AIとweb3が築く未来を想像する【コラム】

AIアシスタントがあなたの資産を管理し、アポイントを調整し、あなたに不快感を与えないようソーシャルメディアのフィードを調整してくれる世界を想像して欲しい。さらにAIは、NFTアートコレクションをキュレーションしたり、暗号資産(仮想通貨)関連の税務申告をサポートするようトレーニングされているかもしれない──。

SFのように聞こえるかもしれないが、AI、web3、メタバースは急速にひとつに収束し、こうしたデジタルユートピアが現実になろうとしている。

1956年に「人工知能(AI)」という言葉を初めて使ったダートマス大学の研究者たちが今の状況を見たら、その飛躍ぶりに驚くだろう。AIとweb3のテクノロジーは2022年、強力な存在として台頭した。OpenAIのDALL-EとChatGPTは、コンピュータが人間的かどうかを測定するチューリングテストに合格したと言ってよいだろう。

マイクロソフト、グーグル、アドビが参入するなど、AIはメインストリームでの勢いを獲得した。一方、web3はまだまだ先が長い。ビットコイン(BTC)は誕生して13年になるが、大半の人はまだ暗号資産の意義をよく理解できずにいる。

しかし、AIのクリエイティブなポテンシャルによって、web3の必要性とそのパワーはこれまでになく明確になった。暗号技術をベースにしたセキュリティとデジタル主権は、AIが活発で、人々に力を与えるようなデジタル環境を築き、イノベーティブで、ユーザー中心の安全なインターネット体験への道を開こうとするなか、ますます欠くことができないものになっている。

デジタルアイデンティティ

簡単なプロンプト(命令文)によって、誰でもAIツールを使って画像、文章、コードを作ることができる。時間が節約でき、コンテンツ制作はよりスピーディーかつ簡単になる。同時に、ブロックチェーン、スマートコントラクト、デジタルIDといったweb3テクノロジーは、ユーザーがデータのコントロールを取り戻すことのできる、安全で相互運用可能なメタバースのための基盤を築いている。

データ漏洩やプライバシーに関する懸念が高まっている時代において、個人情報に対する支配権を取り戻すことの重要性は、どれほど誇張しても誇張し過ぎることはない。web3は、デジタルの世界で信頼と自立性を育むことに貢献できる。

特にデジタルIDは個人に、一元化されたユーザー管理型のインターネットアイデンティティをもたらす。実世界およびメタバースにおいて、検証済みの長期的な個人評価システムを作ることにもおそらく欠かせないだろう。

このような分散化とデジタル化に向けたシフトは、個人や企業に力を与え、最終的にはIT大手の独占から支配権を奪い返すことができるだろう。暗号資産やAIにまつわる懸念はあるが、人々が自由にコンテンツを制作し、自らの作品に対する対価を受け取ることができるようになる可能性も秘めている。

シームレスなコラボレーション

メタバースプラットフォーム向けにアート作品を生成するプロセスを考えてみよう。

AIは山や森、城などの基本的な要素を描くことができるのに対して、人間は情景に息を吹き込む最後の仕上げを行うことができる。このようなコラボレーションは、コンテンツのモデレーションからビジネスマネジメントまで、ほぼあらゆる業界に拡大するだろう。自動化されたスマートコントラクトを使えば、作品や仕事に対して、正当な評価と報酬を確実に受け取るようにできる。

さらに、ChatGPTのようなAIアシスタントはすでに、自然言語の処理に長けており、人間のオンラインでの評価を構築するように拡張できる。AIツールはまもなく、ユーザーをオンラインのあらゆるところでフォローする包括的なリンクトイン(LinkedIn)ページのように、個人的な業績や仕事上の実績などを反映する、ユーザーのデジタルIDに紐づけられた独自NFTアートコレクションのキュレーションもできるようになるだろう。

例えば、ユーザー保有のデジタルアイデンティティのためのプラットフォーム「Unstoppable Domains」はすでに、ChatGPTを検索バーに組み込み、web3分野のブレインストーミングをサポートするAIパートナーを提供している。

AI、web3、メタバースが主導するイノベーションの全貌はまだはっきりしていないが、ポテンシャルは間違いなく大きい。人間の体験を高めるテクノロジーを設計することで、夢のようなSFファンタジーに似たインターネットを構築できる。そのような革命は間近に迫っており、未来を形作ることは、開発者とIT業界のリーダーに手にかかっている。

明るい未来像

既存のテクノロジーが抱える問題を解決すると同時に、データプライバシーやサービスへの公平なアクセス、人間の仕事が奪われる可能性など、経済的、社会的混乱に伴う問題をさらに深刻にする可能性を持つ新しいテクノロジーが広がりつつある。そうした課題を乗り越えるためには、技術者、政策決定者、市民の間のオープンな対話と協力が不可欠になるだろう。

巨大なデジタル革命が目前に迫るなか、AI、web3、メタバースの相乗的な関係は、インターネットの在り方を変える豊富な機会を提供する。

コラボレーションをサポートし、人間のクリエイティビティを育み、課題に積極的に対処することで、個人に力を与え、人間のイノベーションの限りない可能性を解き放つダイナミックで分散型のデジタル世界を確立することができる。

サンディ・カーター(Sandy Carter)氏:ユーザー保有のデジタルアイデンティティのためのプラットフォームUnstoppable DomainsのCOO兼ビジネス開発責任者。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Imagining the Future AI and Web3 Can Build