「AI開発停止」要求に潜む策略と危険【オピニオン】

IT業界の大物たちが先月、GPT-4よりもパワフルなAI(人工知能)モデルのトレーニングを6カ月間停止するよう求める書簡に署名した。

この書簡は危険で、思慮深い市民を刺激するものだ。署名者たちは開発の一時停止によって、AIに潜むリスクを理解し、対応する時間の猶予を手にできると主張している。

真の狙い

だが、もしそうなれば、アメリカの経済と国民を取り返しがつかないほど痛めつけることになるだろう。

GPT-4や同様のモデルは、人間の能力を1000倍に高め、生活の多くの分野で社会的変化を牽引すると約束している。業界の現在の力関係は、このテクノロジーから誰がメリットを受けるかを左右する可能性が高い。

例えば、1997年にマイクロソフトとデルが同様の「開発中止要請」書簡を発表したと想像してみてほしい。インターネットはリアル店舗型ビジネスを破壊し、テロリストへの資金提供をサポートすると述べ、半年間のウェブブラウザー開発の一時停止と、eコマースサイトの利用禁止を呼びかけたと考えてみてほしい。

書簡は、自分たちの利益になるよう不安を煽り、規制を実質的にコントロールしようとする試みだと理解できるはずだ。

書簡の危険性

少数の魅力的なリーダーたちが、私たちをAIの危険から守るフリをして、権力を掌握しようとしている。リーダーたちは世界がどのテクノロジーを手にして活用できるか。AIを「正確、安全、解釈可能、透明、堅牢で調整され、信頼できて忠実」なものにするのは何を決定できる、唯一の存在になろうとしている。

一握りのビリオネアたちが世界にとって何が善で安全かを決めることは間違っている。AI業界の善意のリーダーたちでさえも、そうした権力を持つべきではない。絶対的権力は絶対的に腐敗する。

世界は今、次世代のAI開発レースの真っ只中にある。

レース参加者の中に、研究や開発を中止したり、スピードダウンさせるものはいない。独立系のAI研究所や海外のライバルたちは、先進的なAIを自らのシステムに取り入れようと必死になっており、立ち止まることなどないはずだ。容赦なく走り続けている。

ブロックチェーンに学ぶ

すべての人たちが、AIが約束する1000倍の能力向上のメリットを受けられるようにするにはどうすれば良いだろうか?

その唯一の方法は、機能、方法、ネットワークチェックポイントの共有を含めた、自由で開かれた開発にある。例えば、EleutherAIは長年にわたって、GPT-2やGPT-3は市民にとって「危険過ぎる」という虚偽の警告に抵抗し、恐れずにリサーチやモデルを発表して道を切り拓いてきた。世界的にはこの先、EleutherAIの100〜1000倍の規模が必要だ(注:筆者はEleutherAIと関係はない)。

歩みを止めるべきではない。私たちは今、真に開かれたAIモデルを優先し、投資し、貢献し、幅広く公開すべきだ。人類の命運をコントロールしようとする人たちを警戒し続けなくてはならない。

11年前、ブロックチェーン分野のパイオニアたちが集まり、ビットコイン財団(Bitcoin Foundation)を設立した。プライベートな個々人のニーズおよび目標と、暗号資産の繁栄を可能にする企業のニーズおよび目標とのバランスを取る暗号資産業界における組織のモデルだ。

ビットコイン財団はさまざまなタイプの人や多くの目標を含んでいたが、単独のグループや派閥にコントロールされずにビットコインを成功させたいという思いは共通していた。AIテクノロジーにも、似たような組織が必要だと私は考えている。この10年ほどのブロックチェーンの教訓を学び、そこに独立、人間性、開放性への断固としたコミットメントを組み合わせよう。

書簡が提案する開発の一時停止は、リッチでパワフルな人たちによるAI開発の支配を強固なものにしてしまう。そうではなく、ともに開かれた場で前に向かって競争しようではないか。

私と同じような考えの人たち、あるいは懐疑的な人たち、好奇心旺盛な人たちと、より良い未来をどのように実現できるかについて議論していきたい。freeaimovement.comでは、AIをすべての人に自由で開かれたものにするために尽力する人たちとつながることができる。

ピーター・バッセネス(Peter Vessenes)氏:デジタル通貨、トークン化、ブロックチェーンに深いルーツを持つ技術者、投資家。ビットコインに初期から関わり、2012年にビットコイン財団を共同設立。米会計検査院、米財務省、その他の組織に対して、ビットコインについて助言を行った初の暗号資産業界関係者でもある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The AI ‘Pause’ Proposal Is Deceptive and Alarmingly Hazardous