マイナーに思わぬ収益、「Runes」ローンチで取引手数料が過去最高に

ビットコインは先週末、4年に一度の「半減期」を迎えた。新しいデータブロックに対する報酬が50%減少するため、暗号資産(仮想通貨)マイナーの収益は激減すると思われていた。

しかし実際には、ケイシー・ロダーモー(Casey Rodarmor)氏が手がける新プロトコル「ルーンズ(Runes)」(ビットコインブロックチェーンでデジタルトークンをミントするためのプロトコル)が同時にローンチされ、絶大な人気を博したことでネットワークは大混雑。取引手数料が記録的な水準に達し、マイナーにかつてないほどの大金をもたらした。

ビットコインの取引手数料は、報酬が半減し、ルーンズがローンチされた4月20日に、平均127.97ドル(約1万9700円、1ドル154円換算)を記録。これは前日の平均手数料の7倍以上、3年前に記録された従来の最高値の約2倍だ。

ビットコインの平均取引手数料(BitInfoCharts)

YChartsによると、ブロック報酬と取引手数料を含むビットコインマイナーの総収入は、1日で記録的な1億780万ドルまで上昇した。

マラソン・デジタル・ホールディングス(Marathon Digital Holdings)、ライオット・ブロックチェーン(Riot Blockchain)、ハット・エイト・マイニング(Hut 8 Mining)、コア・サイエンティフィック(Core Scientific)などの大手ビットコインマイニング企業にとって、この展開は強気となり得る(マラソンは19日、「MARA」にリブランドすることを発表、MARAは同社の株式ティッカーでもある)。

ビットコインマイナーの半減期前のブロック報酬:6.35 + 少額の手数料 = 1ブロックにつき6.5~7 BTC

ビットコインの半減期後(Ordinalsおよびルーンズローンチ後)の報酬:3.125 + ブロックスペースに対する需要による高額の手数料 = これまでのところ平均で7以上。

つまり、半減期後のマイナーのブロック補助金の合計はより高くなるようだ

4年に1度の半減期は、ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトが2009年に発表したオリジナルデザインの一部であり、新規発行のペースを減少させ続けることで、ビットコインのインフレ耐性を強化するための仕組みだ。

しかし、マイナーの報酬が減少するなか、ビットコインブロックチェーンでマイニングを続ける十分なインセンティブが存在するかどうかが問題になっている。マイナーの貢献はビットコインのセキュリティにとって不可欠なため、重大な問題だ。

「我々は、手数料をこの水準まで押し上げている特別な熱狂は、比較的近いうちに沈静化すると予想している。しかし、今回の出来事は、ビットコインの長期的な『セキュリティ予算』に対する懸念が見当違いであることを示す最新の兆候だ」と、ビットコインに特化した投資会社Ten31は20日のニュースレターに書いている。

ビットコインマイニングの収益はルーンズのローンチ後、4月20日に1億780万ドルの記録的水準へ急増(YCharts)

Ordinalsの続編

ロダーモー氏が手がける新プロトコル「ルーンズ」は、イーサリアムのブロックチェーンでは一般的だが、これまでビットコインのエコシステムにはほとんど存在しなかったような新しいデジタルトークンを生み出すために使用できる。

ロダーモー氏は昨年、ビットコイン上でNFTをミントするという、それまで考えられもしなかったことを可能にする斬新な方法として登場し、大人気となったOrdinalsの主要開発者であり、ルーンズにも大きな期待が寄せられていた。

ロダーモー氏は、自身のポッドキャスト『Hell Money』の最近のエピソードで、ルーンズが失敗に終わるのではないかと心配していた。ルーンズの主な用途が、投機的な興味がすぐに移り変わってしまう気まぐれなトレーダーのために「ミームコイン」を生み出すことだとしたら、そうしたトレーダーは、スピードや低コストではなく、セキュリティに最適化されたブロックチェーンであるビットコインに本能的に引き寄せられるだろうか、と。

しかし、トレーダーたちは引き寄せられてきた。ルーンズは、最も野心的な期待をも凌駕したかもしれない。

ウェブサイトRuneAlphaによると、4月21日時点で、すでに4923のルーンズトークンが誕生し、ルーンズでの取引は80万1124件、保有者は6万8548人に上っている。

「ルーンズのエコシステム全体は、おそらく何十億ドルもの価値を持つだろう」と、ブロックチェーンリサーチャーのサウラブ・デシュパンデ(Saurabh Deshpande)氏はDecentralised.coへの投稿で書いている。

ルーンズをトラッキングするウェブサイトには最初にミントされた10のルーンズトークンが並んでいる(Ordiscan)

オーケーエックス(OKX)やGate.ioを始めとする複数の暗号資産取引所は、SATOSHI-NAKAMOTOのような新しくミントされたルーンズの一部をすでに上場している。

独立系ビットコイン開発者でコメンテーターのジミー・ソン(Jimmy Song)氏は、20日のブログ投稿で、ルーンズにまつわる熱狂によって、法外に高い取引手数料を払わずにブロックに取引を組み込んでもらうことはほぼ不可能になったと書いている。

「ルーンズ資産の発行は、現時点では、ほとんどすべての他のユースケースを脇に追いやってしまっている」(ソン氏)

サブスク型のニュースレター配信プラットフォーム「サブスタック(Substack)」を通じてBitcoin Layerは、ルーンズは「実質的に誰もが負ける愚かなゲーム」であるように見えるが、ブロックスペースを占有し、「ライトニングネットワークのようなレイヤー2のスケーリングソリューションの開発と流動性のさらなる拡大を急ぐ必要性を浮き彫りにする」可能性があると指摘している。

Bitcoin Layerサブスタックを手がけたジョー・コンソーティ(Joe Consorti)氏とニック・バティア(Nik Bhatia)によると、ブロックあたりのマイナー総収入に占める取引手数料の割合は過去最高の75%に跳ね上がった。

将来像を予見?

これは、「ビットコインが10兆ドル超の資産になり、ネットワークに対する需要が現在よりも桁違いに大きくなり、さらに数回の半減期を経た数十年後に、ビットコインのマイニングエコノミーにおいて何が起こるかを予見させるものだ」とコンソーティ氏とバティア氏は書いている。

グレイスケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)を運営する資金運用会社グレイスケール(Grayscale)は、20日付のニュースレターで、マイナーの見通しが劇的に変化する可能性があることを指摘した。

「過去よりも高い水準の取引手数料が標準となれば、マイナーの収益に対する半減期の影響は弱まるだろう」とグレイスケールは主張している。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:「ルーンズ」を手がけるケイシー・ロダーモー氏(右、Hell Money)
|原文:Bitcoin Miners Reap Windfall as ‘Runes’ Debut Sends Transaction Fees to Record Highs