カストディ技術プロバイダーのメタコ、元IBMの暗号資産スペシャリストらを採用

暗号資産(仮想通貨)カストディ技術プロバイダーのメタコ(Metaco) は、元 IBM の暗号資産スペシャリストであるピーター・デメオ(Peter DeMeo)氏を採用した。同社はそのほかにも、厳しい市場状況を乗り越え、大企業の暗号資産採用の次の段階を推進する準備を整えるために、いくつかの重要な人材採用を行なった。

暗号資産の信頼性の高いカストディ(保管)は、ここ数年、銀行やその他の金融機関にとって最も重要な課題になっている。暗号資産取引所FTXの破綻や暗号レンディングのセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、米CoinDeskの姉妹会社ジェネシス(Genesis)などの失敗をきっかけに、再び注目を集めるようになったのだ。

デメオ氏が最高製品責任者に任命されたのは、彼がデジタル資産のインフラ責任者を務めていたIBMが、銀行レベルの暗号資産カストディと鍵管理技術を密かに構築してきたからだ。IBMはこれまで、許可型ブロックチェーンのサプライチェーンアプリケーションなどに進出したことが業界ではよく知られていた。

しかし、デメオ氏の説明によれば、メタコの利益は必ずしもIBMの損失ではない。というのも、この動きは両社の既存の協力関係をより強固なものにしたからだ。

「ここ数年、デジタル資産におけるIBMの最強のパートナーはメタコだった。そして今回、協力して物事を次のレベルに引き上げる機会を得た。これはまさにウィンウィンだ」とデメオ氏はインタビューで語っている。「メタコは不可知論者であり、もちろん他のクラウドやハードウェアのプロバイダーとも協力する予定だ。つまり、相互に有益な関係ではあるが、排他的な関係ではない」

また、元IBMのリードアーキテクト、アンヘル・ヌネス・メンシャス(Angel Nunez Mencias)氏も最高顧客責任者として参加する。このほか、アドバイザリー部門に元アクセンチュアのカトリン・コラー(Katrin Koller)氏、プロダクト部門に元ペイパル、アンバウンドセキュリティのレベッカ・アスプラー(Rebecca Aspler)氏、マーケティング部門にシティ出身のメイ・リー・パウエル(Mei Li Powell)氏が採用された。

CEOのアドリアン・トレカニ(Adrien Treccani)氏はインタビューで、「昨年はチームの規模を拡大し、できる限り多くの熟練した才能を導入することに力を注いだ」と述べている。「会社の規模は3倍になり、今年もさらに2倍にする予定だ。採用は主にヨーロッパ、東南アジア、北米で行われているが、我々のユーザーの増加に伴い、より多くの地域に進出している」

トレカニ氏とデメオ氏は、新たに設立された研究開発部門であるメタコ・ラボ(Metaco Labs)についても言及している。メタコ・ラボは、マルチパーティ計算(MPC)と呼ばれる技術を、大手銀行でおなじみの、暗号鍵の生成、保管、暗号処理のすべてを行うハードウェア・セキュリティ・モジュール(HSM)内に導入するための最先端の技術開発に取り組む予定だという。

「我々は、MPCを地球上で最も安全な場所、つまりハードウェアセキュリティモジュールで実行するつもりだ」とデメオ氏は言う。「単一のキーの代わりにHSMがキーシャードを作成して保存するため、これらのシャードがHSMの外部でキーを作成することはできない」

この技術開発は、MPCとHSMのどちらのソリューションを選択すべきかを知りたいクライアントに対応するものだとトレカニ氏は指摘した。さらに、MPCの複雑さは多くのユーザーを、すべてのキーシャードが同じデータセンターに格納されていることによる「絶対的な災害」 シナリオへと導く、と彼は付け加えた。

「当社の顧客は大手銀行やカストディアンであり、キーを完全に管理したいと望んでいる。そのため、MPCを利用するには、完全に別れた別のデータセンターにキーシャードを配置する必要があり、非常に複雑になる」とトレカニ氏は述べている。「実際には、MPCによる分散化とHSMによる攻撃対象の最小化という、両者の長所を併せ持つものに市場が収斂していくことは明らかだ」

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:井上俊彦
|画像:メタコの経営陣(Metaco)
|原文:Crypto Custody Tech Firm Metaco Taps IBM Execs to Revamp Institutional Push