ビットコインに価値はあるのか──経済学的視点で改めて考える時がやってきた

ビットコインの価格は上昇を続け、大口保有者である「くじら」の数は増え、動きも活発になった。いま改めて、ビットコインの価値についてじっくりと考えても良いのではないだろうか。

ビットコイン(BTC)はお金なのか、それともテクノロジーか? ゴールド(金)のような価値の保存手段か?ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマン(Milton Friedman)の「eキャッシュ」のアイデアを再現するものだろうか?

世界中の多くの人はビットコインを理解することに苦しんでいる。そして、それはおそらく、現在のビットコインの価格(約3万8000ドル)と資産運用会社のグッゲンハイム(Guggenheim)が40万ドルの価値があると主張していることからも明らかだ。

ビットコインのファンダメンタルズ(基礎的条件)をもう一度おさらいしておくことは有益だろう。

ビットコインの基本原理

ビットコインの基本原理は、匿名の生みの親サトシ・ナカモトが、2008年のホワイトペーパーに記している。ナカモトは、この新しいお金が持つ意味を解説し、ビットコインを「純粋にピア・ツー・ピアの電子キャッシュ」として機能する概念実証技術と述べた。

ナカモトはさらに、ビットコイン・ネットワークを分散型決済システムと表した。これはつまり、ビットコインを使って価値をやりとりする際には、第三者の金融仲介者(例えば、銀行など)は不要ということだ。

このシステムはまた、政府機関などがビットコイン・ネットワークの通貨供給に影響を与えることを防ぐよう設計されている。

「ビットコインは既存の法定通貨や、グローバルエコノミーを1世紀にわたって支配してきた中央銀行体制に対抗するために設計された」と、ミーゼス研究所のマーク・ソーントン(Mark Thornton)氏は語る。

ゴールドにたとえたサトシ・ナカモト

ナカモトは、ビットコインをゴールド(金)に喩(たと)えて説明している。

ゴールドは長年にわたり、そのいくつかの性質、つまり希少性と交換可能性のために、価値保存の手段とされてきた。

同様にナカモトは、ゴールド採掘者が地表を削っていることに喩えて、ビットコイン・マイナーは「CPUパワーと電力」を消費すると記した。その見返りにビットコイン・マイナーは、ネットワークからビットコインの一部を受け取り、ユーザーに代わってトランザクションを送信する。

しかし、ビットコインをゴールドに喩えるナカモトの主張は、それだけでは成立しない。むしろ、学者をはじめとする他の人たちの、長年にわたる貢献の上に成立している。

事実、供給上限や半減期(ビットコインのマイニングの収益を定期的に半減するしくみ)による時間をかけたインフレのようなビットコインの性質は、それ自体がビットコインをある経済学派、特に自由市場を重視した経済学派の考え方と一致するものにしている。

つまり、ビットコインを評価することは、そうした学派の主張を補足することになる。

「フリーマネー」エコノミクス

違法な市場で使われているとの評判にかかわらず、ビットコインは学術的なルーツを持っている。

オーストリア学派とシカゴ学派という2つの著名な経済学派は、中央銀行から通貨を自由にするという同じ考え方を持つとして、しばしばビットコイナーによって引き合いに出される。

オーストリア学派は、19世紀後半の経済学者、カール・メンガー(Carl Menger)を始祖とする。当時でさえ、メンガーは異端で、主流の経済学者と意見を戦わせることで知られていた(現代の多くのビットコイン支持者とあまり変わらない)。

オーストリア学派に対するメンガーの最大の功績は、主観価値論を発展させたことであり、人間行動学の基礎となっている。すなわち、メンガーはあらゆるモノの価値は人間自体に由来し、いかなるモノやサービスも本質的な価値を持たないと主張した。

メンガーの説は、20世紀半ばにルートヴィヒ・フォン・ミーゼス(Ludwig von Mises)やフリードリヒ・ハイエク(F.A. Hayek)をはじめとする後継者がさらに発展させた。

例えば、ミーゼスは、政府がお金を作り出すという、いわゆる「貨幣国定説」とは逆に、市場がお金を作り出すと主張した。1974年にノーベル経済学賞を受賞したハイエクは、20世紀後半には政府以外が通貨システムを構築すると主張した。

「政府から取り戻さない限り、優れたお金を二度と手にすることはできないと考えている。政府から暴力的に奪い取ることはできない。我々にできることは、政府が止めることのできない何かを狡猾で遠回しな方法で導入することだけだ」とハイエクは1984年に語っている。

フリードマンが提唱したデジタル通貨

シカゴ学派で最も有名なミルトン・フリードマンも、デジタル通貨を作り出すことを提唱した。

「eキャッシュ」は、新しく生まれたインターネットに必要な要素であるだけではなく、政府の行き過ぎを制限する合理的なツールであるとフリードマンは考えた。

フリードマンは、kパーセントルール(国がどのような状況であれ、毎年、事前に定められた割合で通貨供給を増やしていくこと)と、(人間によって妨害されることのない)コンピューターで通貨政策を設定することを主張したことで知られていると、BitcoinHivemind.comのポール・ストーク(Paul Sztorc)氏はCoinDeskの取材で述べた。

「2000年代までにフリードマンは、アメリカはベースマネーの『固定供給』を採用し、決して変更しないと宣言すべきと考えていた。ビットコインはこれらすべての原則を体現している」

ビットコイン vs インフレ政策

ビットコインの中心的な考え方は、2100万ビットコインの供給上限にある。そして、ビットコインのインフレスピードは、地球から採掘できるゴールドの量と同じように固定されている。

ビットコインの発行量は「半減期」と呼ばれるイベントによって4年ごとに減少する。つまり、2140年のどこかの時点でビットコインがマイニングできなくなるまで、半減期ごとにビットコイン・ネットワークが10分ごとに作成するビットコインの供給量は減少する。

前回の半減期は2020年5月、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の中央銀行が数兆ドル規模の金融緩和策をスタートさせてから、約2カ月が経った頃だった。ビットコインマイナーのF2プール(F2Pool)は、半減期の直前にマイニングした最後のブロックにニューヨーク・タイムズの見出しを書き込んだ。

ニューヨーク・タイムズ 2020年4月9日 2兆3000億ドルの資金供給、FRBの計画は2008年の救済策をはるかに上回る

ビットコインの供給スケジュールはゴールドを真似たもので、「何もないところからお金を作ることができる中央銀行とは完全に対照的」とソーントン氏は述べる。

「そのため、各国の中央銀行が自国通貨の価値を破壊することに躍起になっているように見えるなか、ビットコインはここ数年、非常に素晴らしいパフォーマンスを見せている。FRB、欧州中央銀行、日本銀行が特に顕著だが、彼らは、他の多くの中央銀行と同様に、金利をゼロ近く、あるいはマイナスにした」(ソーントン氏)

ビットコインの評価

ビットコイン懐疑派はしばしば、本質的な価値の欠如、キャッシュフローの欠如、歴史的な前例がないことなどを批判する。

2万ドル超えから短期間で3万ドルを超え、今や4万ドルに達する勢いは、「弱気」心理をなくすものではないと、米CoinDeskのリサーチディレクター、ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)は語る。

ビットコインはいつでも暴落する可能性がある。しかし、同氏によると、それがまたビットコインをデジタル資産として興味深いものにしているという。

「ビットコインの最も魅力的な点は、標準的な評価手法に収まらないこと。考慮すべきキャッシュフローも、裏付けとなる物理的資産もない」

デジタルゴールドとしてのビットコイン

ビットコインとゴールドは理論的な観点から見ると、ある相関関係を持っているが、それはどこに重点を置くかによる、とアチェソンは言う。

「ゴールドと同じように、ビットコインにも誰かが喜んでお金を支払う価値があり、それは全体的な市場心理、インフレ期待、技術的トレンドによって影響を受ける。しかしゴールドと違い、ビットコインの供給はその価格にまったく影響を受けない。それが常にボラティリティが高くなる理由の1つだ。需要の増加に合わせて、新たに供給が増加することは決してない」(アチェソン)

多くの投資家が待ち構えるなかでの12月16日の2万ドル超えは、ビットコインにとって「重要な心理的マイルストーン」となったとメッサーリ(Messari)のリサーチディレクター、エリック・ターナー(Eric Turner)氏は語った。

さらに、デジタルゴールドとしてのビットコインは、特に「マクロ的な懸念事項や貧弱な通貨政策」という背景に対して、「本当に大きなストーリーだ」と同氏は付け加えた。

「私の考えでは、これはサイクルの始まりに過ぎず、大規模でよく知られた機関投資家が支配的になっていく。本当の転換点は、年金ファンド、寄付ファンド、政府系ファンドが参入するかどうか。それが今なのか、次のサイクルになるかはまだわからない」(ターナー氏)

次なる目標とは?

史上最高値を更新し続けている状況は、デジタル資産としてのビットコインの信頼性を高めている。だが、ビットコインは依然として「野心的なお金」とストーク氏は語った。

「ビットコインの今後の長い道のりを考えると(最初は完全に奇妙なものだったところから、未来のグローバル経済における取引の半分を占めるようになるところまで)、勝者一人勝ちのテック企業への投資のようなものとしてビットコインを考える方がより正確だろう」(ストーク氏)

相対取引を手がけるB2C2 USAのロバート・カタラネロ(Robert Catalanello)社長兼CEOは、ビットコイン価格の上昇は「暗号資産全般、特にビットコインがますます価値の保存手段として捉えられるようになっているという我々の見解を裏付けている」とCoinDeskに語った。

一方、ソーントン氏は、ビットコインの高騰を新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や、イギリスのEU離脱、他のマクロイベントの文脈で説明した。同氏によると、史上最高値更新は「2018年に見られたような、急激な下落が2021年に起こる」可能性を否定するものではないが、さらなる上昇があっても驚かないという。

「こうした懸念にもかかわらず、将来におけるデジタル通貨のさらなる上昇、そして中央銀行や政府がこの新しい形態の通貨を捉え、コントロールしようとする進行中の試みについては根本的になにも変わっていない」とソーントン氏は語った。

|翻訳:山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:「自由市場」経済学者たち(左から)カール・メンガー、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス、フリードリヒ・ハイエク、マレー・ロスバード(Krapulat – Own work, CC BY-SA 4.0)
|原文:Over $20K? Why Is Bitcoin Worth Anything at All?