綿密なもの。分散型台帳技術が、アメリカの中央銀行デジタル通貨(CBDC)に求められるニーズを満たすことができるかを見極めることに重点を置いている。果たして、実際に機能するのだろうか?」とクンハ氏は話す。

現在は、どのプラットフォームを基盤にするかを決定する段階にある。研究者らは共同実験によって、スケーラビリティ、処理能力、プライバシー、サイバー攻撃への抵抗力などについての疑問を明確にしようとしていると、同氏は述べる。

「まずはおそらく30〜40のオープンソース、またはプライベート・ソリューション(のブロックチェーン)を検討していく。その後、いくつかをより深く検証していくことになると考えている。今は初期段階であり、可能な限り幅広い見識を持ちたいと考えている」

FRB × MIT

ボストン連銀は先週、デジタルドル実験のためのデジタル通貨イニシアチブ(DCI)との公式な連携を発表したが、クンハ氏によると、2つの組織の関係とデジタル通貨の研究は何年も前から行われているという。「DCIとの研究をさらに進めているため、彼らとの関係をより公式なものにする必要があった」と同氏はCoinDeskの取材で答えた。

DCIのディレクターでリサーチサイエンティストのネハ・ナルラ(Neha Narula)氏は、同組織が中立的な研究機関だと述べる。

プロジェクトに携わる研究者たちはさまざまな設計を行うことになるが、各モデルのメリットとデメリットを精査する政策決定者に、具体的だデータや選択肢を提供することになると、ナルラ氏は説明する。

「DCIの目標は、どのような状況においてCBDCは有効なのか、中央銀行がCBDCの発行を決定した場合にどのように展開していくべきなのかを決定するために必要な、根本的な疑問に答えること。世界最大の中央銀行と密接に連携することは、これらの疑問をどのように組み立て、答えていくかについてリアルタイムのインプットを得る点できわめて有益だ」(ナルラ氏)

研究は当面は予備的なものであり、政策ではなく技術的側面に重点が置かれていく。

ボストン連銀のアシスタント・バイス・プレジデント、ボブ・ベンチ(Bob Bench)氏は、アメリカはプライバシーなどの問題について、他国とは異なる観点を持っている可能性があり、研究では、例えばどのようなプライバシー対策を取ることができるかなどを検討しなければならないと話す。どのプログラミング言語を使うべきかといった基本的な問題も未定だと同氏は述べる。

「ユーザーインターフェイスについて考え始める前に、我々はこうした問題を根本的なレベルで考えている」

ボストン連銀のクンハ氏は、目標は2年で共同研究の成果を発表し、CBDCを検討する人たちは皆、その成果から学べるようにしたいと述べる。複数のメリット・デメリットのケースをサポートし、中央銀行デジタル通貨の開発、試験運用、実装に興味のある人たちすべてにとって有益なオープンソースのコードベースを作成したいと考えている」

設計上のニーズ

研究ではさまざまな要素が検討される。小売り決済に焦点をあてたCBDCは、ローレイテンシー(レスポンスの速さ)と高いスループット(処理能力)が必要だ。高いセキュリティ性能を保ち、1秒間に大量の取引を処理できる必要があると、DCIのナルラ氏は指摘する。

同氏によると、今回のミッションの一部には「実世界での使用に耐えてきた」既存の暗号化システムや分散型台帳システムを活用することも含まれるという。「新しいコンセンサスアルゴリズムや暗号化プロトコルを採用し、国の通貨に使用するようなことはしたくない」

デジタルドルが銀行口座を持たない層、あるいは銀行サービスを十分に受けることができていない層に確実に貢献できるようにすることは、もう1つの目標だとクンハ氏は述べる。

基本的な問題以外にも、ユーザーが顧客確認(KYC)やアンチマネーロンダリングのためのチェックを求められた場合、処理能力(スループット)やプライバシーといった問題にどのような影響を与えるかもボストン連銀は見極めたいと考えているとクンハ氏は述べた。

「細部まで検討したいと考えているわけではない。『銀行口座を持っていない層がどのようにして使うのか?』といったレベルまで突き詰めて、プロダクトデザインを検討しようとしているわけではない。イノベーションがそうした問題を解決できるよう、フレキシブルであろうとしている」

クンハ氏と同様にベンチ氏も、スループットは重要な懸念分野と強調し、CBDCを支えるエンジンがなんであれ、「世界最大の通貨の取引」に対応できる必要があると述べた。

各国の中央銀行はそれぞれ、さまざまな問題を懸念しているとナルラ氏は述べた。こうした問題は解決に数年の時間がかかるかもしれない。クンハ氏は、2〜3年で何かが生み出されることは期待していないと話す。

「デジタル通貨の発行は不可避だろう。だが長い時間がかかる。ひと晩で変化するようなものではなく、10年単位の長い道だ」

長年の取り組み

ボストン連銀は、2015年もしくは2016年から分散型台帳技術、いわゆるブロックチェーンを検討しており、数々のレポートを発表してきた。同行はまた、シンガポール金融管理局による「Ubin」プロジェクトやカナダの「Jasper」プロジェクトをはじめ、他国の中央銀行によるCBDCや決済に関する取り組みも検証してきた。

「我々の目標は、分散型台帳を、そしてそれをどのように展開していくかを理解することにあった」

その目標は変わっていない。フェイスブックが主導するリブラ(Libra)のような民間のデジタル通貨の取り組みや、中国のデジタル人民元のようなCBDCプロジェクトは、ボストン連銀とDCIの取り組みに少しばかりの切迫感を与えたかもしれない。だがデジタルドル発行の指令や締め切りは存在しない。

「プロジェクトへの興味が大きくなるだけ」とクンハ氏は述べた。

言い換えれば、クンハ氏はこの新しい共同実験をアメリカと中国、あるいはアメリカとリブラ協会の間の競争とは捉えていない。

「主要国が取り組みを開始するにつれて、この件を幅広く、政策的な観点から考えている人たちの関心を集めている」

それどころか、多くの人が使える暗号資産(仮想通貨)を作ろうという複数の取り組みが進行中という事実は、分散型台帳技術には「実際に永続性」があり、将来、決済・通貨システムのインフラに組み込まれる可能性を秘めていることを意味するのかもしれない。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Boston Fed Is Looking at ’30 to 40′ Blockchain Networks for Digital Dollar Experiments