FTX破綻で露呈した資本主義の限界【コラム】

資本主義は暗号資産に失望した。あるいは互いに失望させあったのかもしれない。

何も私は、サム・バンクマン-フリード氏をはじめとする、人々の信頼につけ込み、暗号資産業界の評判を台無しにした人たちに罪がなかったと言っているわけではない。

私は共産主義者でもない。歴史を学んだ理性的なすべての人と同じように、資産の分配において、中央集権的な計画経済よりも市場経済の方がはるかに優れていると私も信じている。

ただ、資本主義は必ずしも望ましい結果をもたらさないことを認めておきたいだけ。「見えざる手」が機能するためには、市場はオープンで競争的であることが必要だ。参加者が合理的な投資判断を下すために必要な、信頼性が高く、常に調整される価格シグナルが存在するためには、価格を決定する需要と供給の要因について十分な情報が欠かせない。

2022年まで、そして最も重要なことだが、FTXの破綻がイメージと現実の間の大きなギャップを露呈するまでは、暗号資産業界が信頼できる価格シグナルを享受するために必要なレベルでは、そのような透明性は存在していなかった。

FTXだけでなく業界全体

FTXの信じられない会計処理(あるいはその欠如)だけの話をしているわけではない。私は、トークン価格の高騰を促した要因について私たちが知っていたこと、知らなかったことを話している。

価格高騰は、何百万人もの個人ユーザーを複数の暗号資産取引所やレンディングプラットフォームに惹きつけ、何十億ドルもの手数料収入をもたらし、そうした企業に多額のベンチャー資金を集めた。

今や何の価値も無くなったFTXがわずか数カ月前には評価額320億ドル(約4兆2000億円)だったこと、レンディングサービスを手がけたセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)の評価額が破綻前には35億ドルだったことに私たちは皆愕然としている。

だが、バイナンス、コインベース、クラーケン、クリプトドットコムなどの暗号資産取引所に投入された投資と預け入れ金についても、同様の疑問を抱くべきだ。そうした取引所も破綻寸前だとか、詐欺の疑いがあると言っているわけではない。むしろ業界全体に流入した長期的成長に対する過剰な期待について反省すべきだ。

偽のサイン

投資家たちは、資本主義のヘッドフェイク(相場が一度はセオリー通りに動くものの、すぐに失速して逆方向に大きく動くこと)のようなものに騙されてしまった。一時期、中央集権型マシンが生み出す多額の利益は、ベンチャーキャピタリストにとって、投資すべき企業を示すサインとなっていた。市場理論によれば、これらの企業には何かがあるはずだった。市場は「これが未来だ」と語っていた。

残念ことに今となっては私たちは、偽のサインだったことを知っている。そこには何もなかった。暗号資産交換業やレンディング企業の多くは、「値上がりする」という集団的信念に支えられた、暗号資産エコシステム全体に広がるレバレッジを効かせたポジションの精巧な関係という砂上の楼閣の上に築かれていた。モメンタムトレーディング、日和見主義、再担保の有毒なコンビネーションに過ぎなかった。持続可能なはずはなかった。

2021年のブーム時にさまざまなDeFi(分散型金融)プラットフォームで提供されていた3桁台のリターンは正当化できないものだったことを最初から認識するべきだった。従来の金融に比べて、リターンが信じられないほど高かっただけではなく、高いリターンを裏付ける実世界での実用性が十分ではなかったからだ。同じことは中央集権型取引所(CeFi)プラットフォームでのトレーディングと手数料についても言える。

高価格を維持するための十分な実用性を実現するためには、分散型発電のようなトークン化された価値交換など、基盤となる実世界でのユースケースに対して、はるかに多くの投資が必要だった。しかし市場はマネーはそこに向かうべきというサインを出していなかった。FTXやセルシウスに「すべて賭けろ」というサインだった。

信頼できる情報

どうすれば解決できるだろう?

悲しいことに、すぐにリッチになれるという宣伝文句を掲げるプロジェクトを拒否して、国境を越えた送金、NFTロイヤリティプロジェクト、分散型デジタルIDソリューションをはじめとする、実世界での用途を持つ小規模で持続可能な現実世界のアプリケーションに投資するよう、人々に強く勧めることはできない。投機家は投機が仕事だ。

必要なのは、暗号資産企業や業界についての、より信頼できる情報だ。取引所やレンディングサービスの短期的収益性に関するデータだけでなく、そうしたリターンの基盤と長期的な持続可能性に関する詳しい情報だ。

おそらくそうした情報があれば、ベンチャー投資家は投機にまつわる短期的チャンスを無視して、リアルな長期的プロジェクトに投資するだろう。

情報の非対称性

しかしまだ問題がある。シリコンバレーに起因する問題だ。トークンモデルによって、ベンチャーキャピタリストたちは従来縛られていた5年間の流動性ロックアップよりもはるかに早くエグジットできる可能性があるため、長期的チャンスのサインを無視して、短期的なバブル的瞬間に投資し続けるかもしれない。

VCたちは資金調達ラウンドの際に特別な情報に早い段階からアクセスでき、後から情報を知る個人投資家よりも有利になるためだ。

これこそ、証券取引法が対処しようとしている「情報の非対称性」問題だ。後期の資金調達ラウンドの参加者の視点でこれを考えることができる。

投資先の組織はすべてを知っている。初期の投資家は、すべてではないが多くを知っている。そして後期の投資家たちは知らないことがはるかに多い。このような非対称性は、価格シグナルの歪みの根本的原因の1つ。証券規制当局が情報公開を強制することで、こうした情報格差を縮めることができる。

規制か自助努力か?

FTXのような中央集権型取引所にとって、SEC(証券取引委員会)への登録を含め、より厳しい規制が避けられないことは今となっては明らかだろう。問題は規制がどれくらい厳しくなるかだ。

しかし、この間の出来事にもかかわらず、過剰な規制はイノベーションを阻害することですぐに裏目に出るという根強い主張は健在だ。特に証券取引法が、特定できる中央集権型組織を持たないDeFiプロジェクトのソフトウェア開発者をむやみに標的にした場合、特に大きなリスクがある。

だからこそ、業界が自らを救う必要がある。このテクノロジーが実世界的な価値を高め、持続可能な経済を育むことを真に望む業界のリーダーたちに、透明性を高めるための基準づくりで協調するよう呼びかける時だ。

プルーフ・オブ・リザーブに対する広く受け入れられたアプローチ、オンチェーンやその他の記録を利用してプロトコルのリスクや異なる資産を評価する格付け組織、ソフトウェアの監査やバグ発見のための報奨金に関する共通の規格など、コミュニティのメンバーに互いに有益な情報開示を促すためにできることは多い。

そうした道を進むか、資本主義の恩恵を完全に諦めるか、道は2つに1つだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Rachel Sun/CoinDesk
|原文:FTX and Crypto Bust Show Capitalism’s Limits