従来、機関投資家しかアクセスできなかった非上場企業の株式への投資が、ブロックチェーン技術によって個人投資家にも可能になる。
SBI証券、新生信託銀行、東京海上アセットマネジメント、BOOSTRYの4社は9月26日、国内の非上場株式(プライベートエクイティ)への投資を行うセキュリティ・トークンを共同開発し、その公募について協業すると発表した。
プライベートエクイティ:トークン化の次のターゲット
米国や欧州では、マネーマーケットファンド(MMF)などの金融商品や株式のトークン化が進み、伝統的金融(TradFi)と暗号資産の融合が確固としたトレンドとなっている。ブロックチェーン技術を活用したさまざまなアセットのトークン化は、米ドルなどの法定通貨をステーブルコインに変え、多様なアセットをオンチェーン化することで、透明性、流動性、アクセス性を備えた新たな金融システムを生み出そうとしている。
そうしたトレンドの中で、プライベートエクイティは、トークン化の次のターゲットとして期待されている。
また、日本では、NISAの登場をきっかけに資産運用への関心が高まっており、株式や債券といった伝統的資産のみならず、オルタナティブ投資と呼ばれる代替資産への投資も注目されている。プライベートエクイティ投資はその代表例でもある。
さらに日本政府も革新的なビジネスを生み出すスタートアップ企業を支援するため、2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、5年間でスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大することを表明。国内のプライベートエクイティ市場は今後ますます活発になると見られている。

個人投資家にとっての障壁
一方で、プライベートエクイティ投資は現状、機関投資家に限られており、個人投資家のアクセスはきわめて限定的だった。
リリースによると、運用実績が優良で高い評価を受けているプライベートエクイティ(PE)ファンドは、個人投資家よりも機関投資家からの資金調達に注力する傾向があるという。機関投資家との長期的な関係性構築を重視することがその要因の一つだ。
また、機関投資家は、プロ投資家として洗練された投資判断プロセスを持ち、PEファンドの投資方針も深く理解したうえで長期的なパートナーとして投資を行う。つまり、PEファンドは機関投資家のみで十分な資金を確保できるため、個人投資家からの資金調達を行う必要性を感じていないのが実情だ。
また、規制上の制約、高額な最低投資金額、長期間での資金拘束(低流動性)などもあり、個人投資家のPEファンドへの投資にはさまざまな障壁が存在する。
PEファンドへの投資機会を個人投資家に
今回共同開発された「東京海上・日本プライベートエクイティ戦略ファンドST」は、国内のPEファンドへの投資を通じて、従来、アクセスが限られていた非上場株式への投資機会を個人投資家に提供することを目的に開発されたという。
リリースによると、主な特徴は以下の通りだ。
1. 機関投資家である東京海上アセットマネジメントがゲートキーパーとして個人投資家に代わり、長年のPE投資経験と実績に裏打ちされたプロの目線で優良なPEファンドを厳選
本スキームにおいてゲートキーパーを担う東京海上アセットマネジメントのPE運用チームは、1997年に東京海上日動火災保険がPE投資を開始したことに端を発し、約30年にわたる運用経験を有している。2002年に同社からPE運用チームが東京海上アセットマネジメントに移管され、PEファンドの運用を開始。運用資産残高は約1兆5,000億円(2025年6月末現在)にのぼり、過去10年間のTOPIX(PMEベース)を上回る運用成績(報酬控除前)を残している。
2. 複数の優良PEファンドに分散投資を行うことで、リスク分散する商品を開発(Fund of funds)
本スキームでは投資効率が最良となることを目指して、ある程度成熟した企業の経営権を取得し、企業価値向上を図るバイアウトファンドと創業間もないスタートアップ企業やベンチャー企業に成長資金を供給するベンチャーキャピタルファンドを組み合わせる。また、組み入れるファンドの選定は、PE投資の分野で豊富な実績を有する東京海上アセットマネジメントのノウハウを最大限に活用して厳選するファンドとなる。
非上場会社のうち、企業のライフステージが異なるバイアウトファンドとベンチャーキャピタルファンドという複数のPEファンドへの投資を通じて、リターンの向上とリスクの分散を目指す。

3. BOOSTRYが開発を主導する「ibet for Fin」を活用した小口投資
本スキームにおけるSTの募集、取得および譲渡は、BOOSTRYが開発を主導するSTのコンソーシアム型ブロックチェーン基盤「ibet for Fin」にて管理する。
セキュリティ・トークンを活用した国内PEファンドに投資する特定受益証券発行信託の提供は国内初(BOOSTRY調べ)となる。
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国内のセキュリティ・トークン市場は、2020年にスタートして以来、順調な成長を続け、発行金額はBOOSTRYのダッシュボードによると累積で2200億円を超えている。これまで、裏付け資産は不動産と債権が中心で、大部分は不動産が占めていた。
グローバルでRWAトークン化の潮流が勢いを増すなか、日本においてプライベートエクイティ投資のトークン化商品が登場したことは、セキュリティ・トークン(デジタル証券)、そしてRWAのトークン化が新たなフェーズを迎えたと言えるだろう。
|文:増田隆幸
|画像:リリースより


