Bored Ape帝国、成功の秘密【最も影響力のある人物 2022】

爆発的成功を収めたNFTプロジェクト「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」のローンチから18カ月間、ユガラボ(Yuga Labs)はWeb3業界に、NFTプロジェクトを核としたコミュニティの作り方、市場のボラティリティに負けずにその勢いを維持する方法を提示してきた。

そして今、ユガラボがはるかに大きな野望を抱いていることは明らかだ。キャラクター主導のNFTコレクションを買収し、キャラクターと交流できるバーチャルワールドを築き上げることで、ピクサーのようなアニメスタジオのクリエイティブな考え方にインスピレーションを受けた、多層的な企業になろうとしている。

野望を実現するためにユガラボは3月、VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz/a16z)主導の資金調達ラウンドで4億5000万ドル(約620億円)を調達、評価額は40億ドル(約5500億円)に達した。

驚異的な成長スピード

「クリエイティブ・ファーストな会社と考えている。我々のDNAは、やりたいことを考え、伝えたいクリエイティブなストーリーを見極め、その方法を突き止めていくこと」と共同創業者の1人、グレッグ・ソラノ(Greg Solano)氏は語った。

ユガラボの成長の驚異的な点は、そのスピードにある。

2021年2月、ソラノ氏、ワイリー・アロノウ(Wylie Aronow)氏、Kerem Atalay(ケレム・アタレイ)氏、ゼシャン・アリ(Zeshan Ali)氏の4人がユガラボを設立し、暗号資産業界に参入した。NFTのプロフィール画像(PFP)を中心にオンラインコミュニティを築くというアイデアはまだ比較的新しいものだった。

アロノウ氏とソラノ氏は大学時代に出会った。文学とゲームという共通の趣味で意気投合。BAYCが他のPFPコレクションと差別化できたのは、キャラクターを中心にストーリーを語る2人の能力に依るところが大きい。

「堕落した人たちの集まる場所にしようというアイデアを思いついた。自分たちもそうだったから」とアロノウ氏とソラノ氏は以前、CoinDeskに語っている。

コレクション拡大で独占との批判も

ここ1年でユガラボは、ブランドポートフォリオの拡大に資金を注ぎ込んだ。Bored Ape Yacht Clubから始まり、以下のようなNFTコレクションを拡大してきた。

  • 「Mutant Ape Yacht Club(MAYC)」
  • 「Bored Ape Kennel Club(BAKC)」
  • 3月にラーバ・ラボ(Larva Labs)から買収した「クリプトパンクス(CryptoPunks)」
  • 「Meebits」
  • 現在試験段階にあるメタバースプロジェクト「Otherside」
  • 11月に買収が発表されたBeepleのWeb3エコシステム「WENEW」とその旗艦NFTプロジェクト「10KTF」

コレクションの安定したローンチと高額の買収によって、ユガラボはNFTを代表するブランドとなり、そのラインナップは常に最大手のNFTマーケットプレイス「オープンシー(OpenSea)」で上位にランクインしている。

だが一方で、分散化と個人の所有権を象徴するはずの分野における「初の独占企業」と批判する声もある。

「独占という考え方は、分散化という形で我々がNFT業界にもたらしたインパクトを理解していない人たちから発せられていると思う」とソラノ氏は指摘した。

出典:Yuga Labs

従業員数も11人から110人へと拡大。アロノウ氏の友人で、クリエイティブエージェンシーを創業、経営した経験を持つニコール・ムニズ(Nicole Muniz)氏をCEOに迎え、最高ゲーム責任者、プロダクト、コミュニケーションを担当するバイスプレジデントも置くことで経営チームを整えた。

ソラノ氏によると、同氏とアロノウ氏は初期の頃から、クリエイティブなプロセスや戦略的プロセスのあらゆる側面をはじめ、ユガラボのクリエイティブなビジョンを率いてきた。一方、ムニズ氏は会社のインフラを構築し、規模を拡大するうえで重要な存在だった。

新しい手法を採用

筆者は、マイアミで開かれた現代アートフェア「アート・バーゼル」の会期中、マイアミ現代美術館でアロノウ氏、ソラノ氏と会うことができた。彼らは新たに寄贈され、同美術館のコレクションに加わる3つめのNFTとなる「CryptoPunk #305」の展示を祝っていた。

イベントには暗号資産やアート界のリーダーやインフルエンサーが集まっていたが、2人は2月、BuzzFeedが彼らの身元を明かして以降、「一晩でセレブ」になったような状況にまだ慣れていない様子だった。

30代の2人は、情熱を注いだプロジェクトがこれほどのカルチャー現象になったことに誇りを持ち、驚いてすらいるようだった。マドンナやスヌープ・ドッグ、ジャスティン・ビーバーをはじめとする有名人や、数千人ものコレクターが、2人の指揮のもとでフリーランスのイラストレーター集団によって描かれた猿のイラストを自慢げにプロフィール画像にしているのだから、当然かもしれない。

ユガラボはおそらく、一律の価格モデルの採用、長期的な実用性の追加、抜き打ちのエアドロップの実施、プロジェクトのロードマップの発表、保有者への知的財産権の付与、商業目的でのキャラクター利用の許可など、それまでにはない、新しい手法を取り込んだ初めてのNFTプロジェクトだ。

NFT保有者にパワーを

ユガラボのおかげで、カリフォルニアのハンバーガーレストラン「Bored and Hungry」や、Ape Waterという飲料メーカー、Apeのアバターで構成された音楽グループ「KINGSHIP」など、コミュニティ発のプロジェクトがいくつも登場した。

「Bored Ape Yacht Clubが誕生した時から、コミュニティにはNFTを商業化する力が与えられ、それが推奨されてきた。それが、我々がこれほど急速に成長できた主な理由。最初はリスクが高いと考えられていたこのアプローチが、成長の鍵となった」とアノロウ氏は語った。

BAYCの保有者が、自分の保有するNFTからお金を稼げるようにしたことは、コミュニティの忠実さを生む鍵にもなっているかもしれない。

ムニズ氏は11月、リスボンで開かれたカンファレンス「Web Summit」で、それまでは受動的だった消費者を自らのコンテンツのオーナーにできたブランドの力を強調した。ここ数カ月でこのようなシフトは、NFT商標登録の申請件数の増加や、NFTプロジェクトで使われる知的財産権のライセンス付与システムの増加などに示されている。

野心的なメタバースプロジェクト「Otherside」

ここ1年のユガラボの急速な成長と、コミュニティづくりの取り組みは、野心的なメタバースプロジェクト「Otherside」の開発という、はるかに大きなビジョンの足がかりとなっている。

Othersideは、相互運用可能なゲーム要素を備えたプラットフォームで、NFTをキャラクターとしてプレイできる。「我々のコミュニティや他の多くのコミュニティが集結するプラットフォームと考えている」とソラノ氏は説明した。

MMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Games:大規模多人数同時参加型オンラインRPG)とWeb3によるバーチャルワールドの要素を組み合わせたOthersideは4月、バーチャル不動産の所有権と結びついたOtherdeed NFTを5万5000個販売し、3億2000万ドル(約440億円)を売り上げた。

ユガラボは7月、Otherdeed保有者向けに初の技術デモを行い、NFT保有がメタバースへの扉を開く鍵となる未来を垣間見せた。

「多くのアイデアが交差する場がOthersideと考えている。次の進化がここで生まれる」とソラノ氏は語り、「真に共同で開発された、楽しく平等なメタバースを作り上げたかった」とアロノウ氏が続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Bored Ape Yacht Club(Yuga Labs)
|原文:Empire of the Bored Apes