イーサリアムの11月上昇はなぜ起きた?クジラの動きに変化 【Krakenリサーチ】

11月はビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の明暗が分かれた月だった。ビットコインがマイナス7%と苦戦する一方で、イーサリアムはプラス35%を記録。ビットコインに対するイーサリアムの価格は、12月1日に一時0.08350 ETH/BTCまで上昇し、2018年5月以降で最も高い水準をつけた。

暗号資産(仮想通貨)のいわゆる大口投資家を意味する「クジラ」の動きにも変化があり、ビットコインのクジラとイーサリアムのクジラのマーケットに対する影響が、それぞれ異なってきていることが明らかとなった。

クジラと値動き

クラーケン・インテリジェンスでは、ビットコインのクジラを1000BTC以上保有するウォレット、イーサリアムのクジラを1万ETH以上保有するウォレットと定義している。

(出典:Kraken Intelligence「ビットコインのクジラ(水色)とイーサリアムのクジラ(紫色)」)

イーサリアムのクジラの数は減少トレンドが続いた。1184から1176に減少し、2021年6月に記録した過去最多の1208がさらに遠のいた。

イーサリアムのクジラが減る一方で、価格が上昇した理由は何だろうか?

一つは、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)やDeFi(分散型金融サービス)のプロジェクトが相次いで誕生する中、複数の分散型アプリ(dApps)にクジラが資金を移動した可能性があげられるだろう。

もう一つは、投資先を分散化している可能性で、最近のイーサリアムの上昇トレンドは、必ずしもクジラによって引き起こされたものではないという説が考えられる。

一方、ビットコインのクジラの数は、2141から2169まで増加し、2カ月ぶりの高水準を記録したが、2021年9月や5月の水準を依然として下回っている。

次に、クジラが保有するビットコインとイーサリアムの量の変化について解説する。

(出典:Kraken Intelligence「クジラが保有するビットコインの量(水色)とクジラが保有するイーサリアムの量(紫色)」)

ビットコインの場合、クジラの絶対数は増加傾向にあったが、クジラが保有するビットコインの量は1191万2000BTCから1187万BTCに減少した。ビットコインの11月の下落は、クジラによる利益確定の売りが要因だった可能性がある。

対照的にイーサリアムのクジラの保有量は、9565万ETHから9568万ETHにわずかに増加した。クジラの数は少なくなったが、全体としてより多くのイーサリアムを保有していることが分かる。より少ない数のクジラが、より多くのイーサリアムを持っていることになる。

6000ドルも視野か

最後にイーサリアムのテクニカル分析を紹介する。

イーサリアム対数回帰レインボーは、イーサリアムの価格推移を対数回帰分析し、レジスタンスとサポートを測る指標だ。どの地点から測るかによってレジスタンスとサポートの水準は異なり、合計で8種類も存在している。

例えば、2018年1月につけた過去最高値に沿った対数回帰の線(band8)を辿ると、今回のサイクルの天井は2万ドルを超えることが分かる。

(出典:Kraken Intelligence「イーサリアム対数回帰レインボー」)

イーサリアムは11月末時点で、band5(3626ドル)とband6(6773ドル)のど真ん中にある。しばらくはband5がサポート、band6がレジスタンスとして機能する展開だ。

もしレジスタンスに挑戦することになれば、11月末から46%の上昇、逆にサポートまで下がるとしたら22%のマイナスを意味する。

現在、暗号資産市場全体に占めるイーサリアムのシェアが増加し始めている。11月の価格上昇と合わせて、イーサリアム有利のトレンドが続けば、6000ドル突破が見えてくるかもしれない。


千野剛司:クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)代表──慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社し、2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。

※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。


|編集・構成:佐藤茂
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