DeFiと3つの「C」

機密データを収集しないことが、本質的に悪いことだと考えてみよう。

このような根拠のない思い込みが、先日のニューヨーク・タイムズの暗号資産貸付に対する規制当局の取り締まりの記事における印象深い2つの文の根底にあったように思われた。

分散型金融(DeFi)プラットフォームを説明する文章の中で記者は、かすかに非難するような調子で「それらのサイトはユーザーの個人情報さえも集めない」と指摘した。

非難の調子は数段落後、貸付プロトコル「コンパウンド(Compound)」についてのくだりでさらに強くなる。

「約30万の『顧客』はそれぞれ、固有の42の文字と数字の羅列によって示される」と、顧客という言葉にカギカッコをつけながら、ユーザーのウォレットアドレスについて指摘し、次のように続いていく。「コンパウンドは、ユーザーの名前も、居住国も知らない」

1億4700万人の個人情報が流出した米信用情報会社のEquifaxの情報漏洩事件から4年。ニューヨーク・タイムズはせめて、個人情報を保管していないことのメリットを検討してみても良かったのではないか?

「一般的なウェブサイトでは、サイトのオーナーにあなたの身の上について伝える十分なデータを渡さない限り、ミキサーを買うことはできない。DeFiの世界では、あなたの名前すら誰にも尋ねられずに、お金を借りることができるのだ」と、CoinDeskのブレイディ・デール記者は述べてきた。

もちろん、そこには注意点もあり、デール記者も次のように説明している。「DeFiアプリケーションがユーザーを信頼できるかどうかを心配しないのは、ユーザーが債務を支えるために出した担保があるからだ(例えばコンパウンドでは、10ドルの債務に、約20ドルの担保が必要となる)」

このような、DeFiにおける純粋に担保ベースの貸付アプローチはこれまでのところ、借り手にも貸し手にもデメリットを持っている。業界にとっての課題は、ニューヨーク・タイムズが到底承服できないことかのようにほのめかした、プライバシーを保護するイノベーションを犠牲にせずに、現行のモデルの制約を乗り越えることだ。

そのような制約を理解するためには、伝統的金融の古臭くて澱んだ世界を見てみる必要がある。

信用のC

銀行が住宅ローンを申し込む人たちに、給与明細や銀行の取引明細書の提出を求めるのには理由がある。それは、最も内に秘めた秘密を借り手に明かさせたいという、倒錯した願望ではない。

「住宅ローンなど、消費者向け担保付貸付の信用の質を見極める基礎は、(中略)アンダーライティングの3つのCとして、時間をかけてしっかりと確立されてきた」と、メリーランド大学でビジネスを教えるクリフォード・ロッシ(Clifford Rossi)教授は語った。

ロッシ教授の説明によれば、3つのCとは「支払いの意図を示す信用度(Creditworthiness)、債務を返済する能力(Capacity)、そして担保(Collateral)」のことである。4つ目のC「資本(Capital)」を含むものや、5つ目のC「状況(Conditions、ローンを利用する理由)」まで入ったバージョンもある。

「1つのCだけに依存すると、最終的にリスクの担い手により大きな、あるいはより小さな集合的リスクをもたらす可能性のある、借り手のリスク特性の他の大切な要素を見逃すことになるかもしれない」と、銀行の幹部職や規制当局での職務経験も持つロッシ教授は語る。

例えば、ボブが自宅に20%の頭金、アリスは10%だけの頭金を支払ったとする。この要素だけを基準にすれば、ボブの方が安全と考えるだろう。ボブの方が多くの投資をしているので、支払いを続ける動機も強いからだ。

状況が厳しくなれば、家族が自宅に暮らし続けられるように、ステーキを我慢してお豆を食べる可能性が高いのはボブ。アリスの方が、貸し手に家の鍵を送り返して、いなくなってしまう可能性は高い。他の条件は同じだとすれば。

しかし、ボブの信用スコア(通常はFICOという会社のソフトウェアを使って算出される)が640と、サブプライムとみなされる水準をわずかに超え、アリスよりも100ポイント低いとしよう。さらに、ボブの返済は収入の40%に当たるのに対し、アリスのDTI(返済負担率)はその半分だとしよう。

「深刻な(住宅)市場の落ち込み(例えば2008年)の時には、どちらの借り手も、頭金での負担分だけを見れば、債務不履行に陥る可能性があるかもしれないが、信用スコアの高さとDTIの低さから、アリスの方が債務不履行の可能性は低い」と、ロッシ教授は指摘する。

「重要なのは、担保付き貸付は、一元的なものではなく、(貸し手は)多元的に、3つのCのトレードオフを検討するべきだという点だ」と、ロッシ教授は語り、次のように続けた。「1つの要素だけを用いると、リスクを過少あるいは過大評価する可能性がある」

DeFiにとっての結論としては、貸し手が2つ以上の担保に頼れるとしたら、信用に関してより多くの情報に基づいた判断をし、そのために借り手への貸付金利を低くすることができる、ということだ。

この先の道筋?

多元的な判断に基づいたDeFi貸付を可能にするために、多くの取り組みが進行中だ。最も期待できるものは、預かり資産(TVL)が157億ドルと、DeFi最大のプロジェクトであるAaveのもの。

Aaveは昨年、信用委譲というシステムを導入した。システムに担保を預け入れたユーザーが、信用する人に自らの信用限度枠を貸し出せるものだ。預け入れた人は追加の利回りを手にし、借り手は未担保でローンが借りられる。

Aaveの創業者兼CEOのスタニ・クレチョフ(Stani Kulechov)氏は7月、プレゼンテーションの中で、信用委譲によって、人々が評判に対して借り入れができるようになる未来を語った。政府に届け出ている名前ではなく、イーサリアム・ネーム・サービス(ENS:Ethereum Name Service)のドメイン名での評判だ。

ENSのドメイン名は、文字や数字の羅列の代わりに暗号資産ウォレットアドレスとして、そして異なるウェブサイトやアプリをまたいだユーザーネームとして使われる。例えば、イーサリアムの生みの親、ヴィタリック・ブテリン氏のENSネームは「Vitalik.eth」である。

クレチョフ氏が思い描くシナリオにおいては、Aaveへの預金者は信用限度枠を、自律分散型組織(DAO)に移譲することができる。そして、DAOのオーナーはその借り入れの力を、申し込んできたENSドメインへと移譲する。

「これがDeFiの未来だ」と、クレチョフ氏は語る。「これを大規模に実現できれば(中略)、我々は実世界のコミュニティーに力を与える大きな能力を持ち、より多くのDeFi流動性を伝統的金融へとオンボーディングできる」

しかし、そのような契約をどのように執行するのか?借り手が債務不履行に陥った場合、貸し手は訴訟を起こす必要はない。借り手のオンチェーンでの評判がかかっているからだと、クレチョフ氏は主張する。

「担保がなければ、法的手段に訴えることができなければ、関係を保つことはできず、借り手は逃げてしまうという考えは完全に捨て去るべきだと思う」と、クレチョフ氏は語った。

ブロックチェーンの透明性によって、すべての人にどのENS名が借金を踏み倒す存在なのかが明白となり、借り手には、さらに借りることができなくならないよう、ローンを返済する動機が与えられる。

「私自身も、体裁を気にして自分のENS名で債務不履行に陥ることはない」と、クレチョフ氏は述べる。「ブロックチェーンの性質から、(中略)そのような出来事を記録されたくはないのだ」

このモデルでは、伝統的には信用調査所で保管され、銀行が手数料を支払って閲覧していた借り手の返済履歴が、すべての人に公開されるのだ。しかし、借り手のアイデンティティであるENSドメイン名のコントロールは、借り手の元に残る。少なくとも、暗号資産ウォレットの鍵をコントロールしている限りは。

暗号資産ユーザーが秘密鍵をなくす恐ろしい逸話を耳にすることを考えると、その点は大きな但し書きとなるだろう。それでも、このような仕組みを、ユーザーの自宅住所や生年月日などの身元情報への鍵が、ハッカーが侵入しやすいEquifaxのような会社に預けられている現状と比べてみよう。

あなたはどちらのシステムがお好みだろうか?

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:DeFi and the 3 Cs