金融庁は11月26日、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ(WG)」の第6回会合を開催し、これをもって一連の審議を終了した。
会合では事務局より報告書案が提示され、金融商品取引法(金商法)への移行を軸とする規制見直しの方向性について、出席した委員や業界団体から大筋での「賛同」が得られた。
しかし、新たな規制枠組みへの移行という方向性は決定したものの、審議の過程や最終報告案においては、制度の実効性やビジネスの持続可能性に関する課題が積み残されたままとなっている。
特に、規制強化に伴う事業者への負担増への対応については、解決策が示されていない。
報告書案では、不正流出への備えとしての「責任準備金」の積み立て義務化や、交換業者が利益相反の観点から収益性の高い「販売所」へ顧客を誘導することへの懸念対応など、事業者に対してより高度な規律とコスト負担を求めている。
これらの規制案に対し、第5回会合(11月7日)では、日本ブロックチェーン協会代表理事の加納裕三氏(bitFlyer)が、「このままでは業界が存続できない」と強い危機感を示す一幕もあった。
今回の最終報告書では、こうしたビジネス存続の観点に対する具体的な解決策や、イノベーションとのバランスをどう保つかという点については明確化されておらず、規制コストの増大が業界の疲弊を招く可能性は拭えていない。
なお、CoinDesk JAPANが本会合に先立ち金融庁へ書面による取材を行った際、同庁は事業者の負担について認識を示しつつも、「健全な取引環境を整備することが不可欠」と回答している。
こうした事業継続への懸念がある中、最終会合では日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)、日本ブロックチェーン協会(JBA)、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の主要3団体が連名で資料を提出する動きも見られた。
資料では「暗号資産業界が一丸となって、より強固な体制整備を行う」と記され、金商法への移行を見据えた対応策が提示された。
具体的には、JVCEAに売買審査担当者を新たに設置することや、不公正取引の検知における閾値設定について日本取引所自主規制法人(JPX-R)の取り組みを参考にすることなどが盛り込まれており、業界横断で自主規制機能の向上を図る姿勢が示された形だ。

一方で、利用者保護の観点においては、委員から制度の副作用や限界を指摘する声も出た。
岩下直行委員(京都大学教授)らは、法整備によって「投資家」という呼称が用いられることで、暗号資産があたかも伝統的な金融商品と同様に安全であるかのような、国による「お墨付き」を与えてしまうリスクを指摘。規制が変わろうと、本質的なリスクが消えるわけではない点の周知が必要だと訴えた。
また、技術と法の乖離という根本的な課題については、松尾真一郎委員(ジョージタウン大学研究教授)が「相続」を例に挙げて警鐘を鳴らした。
松尾氏は、現状の技術では秘密鍵を所有者しか知らない場合に、「相続」という極めて一般的な手続きさえ困難になると指摘。
「相続できない資産が国民の資産形成に資するものかどうか十分に考える必要がある」と述べた上で、技術が新しいために顕在化していないだけで、法制度も技術も未成熟なままであるとの認識を示した。
その上で、こうしたギャップを埋めることは、全員で解くべき「宿題」であると強調した。
今後のスケジュールについて、CoinDesk JAPANが金融庁に確認したところによると、まずは今回の議論を踏まえて報告書が取りまとめられ、金融審議会の総会での報告を経て、法案化のプロセスに進むのが一般的な流れだという。
金融庁は「(暗号資産の法律改正は)早期の国会提出を目指しており、通常国会に法案を出す時の過去の例では、年内中に報告書をまとめているケースが多い」とコメントしている。
|文:栃山直樹
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