【ダボス会議 3日目】メタバースとCBDCに共通する課題とは

ダボス会議 3日目のブロックチェーンに関する議論は、メタバースをめぐる試行錯誤と、中央銀行デジタル通貨(CBDC)が世界経済にマイナスの影響を及ぼすことに対する規制当局の懸念を示した。

2021年、フェイスブックがメタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)に社名変更したことで、メタバースは大きな注目を集めている。だが、世界はまだ具体的なものを目撃したり、体験していない。

「メタバースは進化中のコンセプト。まだ標準的な定義は存在しない」とWEFのメディア・エンターテイメント・スポーツ担当のキャシー・リー(Cathy Li)氏は記者会見で述べた。

メタバースはどのように規制されるべきかという質問についても、広範なテストが必要と語ったのは、アラブ首長国連邦 戦略担当内閣府副大臣ハド・アル・ハシミ(Huda Al Hashimi)氏。

「規制当局がゲートキーパー(門番)というよりも、レフェリーのような役割を果たすことも予想される。そして行動規範は、実際には策定中のポリシーよりも優先されるだろう」(アル・ハシミ氏)

メタバースに対する異なるビジョン

18日のパネルディスカッションでは、メタバースに関して、2つのまったく異なるビジョンが提示された。

メタの最高プロダクト責任者クリス・コックス(Chris Cox)氏は「いつか、このプラットフォームはスマートフォンと同じくらい重要になる」と語った。

コックス氏は、同氏が手がけているメタバースを同社が展開するインスタグラム(Instagram)になぞらえ、「クリエーターや開発者にツールを提供することに重点を置いている」と述べた。だが同氏は、あるエコシステムから別のエコシステムへ、一貫性や接続性を失わずに移動することはより困難になるだろうとも述べた。

「メタバースにまだ存在しないものの1つは、ハイパーリンク」(コックス氏)

一方、同じパネルディスカッションに登壇したSF作家のニール・スティーブンスン(Neal Stephenson)氏にとっては、どのようなモデルが必要かは明らかだ。

1992年の小説『スノウ・クラッシュ』で「メタバース」という言葉を作ったスティーブンスン氏は「初期のインターネットに似たオープンシステムを作らない限り、メタバースは実現しない」と語った。

「今、フェイスブックについて人々が抱いているイメージは、非常に中央集権的なトップダウン型組織だ」(スティーブンスン氏)

誤解を解くためか、コックス氏はパネルディスカッション終了後、スティーブンスン氏をカフェに誘っていた。だが、スティーブンスン氏は丁寧に断ったようだ。

相互運用性という大きなハードル

異なるデジタルエコシステム間のやりとりは、中央銀行にとっても重要なテーマだった。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)をテーマにしたパネルディスカッションでは、「相互運用性」には多くのハードルが存在することが指摘された。各国の中央銀行は、常にお互いを信頼しているわけではないためだ。

CBDCにまつわるハードルは、技術よりも、むしろガバナンスや法制度の矛盾に起因することが多いと南アフリカ準備銀行(中央銀行)のレセチャ・クガニャゴ(Lesetja Kganyago)総裁は述べた。

議論は、CBDCのメリットを生かすまでには、まだ長い道のりがあること、世界経済にダメージを与える結果になりかねない可能性があることを示唆した。

「新しいイノベーションが登場したとき、それらは拡張可能で、コストアップ要因にならないことが重要」と語ったのは銀行間の国際金融取引に関するメッセージングサービス、SWIFT(スイフト)のジャヴィア・ペレス・タッソ(Javier Perez Tasso)氏。CBDCは決済システムを統一する一方で、さらなる断片化を招く可能性があると指摘した。

中央銀行デジタル通貨の長所と短所

銀行間決済とリテール決済の双方でCBDCをテストした、限定的な成功例もあるが、それには限界がある。イスラエル銀行のアミール・ヤロン(Amir Yaron)総裁は、スウェーデンやノルウェーとの国境を越えたリテール決済を可能にするためのテストに語った。

だがヤロン総裁は、アンチマネーロンダリングのチェックの問題がまだ解決されていないことを認めた。アンチマネーロンダリングのチェックは、現状の国境を越えた決済に、非常に時間と費用がかかっている主な理由となっている。

グローバルなCBDCの利用に際して、中心的な組織を作るのか、誰が作るのかという問題もある。中央銀行の集合体になるのか、IMF(国際通貨基金)なのか、あるいは民間企業なのか。

フランス銀行と共同で国債のトークン化実験を行っている清算機関ユーロクリア(Euroclear)のリーベ・モストレー(Leave Mostrey)氏は即時決済の実験にはコストがかかると警告。

「相互運用性が問題だ。うまくいかなければ、(トークン化への)移行は不可能になると考えている」とモストレー氏は語った。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:CBDCをテーマにしたディスカッション(Sandali Handagama/CoinDesk)
|原文:Davos Day 3 Shows Conflicting Visions for the Metaverse, CBDCs