ビットコイン開発は少数精鋭──月間アクティブ開発者、40〜60人:NYDIG

ビザやマスターカード、ペイパルなど、伝統的金融システム大手が何万人ものスタッフを抱える一方で、ビットコインの月間アクティブ開発者はわずか数十名──。

ビットコインに特化した投資会社ニューヨーク・デジタル・インベストメント・グループ(New York Digital Investment Group:NYDIG)は9月、ソフトウェア開発の観点からみたビットコインの14年間の進化をまとめたレポートを発表した。

『Developers of Bitcoin』と題されたレポートによると、アクティブな開発者はわずか40〜60人しかいない。レポートは、ビットコインが無名の技術的ブレークスルーから、世界的に知られる存在へと着実に成長していった様子、そしてそれを可能にしたソフトウェア開発者たちの姿を描き出している。

最も驚かされることは、世界最大の時価総額を誇るビットコインが14年近く、世界中に散らばった熱心な、だが少数のグループのもと、大きな障害もなく続いていることだろう。

出典:CoinDesk

「レポートの目的は、ビットコインの開発サイクルの理解を助けることにある。メーリングリストで広がったアイデアから、現在のように世界に広がるテクノロジーとなった進化の過程。そして、ビットコインプロトコルのアップデートを続ける人たちについての理解」とNYDIGのリサーチ・グローバル責任者でレポートの執筆者の1人、NYDIGのグレッグ・シポラロ(Greg Cipolaro)氏は直近のインタビューでCoinDeskに語った。

サトシ時代

ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトがホワイトペーパーを発表したのは、2008年10月31日。2009年1月3日には、ビットコインネットワークが誕生した。

その後まもなく、5人の開発者がサトシのもとに集まった。よく知られているのは、ビットコイン取引の初の受け取り手にもなったハル・フィニー(Hal Finney)氏と、2枚のピザの代金として1万BTC(現在の価値で約1億7000万ドル、約226億円)を支払ったプログラマーのラズロ・ハニエツ(Laszlo Hanyecz)氏だ。

サトシを先頭にコミュニティが生まれたが、2010年までにはコミュニティがその生みの親よりも大きな存在になっていた。それに気づいたサトシは、ギャビン・アンドレセン(Gavin Andresen)氏にリーダーの座を譲った。リード開発者となったアンドレセン氏は、プロジェクトをオープンソース・コラボレーションプラットフォームのGitHubに移し、真の分散化への道を開いた。

「開発者のマイク・ハーン(Mike Hearn)氏に向けた最後のEメールでサトシは『今はもう、他のことに取り組んでいる。ギャビンやみんなに任せてあるから安心』と言っていた」とレポートには記されている。

ビットコイン開発の現状

現在、ビットコイン開発者は世界中に広がっている。GitHubで提案されるソフトウェア変更の約84%が20ものさまざまな国から寄せられている。

「我々がレポートで明らかにしたことの中で、私が考える興味深いことの1つは、開発者たちの所在地。ビットコイン開発に貢献したり、アップデートしている人たちに懸念を持つ投資家にとって役に立つ情報だ。開発者の多くは、北米、西ヨーロッパなどにいるようだ」(シポラロ氏)

最近の変化は、リード開発者/メインテイナーの役割を廃止し、代わりにメインテイナーのグループを選ぶという、より平等主義的なモデルに行したこと。「メインテイナー」は、他の開発者たちが提案するソフトウェア変更を承認する権利を持つGitHub管理者のことだ。

今年初め、グロリア・ジャオ(Gloria Zhao)氏が初の女性ビットコイン・メインテイナーとなった。

数字で見るビットコイン開発

レポートによると、「コードへのコミットは月に200〜400」に達しており、着実な進展を見せている。ビットコインのコアプロトコルにおけるアクティブな開発者は月に平均40〜60人だが、ビットコイン誕生以来、プロジェクトに貢献した開発者は1140人にのぼり、毎月5〜20人の新しい開発者が加わっている。

ビットコインコアプロトコルの月間開発者数(上)とビットコインエコシステムの月間開発者数
出典:NYDIG

より広範なエコシステム(ビットコイン関連のアプリケーションに取り組む開発者)も同様のパターン。もちろん開発者数そのものは多くなっている。NYDIGは、より広範なエコシステムの月間開発者数を平均600〜1000人ほどと見ており、ビットコイン誕生以来、貢献した開発者数は1万3000人を超えると考えている。

競合ネットワークと比べると、ビットコインは常に小規模だが、はるかに効率的なようだ。例えば、ベンチャー企業エレクトリック・キャピタル(Electric Capital)の2021年の開発者レポートによると、イーサリアムブロックチェーンの広範なエコシステムの月間開発者数は4000人を超える。それでもイーサリアムの時価総額はビットコインの半分にも及ばない。

同様に、ビザやマスターカードなどの伝統的決済企業は、時価総額はビットコインに近いが、フルタイムのスタッフを何万人も抱えている。ちなみにビットコイン開発者は全員ボランティアで、その多くがパートタイムだ。これらの数字はビットコイン開発者の「超少数精鋭」的な姿のみならず、開発者たちの目的主導(パーパス・ドリブン)の性格も浮き彫りにしているだろう。

「伝導者が欲しいか、傭兵が欲しいか? お金で開発者たちを雇い、資金が底をついたらいなくなってしまうのが良いか、目的のために参加する伝導者たちが良いか? 哲学的、イデオロギー的理由で参加している人の方が、お金目当ての人よりも、長く、多くの貢献をしてくれる傾向があると思う」とシポラロ氏は指摘した。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ビットコインと決済大手の時価総額とスタッフ数(CoinDesk)
|原文:Bitcoin Protocol Development Steadily Progressing Despite Only 40-60 Monthly Active Developers: NYDIG