バイデン政権の大規模予算案はコロナが生んだニューノーマルか

バイデン政権の大規模予算案はコロナが生んだニューノーマルか

バイデン米大統領は5月に2022会計年度(2021年10月1日~2022年9月30日)の予算案を発表。成立すれば、第二次世界大戦以来、最大規模の歳出となるが、予想通り激しい議論を巻き起こしている。

歳出の詳細をめぐりいつも通りのせめぎ合いが見込まれるが、今回の予算案は、より広範なイデオロギーのシフトを突き進め、活用しようとする試みでもある。新型コロナウイルスのパンデミックによって、政府支出や政府プログラムは、アメリカ国民にとってはるかに魅力的なものとなった。

お膳立ては揃っていた。今回の予算案は、パンデミックに対する経済対策が人気で、おそらく効果的と分かった後に提出された。長期的に高まる不平等やその他の深刻な社会問題は、バーニー・サンダース上院議員のような親政府派の声により大きな居場所を生んでいた。

一方、保守的な財政赤字強硬派は、トランプ大統領の台頭により隅に追いやられていた。大きな政府の復活にぴったりの舞台が整っていたのだ。

インフレリスクの高まり

しかしもちろん、コストも伴う。政府支出を容認すれば、長期的な債務を引きずることにつながるだけではなく、インフレの高まりに油を注ぐこともあり得る。

これは、ドルなどの法定通貨に対するインフレヘッジとして機能するという、ビットコイン(BTC)の主要な論拠の1つに対する関心をさらに高める可能性がある。米CoinDesk主催の「Consensus 2021」で投資家のレイ・ダリオ(Ray Dalio)氏がビットコイン支持を表明した主な理由は、インフレの高まりであった。

この考えは、特にアメリカにおいては、ほとんど実際の真価が問われてはいない。しかし、アメリカ国民の姿勢のシフトと、バイデン大統領の立法アジェンダは、ビットコインが政府支出、債務、インフレの増大にどのように反応するかを実世界で披露する場を作り出す可能性がある。

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、バイデン大統領の予算案は、2022年の裁量支出を8.4%増加させ、非軍事支出は全体で16%増加する。2022年の予算案は合計で6兆ドル(約658兆円)だ。

大統領はこの先10年間の支出提案も提示した。議会予算局によると、アメリカ連邦政府の負債は2031年までにGDPの117%へと増加する。これは、経済に対するリスクが高いと一般的に考えられる水準だ。注目すべきことに、トランプ政権によるパンデミック前の減税と支出もすでに同様の影響をもたらしており、2035年までに同じレベルとなる道筋をつけていた。

バイデン大統領の大規模支出は、アメリカ国民の暮らしの改善に焦点を当てられている。(軍事支出はほとんど増加しない)育児への補助金支給、コミュニティーカレッジの学費無料化、有給休暇、交通や公共システムのアップグレードへの大規模支出などが提案されている。

キャピタルゲイン税の増税や、法人税や一部の個人所得税の税率をトランプ大統領による減税前の水準に戻すことで、政府収入を増加させることも提案に含まれる。

これらはまだ法律として成立した訳ではなく、現実的に見て、大半は成立しないだろう。予算案はおおむね、象徴的なもので、実際に実現するかに関係なく、政権が何を望むかを示すものなのだ。

民主党が議会を掌握してはいるが、法案を通過させられるかどうかは、アリゾナ州のクリステン・シネマ(Kyrsten Sinema)上院議員とウェスト・バージニア州のジョー・マンチン(Joe Manchin)上院議員の、中道派民主党員の支持にかかっている。これが、提案が成立するまでに、多くの妥協が見込まれる理由の1つだ。

インフラと教育への大規模投資

バイデン大統領の予算案において本当に意義深いのは、個々の提案よりも、政府支出に対する考えの大きなシフトを反映している点だろう。バイデン政権はこの予算案を、アメリカの未来に対する戦略的投資と位置づけており、インフラや教育に現在多額の支出をすることが、この先の成長につながると主張している。減税と支出抑制が、経済成長のための最善の方法だという保守的な態度が支配的であった過去50年間のアメリカにおいては、そのように主張することは難しかった。

しかし、バイデン大統領の公共投資の主張は、アメリカが突如、それに対してより理解ある姿勢を示すようになった時にやってきた。パンデミックは昨年、アメリカ経済を3.5%縮小させ、経済回復のために政府支出を加速させるチャンスを生んだことは明らかだ。このような不況に対する「ケインズ主義的」アプローチはすでに、トランプ大統領のもとでも実施されており、当時のスティーブン・ムニューシン(Steven Mnuchin)財務長官は、約1兆ドル規模の緊急救済政策を推し進めた。

トランプ政権の緊急経済対策と、その後に続く救済政策へのアメリカ国民からの支持は、そのような政府支出に長年反対してきた共和党支持者の中でも高いものであった。そのことは、赤字に支えられた政府支出の人気をさらに高めるような、もう1つのシフトを反映している。共和党の効果的なリーダーとしてのトランプ氏の台頭が、均衡予算を含む、伝統的保守派の考えの勢いを削いだのだ。

経済回復のための支出増大アプローチはすでに、成功を収めている。年間では劇的に縮小したにも関わらず、アメリカ経済は2020年第4四半期には年率換算で4%以上、2021年第1四半期には6.4%成長した。アメリカのGDPは現在、6月末までにパンデミック以前の水準を超えると見込まれている。

ここで一般的に比較対象となるのは、2008年の金融危機だろう。あの時には、より限定的だった連邦政府による救済政策が、5年近く長引く経済停滞につながったと主張する人たちもいる。金融危機の構造的根深さのために、単純な比較はできないが、多くのアメリカ人はこの対比を、ケインズ主義的な赤字支出の正しさの裏づけと捉えているようだ。

もちろん、経済対策のこれまでの成功は、政府支出を継続的に高い水準にしておくことに反対する根拠にもなる。おそらくもう十分に対処しただろう。経済は回復への道をかなり進んでいる、という風に。

例えば、GDPの回復に加えて、失業率は2020年4月に記録した驚愕の17%から低下して、現在6.5%。比較的健全な経済に対して、赤字支出を継続することはインフレを高めるリスクがあると、批評家は語る。インフレ率はすでに、13年ぶりの高水準へと到達。しかしこれに関しては、パンデミックに起因する不足や経済活動再開による需要の一時的な影響とみなす理由もある。

しかし、バイデン大統領の予算案は究極的には、コロナウイルスのはるか先を見据えて、アメリカの成長を阻んでいると政権が主張する、より深い経済問題に対処しようとしているのだ。

経済政策とワクチン接種の成功

ここでも、提案を国民に売り込むにおいて、状況はバイデン大統領に大きく優位となっている。パンデミックに対するアメリカの対応は前途多難なスタートを切ったが、経済対策とワクチン接種の最終的な成功が、政府に対するアメリカ国民の信頼と、政府は自分たちの暮らしに対して好ましい役割を果たすことができるという国民の考えを高めたようだ。ジョンズ・ホプキンズ大学の昨年10月の調査によれば、「社会における政府の積極的な役割」を支持するアメリカ成人の割合は、24%から34%に増加した。

バイデン大統領の提案は、パンデミックからの回復を超えたより長期的な目標に向けて、政府への信頼の高まりを利用する試みだ。多くの場合、提案された対策は、減税と、レーガン大統領によってアメリカの政策の指針となった緊縮財政のもとで、何十年にもわたって悪化させられていた問題への対応なのだ。

公共設備、道路、橋、ダムなどは、設備投資の縮小が続けば、莫大な経済的コストを伴う破滅的な不具合のリスクにさらされる。例えば、2月に発生したテキサス州での送電停止は、多くの死者を出しただけではなく、その損失は1950億ドルに及ぶ可能性もある。これは、送電停止を防ぐためにかかったはずのコストをはるかに上回るものだ。送電停止の原因は、予想されていた気温の大幅な低下を前に、電力発電所の冬に対する備えを怠ったことであった。

最も良い例は、教育かもしれない。公立大学への財政支援の減少が、学生ローン負担増加の大きな原因となった。コミュニティーカレッジを支援するための支出拡大というバイデン大統領の提案は、その問題に長期的に対処する役に立つ。予算が増えれば、学生ローンに苦しむ学生をより直接的に助けることができるかもしれない。しかし、最も意義のある点は、民主党員の90%、共和党員の65%が、学生ローンの返済を助ける政府の取り組みに支持を表明したことかもしれない。

学生ローン救済が人気なのは、今すぐに多くの人々の暮らしを楽にするからだ。しかし、教育に対する支出を増やすことのより深い根拠は、長期的な成長を高める点だ。コミュニティーカレッジに重点を置くことは、その仕組みをよく表している。コミュニティーカレッジでは、溶接や機械加工など、現在働き手の大幅な不足が見られる職業に対する訓練を提供するからだ。

働き手不足は、賃金を吊り上げることで企業の支出を増加させるだけではなく、革新を妨げたり、他にも広範で有害な影響をもたらす。例えば、アメリカにおける熟練した機械工の不足は、パンデミックへの対応として個人用防護具の製造を国内で拡大するのに大きな障害となった。長期的には、アメリカの「スキルギャップ」が、製造業をアメリカに連れ戻すという、バイデン大統領の政策優先事項の1つの実現も困難にする。

これが、将来的な経済を改善させるために、現在支出を増やすという理論である。単なる補助金と捉えてしまいたくなるような、バイデン大統領が提案する児童手当といったものも、経済的根拠に支えられているのだ。パンデミックによって、多くの高額所得者やイノベーターなど、より広範な経済の成功に不可欠な人たちをはじめとする、何百万人もの女性が在宅することになった。育児支援によって、彼女たちは仕事場に復帰しやすくなる。

請求書はいつの日か支払い期限を迎える

しかし、巨額の支払いはどうする?最も馴染みやすい反論は、現在賢く投資すれば、本当の経済成長が、将来的に債務を返済するのをより楽にしてくれるというものだ。

永続的な赤字を、物議を醸さないアメリカ予算の当たり前の一部とするような、バイデン大統領の提案は、最も進歩的な観点からでも、正当化するのがはるかに難しい。パンデミックによって、多くのアメリカ人は初めて、政府は自らの暮らしにまっとうで好ましい役割を果たすことができると信じるようになった。しかし、政府支出に伴う請求書は、いつの日か支払い期限を迎える。

 デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)は米CoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Has COVID-19 Made Biden’s Big Spending the New Normal?

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