EUのMiCA、国際的な規制のテンプレートになるか?【コラム】

欧州議会は4月20日、「暗号資産市場規制法案(Markets in Crypto-Assets Act:MiCA)」を可決した。

投票結果は見込み通りで特に驚きはないが、EU加盟国27カ国が世界で初めて包括的な暗号資産法の整備にまた一歩近づいたという意味では、確かに重大な瞬間だった。あとは公的な手続きがいくつか残っているだけで、6月には施行に向けたカウントダウンが始まり、12〜18カ月後に実際に効力を発揮する。

法案はすでに2022年夏に合意されていた。571ページに及ぶ法案をEUの法律および翻訳部門を通過させることに長い時間が必要だった。陰謀論や何かもっと深い理由があるのではとの噂も出たが、遅延の理由はただそれだけだ。

昨年合意された法案が法律部門を通過する際に変更されていないかどうか詳細に確かめる必要はあるが、変更は些細なものだろう。

MiCAは最善なものか?

市場は今、規制に対してこれ以上ないほどポジティブだ。市場の上昇と下落、アメリカの規制をめぐる騒動、レイオフなどを経て、中央集権型暗号資産市場はMiCAに心を奪われている。EU加盟27カ国、4億5000万人の潜在的顧客に対して共通で使える、暗号資産サービス事業者やステーブルコイン発行業者に合わせたライセンスが提供される。

DeFi(分散型金融)やNFTについては意図的に規制対象から除外されている。2014年に整備された資本市場に対する規制「金融商品市場指令(Markets in Financial Instruments Directive:MiFID)」を踏まえているが、完全にコピーしているわけではない。

例えば、知識を持った暗号資産投資家と知識を持たない暗号資産投資家を区別する適格テストは存在しない。ステーブルコイン発行者に対するルールによって、消費者は準備資産が適切に用意され、いつでも換金可能だと信頼を寄せることができる。

銀行やカストディアン、資産運用会社は今、暗号資産を取り扱うことによるレピュテーションリスクを懸念しているが、MiCAによって機関投資家は資産クラスとしての暗号資産に安心感を持つことができる。

MiCAを起草したのは優秀な技術系官僚たち。法案の議論は思いがけず強気相場と一致し、政治的な関心や楽観的な心理という追い風をつかんだが、それらはその後、消えてしまった。

私の意見では、MiCAは政治的に受け入れられるものであり、既存のルールの枠組みをベースにした有効な妥協案。市場が成熟し、収益性を求める圧力がガバナンスやリスク管理を求めるようになっている今、とにかく完成させることが重要だった。起業家に明確さを与え、政策立案者たちが業界の問題に条件反射的な反応をすることを防ぐことができる。

重大な弱点

既存の規制の枠組みをベースにしたため、MiCAはトークンの交換を行為として規制するのではなく、トークン発行者を組織として規制することになった。つまり、トークンがどのように使われるかに関係なく、要件を課されるのはトークン発行者だ。この点が、MiCAの将来の可能性を制限すると私は考えている。

規制のプロはこの弱点に気づくだろう。すでに事例があるからだ。ここ10年間、ヨーロッパからアジアに至るまで、当局の合言葉は組織ベースではなく、アクティビティベースの規制を作ることで金融サービスのアンバンドリングに対応することだった。例えば今は、組織の一種としての銀行ではなく、「後払い決済」というアクティビティにフォーカスしている。

トークンを無記名証券として発行すると、これが不可能になる。発行者はトークンが支払いに使われるのか、投資に使われるのかを決定する責任を負わない、あるいは少なくともこれまで負うことができなかった。

EUは可能性に焦点をあて、不可能なことを実現しようとした。通貨に連動したトークンは何よりも支払いに使われる可能性が高いため、その規制の枠組みに従うべきだと言うわけだ。EUの言葉で言えば、これは電子マネートークン(e-money token:EMT)と呼ばれ、自由に価値が変動するトークンは投資に近いため、そのように規制される。

多くの政治的エネルギーが、通貨、コモディティ、その他の資産のバスケットにペッグされたトークンに費やされた。これはヨーロッパが、フェイスブックが失敗させたステーブルコイン「リブラ」の亡霊を追いかけているようなもので、市場はその先に進むことに忙しかった。このようなステーブルコインに対するルールは、支払いと投資の両方のユースケースに対処しようとするなかで、複雑かつ不透明なものになっている。

これは、暗号資産が一般的な支払いと投資の区別を複雑にしていることを示している。MiCAレベル2の技術ルールによって、より明確な線引きが行われるが、難しい課題となるだろう。MiCA向けに整備される技術基準は20あるが、これは最も難しいものになるかもしれない。

法的枠組みを整備することでEUは、MiCAが想定する市場行動を作り出せるかもしれない。つまり、どのトークンが支払いのために使われ、どのトークンが投資のためのものかという区別だ。

さらにEMTの市場での機能は電子マネーに似たものかもしれないが、そのテクノロジーは他のトークンに似ている。EUはこれまでのところ、テクノロジーの中立性に関して態度を二転三転させている。

アンチマネーロンダリングのためには、基盤となるテクノロジーを理由にEMTは電子マネーとは異なる扱いを受ける。しかし欧州委員会は6月、EMTはその基盤となるテクノロジーとは相容れない支払いの取り消しなど、電子マネーと同じ消費者に対する保護を提供するべきだと提案する見込みだ。

MiCAは国際的なテンプレートになるか?

国際的企業にとって、重要な点は国際的な暗号資産規制がいつ、どのように確立されるか。

規制当局も同じことを自問している。暗号資産のようなデジタルでアクセス可能な市場について、海外から提供される基準に満たないサービスからEU市民を保護できるルールはヨーロッパにほとんど存在しない。とりわけ、ヨーロッパ以外の取引所が、盛り上がりによって価格が吊り上げられたトークン(例えば、昨年のLUNAなど)を提供し、EU市民がそれに飛びついた場合はなおさらだ。

金融安定理事会(FSB)が国際的枠組みの整備に取り組んでおり、G20のメンバーによって展開される必要がある。MiCAが先に完成したため、EUとしてはFSBも足並みを揃えて欲しいと強く願っている。FTXのスキャンダルから教訓を得たFSBは、投資行為や資産の混同について、より厳しい姿勢をとるかもしれない。EUに加盟していないイギリスも並行して、MiCAに似た独自のステーブルコインおよび暗号資産サービスのルールを整えている。

タイムラグはあるかもしれないが、ヨーロッパがMiCAを輸出できるチャンスは十分にある。だがタイムラグと弱気相場が組み合わさり、一時的に企業は一貫性のない規制に直面し、消費者は安定しない企業に悩まされるかもしれない。

デア・マルコバ(Dea Markova)氏:フォーフロント・アドバイザーズ(Forefront Advisers)のマネージングディレクター兼デジタル資産責任者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Is Europe’s MiCA a Template for Global Crypto Regulation?