ヴィタリック・ブテリンの父、暗号資産とウクライナを語る【インタビュー】

ヴィタリック・ブテリンの父、暗号資産とウクライナを語る【インタビュー】

ロシア系カナダ人でプログラマー兼起業家のディミトリ・ブテリン(Dmitry Buterin)氏は、息子のヴィタリック氏にビットコイン(BTC)を紹介したかもしれないが、暗号資産(仮想通貨)の歴史の中では自らがあまり重要とは考えていない。

「イーサリアムの生みの親」の父

しかし、ビットコインとの出会いは、現在では最も使われているブロックチェーンとなったイーサリアムを、ヴィタリック氏が共同で立ち上げることにつながった一連の出来事のうちで、最初のステップだったのだ。

ロシア語でのディマというあだ名でよく呼ばれているディミトリ氏は、謙虚で思慮深い人物だ。ソフトウェアエンジニアリングの世界で成功した後、半ば隠居の身であるディマは、暇があれば哲学書を呼んだり、散歩をしている。木の枝についた霜や春一番に咲いた花など、自然の中にシンプルな喜びを見つけては、写真を撮っている。

ヴィタリック氏の父親としてメディアに顔を出すよりも、初期段階の暗号資産プロジェクトをサポートしたり、教育企業ブロックギークス(BlockGeeks)を運営することに、やりがいを感じているのだ。

暗号資産を信じる多くの人と同じように、ディマも複雑さに喜びを見出している。「ワールドコンピューター」を目指すイーサリアムは、銀行業務からウェブの屋台骨まで、あらゆるものに影響を与える技術経済的革命の中心に存在している。

ただ、イーサリアムプロジェクトは巨大であったとしても、より小さい個別のパーツから作られた方が、上手く機能するのだ。

「現在、最もクリエイティブな分散型プロジェクトは、テック系の人たちが作っている」と、ディマは語る。イーサリアムの成功は主に、暗号資産が支えるアプリケーションを誰でも簡単に開発できるようにするそのデザインによるものだと、彼は考えている。そして、世界で最も厄介な問題のいくつかは、権力と影響力の中央集権化に起因しているとも感じている。

ソビエト連邦に生まれ、ロシアとカナダの市民権を持つディマは、プーチン大統領をはじめ、世界中の権威主義者を声高に批判している。プーチン大統領がウクライナに侵攻し、何千人もの死者と何百万人もの難民を生むはるか以前から、ディマはプーチン大統領を「独裁者」と呼んで憚らなかった。

「腐敗が国家の最高レベルにまで達してしまった」とディマは言う。

暗号資産は驚くことに、今回の戦争に直接影響を受けた人たちにとって有用なライフラインとして力を発揮している。ロシアによる侵攻からほぼひと月、ウクライナ政府は様々な暗号資産で、軍事および民間のニーズのために、1億ドル以上の寄付金を集めた。ウクライナDAO(自律分散型組織)といったチャリティー活動や、直接のオンチェーン寄付にも、さらに何百万ドルが寄せられている。

暗号資産と分散化

暗号資産は、今回の戦争中、そして戦争終結後に、さらに大きな役割を果たすかもしれない。自由市場組織や権威の分散化に力を与えることで、各種暗号資産プロトコルは、プーチン大統領のような人物が権力を握ることのないようにする新しいシステムをサポートしていると、ディマは説明する。「現状は、暗号資産の普及に向けた次なる大きな後押しとなる」

ディマは分散化を重視しているため、暗号資産プラットフォームが全ロシア人に対する包括的制裁に参加するべきではないと考えている。

しかし分散化と、利益による動機づけは、両刃の剣だ。タイム誌は先週、ヴィタリック氏に関する最新の詳細なプロフィール記事を発表した。イーサリアムの生みの親である彼は、暗号資産業界に対して、開発されているものや、システムがどのように使われているかについて、もっと批判的に考えるように呼びかけた。

必要性のないNFTや手詰まりのDAOなど、最も収益性の高いプログラムは必ずしも、世界が最も必要としているものではない、とヴィタリック氏は指摘。ディマもそれに同意しており、技術者たちは「人間の」問題に重点を置く必要があると語った。

ウクライナ戦争や人々に力を与えるテクノロジー開発の大切さについてディマが語ってくれたインタビューの内容を、紹介しよう。

──暗号資産は、国際金融における立ち位置について思い悩んでいるように見えます。中央集権型の暗号資産取引所やサービス提供業者は、ロシア人ユーザーに制裁を与える道徳的義務や政治的務めがあると思われますか?

私の意見はこうだ。ウクライナでの戦争は恐ろしいものだ。人々は苦しみ、食料も水もなく、2週間以上も防空壕に隠れている。現在、世界は最優先で、このような卑劣な行為を止めなければならない。

人々はロシア国民を追放し、プーチン大統領とその支持者たちに打撃を与えることで、彼らを止めようとするかもしれない。感情的に言えば、まったくもって当然のように思えるだろう?しかし、厳しい状況の時はいつでも、そのような思慮に欠けた条件反射的反応が多く生まれるものだ。

私は、この戦争を止めるためにできる限りのことをしたいと思う。しかし、何らかの中央集権型取引所を利用している一般的な暗号資産ユーザーは、プーチン大統領の取り巻きであるオリガルヒ(新興財閥)や、今回の戦争から儲けようとする人たちではないだろう。

プーチン大統領に積極的に反対している、教育を受けた人々は多く存在している。彼らは言ってみれば、自国内で人質になっているようなものだ。反対表明をしていようが、沈黙を守っていようが、彼らが暗号資産にアクセスできないようにするというのは、病気を治そうとしてさらにひどい治療を施しているようなものだ。しかし、そのような対応を求める人たちがいるのも理解できる。

ウクライナ危機と暗号資産

──DeFiプラットフォームも同様で、オープンとされている金融プラットフォームは、制裁を課すことは理論的にはできません。今の状況は、そのような立場を試す場となるでしょうか?

まったくもってそうだ。懐疑派の方が正しいかもしれない。しかし現状は、暗号資産の普及に向けた次なる大きな後押しとなるように、私には感じられる。ウクライナをサポートするのに、暗号資産がどれほど有用で大切であるかを、私たちはすでに目にしている。

私も個人的に、様々な組織に寄付をしている。最新のレポートでは、暗号資産だけで、直接かつスピーディに1億ドル以上を集めたとされている。官僚制のレイヤーが即座に除去され、不要になった。それは素晴らしいことだ。

制裁によって、プーチン大統領を支持しているかどうかに関わらず、ロシアの多くの人々の生活は、急速に極めて困難になっている。その点に関しては、慎重にならなければならない。暗号資産を使って制裁を回避しようとするような動きが、ロシアの政府や業界によってなされることは間違いない。それは避けられないことだ。

私にとっては、この狂った独裁政権を破壊しつつ、一般市民をサポートするにはどうするのか、というのが問題だ。暗号資産は、そのためには優れたツールとなる。

腐敗が国家の最高レベルまでに達しており、ロシアのオリガルヒが外国の政治家を買収してしまった海外にさえも及んでいる。つまり、(暗号資産が)政府や組織、オリガルヒによって使われたとしても、透明性を導入する素晴らしい方法となるのだ。

少額の取引を止めようとすることは無駄であり、標的とすべき人たちはすり抜けてしまうだろう。しかし、ロシア(の組織)が制裁を回避するために暗号資産を使えば、金銭の大きな流れを把握するのは、はるかに簡単になる。それに対しては、対処方法を見つけることができるだろう。

──ウクライナのデジタルトランスフォーメーション副大臣は、暗号資産は伝統的なクラウドソーシング手段よりも「便利」だと語りました。シンプルなオンチェーンクラウドソーシングを超えた、暗号資産を活用する方法について考えていますか?

それはすでに起こっていると、私は考えている。例えば、ウクライナDAOだ。私は寄付したし、ヴィタリックも寄付したと思う。そのような動きがさらに増えてくるだろう。

しかし、DAOはいまだにかなり非効率的だ。その構造は極めて有機的である。現在は緊急事態モードにあるが、そのような時にはDAOを作り出し、そのミッションを見極め、意思決定を委任するといったことには時間がかかってしまう。短期的には、それほど複雑ではない方法を使った方が簡単だろう。

しかし、影響の強い実験が出てくることは確実だと思う。例えば、ロシアがウクライナで犯している戦争犯罪を記録するために、人々が使っているデータベースを見たことがある。ボランティアが写真を提供しているんだ。

それにDAOの構造を導入し、貢献する人たちが報酬を受けられるようにすることは長期的には可能だろう。検証をしたり、事実確認を行うのに役立つ評価システムのようなものも作れるかもしれない。

ユーザーファーストのウォレット開発

──100%暗号資産に集中して取り組まれているのでしょうか?暗号資産の世界で現在、起業家にとっての最大のチャンスはどこにあるとお考えですか?

私は、言うならば、半ば隠居の身だ。いまだに色々なことに関わっていて、エンジェル投資や、指導やコーチングなども行なっているし、共同で立ち上げた会社もある。

私が携わっていることの95%は、暗号資産を改善することに関わる。最も興味深く、最もエキサイティングな分野だからだ。新しいテクノロジーの波がやって来ているんだ。

チャンスという点では、ウェブ3が大衆への普及の時代に突入していると思う。中央集権型プラットフォームには様々な弱点や問題が見つかっており、今はそのソリューションを開発しているところだ。システムの分散型の側面という、根本的に本当に大切なものに集中することが大切になるだろう。

ソラナのようなものを見てみると、効率的でより安価であるなど、短期的なソリューションとしては素晴らしい。しかし、分散化にとってどうであるかという点について、私は感銘を受けていないため、興味をそそられない。しかし、暗号資産の世界において、別のチャンスにもつながる。優れたユーザーエクスペリエンスだ。

現在、最もクリエイティブな分散型プロジェクトは、テック系の人たちが作っている。それについては、考える必要がある。暗号資産ウォレットをとってみても、その大半が非常に基本的なものだ。

しかし、NFTコレクターとしては、個別の機能に特化した専用のウォレットをぜひ見てみたいだろう。あるいは投資家ならば、日常的な取引の方が大切になるかもしれない。

テクノロジーを押し付けるのではなく、ユーザーの求めているものを見極めるところに、可能性が秘められていると思う。ユーザーフレンドリーなシステムを設計し、検閲やスパムといった大きな社会的問題にも対応するということだ。

Web3暗号資産バブル

──オンチェーンで取引は出来たとしても、暗号資産を使うことを不可能にするような法的、文化的システムに暗号資産が常に組み込まれてしまうということを考えると、「デジタルマネー」を実生活にもたらそうとするのは無駄足なのでしょうか?

いいや、無駄足とはまったく思わない。非常に可能性のある取り組みだと思う。テクノロジー業界のスマートな人々にとって、テクノロジーにフォーカスし過ぎてしまうことはよくある。

テクノロジーの高度さ、素晴らしさ、複雑さにとらわれて、ユーザーに届けるまでの「ラストワンマイル」の問題を考え抜くことを怠ってしまうのだ。検閲耐性など、人間的側面が、ビットコインの性質を変えることができる。最大級の問題に対するソリューションが開発されているのだ。

カナダでのデモやウクライナをめぐる事態においては、現行の中央集権型システムの弱点が露呈している。私たちは、巨大な中央集権型システムを信頼するようになってしまった。

「おい、フェイスブック。私のデータを保管しておいてくれ。おい、銀行。私のお金を保管しておいてくれ。おい、ツイッター。私の過去を保管してくれ」という風に。そして今、彼らがその権力を乱用している。私たちを検閲し、私たちのデータを広告主に売りさばき、お金を発行しているのだ。

ビットコインから始まった自分たちのお金を自分で保管するというプロセスは、簡単なものではない。携帯電話を紛失し、シードフレーズ(パスワード)をバックアップしていなかったら、誰も助けてくれないということを、人々は急速に理解し始めている。

これは本当に、厳しい警鐘だ。だから私たちは、慎重にならなければならないが、私たちの目の前で、本当の人間の問題を解決するようなシフトが起こっていることは間違いない。

すでに分散化ムーブメントに携わっている人たちが、他の人たちが自律性や新しい組織などについて学ぶのを助けるには、本当に素晴らしい時である。ウェブ3暗号資産バブルはついに、世界全体を包んでいる。

──ヴィタリックさんについてお聞きしない訳にはいきません。彼が最初に発した言葉を覚えていますか?

まったく覚えていないよ。実は彼は、言葉を話し始めるのが遅かったんだ。文字にする方がずっと得意だった。発話の方は、後になってマスターしたんだ。確か4歳の時だったか、古いIBMのパソコンをあげたら、エクセルを使っていたよ。数字をセルに入力して、方程式で遊ぶことをすぐに覚えたんだ。

言うなれば、数字が彼の最初の言葉だった。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Alexey Smyshlyaev / Shutterstock.com
|原文:Vitalik Buterin’s Dad on Ukraine, Censorship and Decentralization

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