NFT:実世界での幅広い活用事例【基礎知識】

有名なハリウッド・ルーズベルト・ホテルとハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに挟まれた場所に、排他性を売りにする新しい人気スポットがある。「ザ・ダンシング・シーホース・クラブ(The Dancing Seahorse Club)」は、ほかの人気ソーシャルクラブと同じように、少数限定向けコンサートやイベントスペースへの限定アクセスなど、メンバー限定特典を提供している。

しかし音楽に特化したこのスタートアップは、年会費制を採用するのではなく、NFT保有者に生涯特典を提供している。

レジェンダリーNFTとプレミアムNFT

「ビジネスをWeb3の世界で展開したくなるような、オンチェーンソリューションのメリットが何百もある」とCEOのアレックス・ナハイ(Alex Nahai)氏は語る。

「私たちの人脈や、可能な限り最高のファンエクスペリエンスを作り上げるために投資するものを通してメリットを提供できる」とブロックチェーン分野に進出する以前は、音楽やエンターテイメント業界に携わっていたナハイ氏は説明する。

ダンシング・シーホースは、社名にもなっているタツノオトシゴのロゴをモチーフにした、当記事執筆時点では大手マーケットプレイス「オープンシー(OpenSea)」でのフロア価格が88イーサリアム(約15万ドル)にもなっている444個の「レジェンダリー」NFTと、3イーサリアムの「プレミアム」NFTが8888個という2段階のメンバーシップを用意している。

保有者はこれまでに、ラッパーのポロGのライブや、バッド・バニー、ジャック・ハーロウ、ポスト・マローンといったアーティストのショーを目玉にしたVIPイベントへのアクセスなどの特典を受け取ってきた。

ダンシング・シーホースは「音楽業界を永久に変える」を目標としており、NFTに実世界での特典やエクスペリエンスを加えた「ユーテリティNFT」に特化している。

ユーティリティNFTとは?

NFTというと、JPEG画像や高額なアートNFTを思い浮かべる人もいるだろうが、多くのNFTクリエーターは、保有者に実世界での特典を提供し始めている。長期的保有にインセンティブを与える手法は、厳しい「暗号資産の冬」や、NFT取引高の急激な低下がもたらした不透明感を払拭することに役に立っている。

実世界での特典やエクスペリエンスを提供するNFTは「ユーティリティNFT」と呼ばれる。多くはカラフルなアートワークと関連していたり、転売目的の投資家を喜ばせるようなコレクション品としての価値を持っているが、その価値の大半は幅広い実用性から生まれている。

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例えば、詐欺や価格吊り上げを防止するためにイベントチケットとして使われたり、デジタルアイテムと実世界でのアイテムを1対1で交換できる特典がついているものなどがある。

Bored Ape Yacht ClubやDoodlesなど、アートに重点を置いたNFTプロジェクトの多くも、限定パーティーや集会など、NFT保有者への実用性を追加している。

こうしたイベントに参加するには、NFTの所有権を証明する必要がある。イベントチケットとして使う場合には、自分の暗号資産ウォレットを接続してNFTの所有権を証明したり、チケットをウオレットにエアドロップすることを求められることも多い。

これは昨年、起業家のゲイリー・ヴェイナチャック(Gary Vaynerchuk)氏が「VeeCon」カンファレンスで採用した方法でもある。参加者は、ウォレットにVeeFriendsNFTを保有し、エアドロップされたVeeCon NFTチケットを入口で提示することが求められた。

第三者排除、詐欺防止

ダンシング・シーホースをはじめとする、音楽系Web3スタートアップにとって、ユーティリティNFTは紙のチケットを無くしてくれるものだ。チケットをブロックチェーンに移行することで、手数料が必要な発券プラットフォームへの依存度を減らし、音楽業界を悩まし続けるチケット詐欺に顧客が遭遇することを防止する。

チケットプラットフォームGroovooがNFTチケットへの対応を開始したのも前述のような理由からだ。主催者はNFTでチケットを販売でき、チケットの所有権を確認し、過去の取引のすべてを記録することもできる。

Groovooの共同創業者アーサー・サンパイオ(Arthur Sampaio)氏は、ブロックチェーンテクノロジーは、チケット詐欺や盗難といった問題に対するソリューションを内包していると語る。

「不正に手を加えることができない、非常に安全なチケットの保管方法に力を入れている。具体的に言えば、他の組織が私たちを信頼できるように、どんな情報をブロックチェーン上に保管できるかということ。ブロックチェーンのきわめて本質的な特徴でもある」(サンパイオ氏)

レストランの予約

グルメな人たちを悩ませる、ホスピタリティ業界の問題の解決にもユーティリティNFTが一役買っている。

ニューヨークでは、一部の人気レストランの予約はほぼ不可能になってしまっている。だがNFT保有者に優先予約オプションを提供している企業がある。

グルメ向けのサービスを提供するNFTイベント企業フロント・オブ・ハウス(Front Of House)は、通常なら数カ月待ちが当たり前の高級レストランを24時間前に予約できる特典がついたNFTを販売。他にもメンバー限定イベント、メニュー開発のための試食会、グッズなどの特典がある。

フロント・オブ・ハウスの共同創業者フィル・トロント(Phil Toronto)氏は、高級レストランが予約できるNFTを販売することは、グルメカルチャーへの一般の人たちのアクセスを広めたり、同じような興味を持つグルメコミュニティをまとめことに役立つと語る。

「『ユーティリティ』という言葉を活気づかせるために最大限の努力をしている。実世界で何が可能なのかを示し、それをデジタルトークンの世界とつなげることに積極的な役割を果たしている」(トロント氏)

フロント・オブ・ハウスのウェブサイトでは、Dame、Emmett’s on Groveなど、ニューヨークの高級レストランへのアクセスを提供するNFTが並ぶ。他にもフード写真家エバン・サン(Evan Sun)氏が撮影したNFT画像や、特別なグッズがついてくるポリゴンベースのWildair’s Donut ClubといったNFTが用意されている。

他にも、ヴェイナチャック氏のVCRグループが手がけるニューヨークのプライベートダイニング、フライフィッシュ・クラブ(Flyfish Club)といった事例がある。独自NFT保有者のみが利用できるレストランで、NFTのフロアプライスは当記事執筆時点、オープンシーで3.5イーサリアムとなっている。

コミュニティを支える

ユーティリティNFTプロジェクトは多くの場合、団結したコミュニティ構築に成功している。保有者間で共有される帰属意識や連帯感がつながりのための新しいチャンスを生み出し、コラボレーションを促している。

ダンシング・シーホースの場合は、限定エクスペリエンスを開催することで、音楽ファンは互いに知り合ったり、お気に入りのアーティストの限定パフォーマンスにアクセできるようになる。

「Web3を使うことで、私たちが提供するエクスペリエンスは人々に人脈作りのチャンスをもたらことができる」とナハイ氏は語る。

人気NFTは短期投資家の興味を引くかもしれない。だが独自の共有できるエクスペリエンスを生み出すことがユーティリティNFTの多くの保有者にとってはセールスポイントとフロント・オブ・ハウスは考えている。

「結局のところ、金儲けではない。実際に行える何かを提供してくれる資産を保有することが重要だ」とトロント氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:NFTs IRL: How Digital Collectibles Are Forging Offline Experiences