盛り上がる「BRC-20トークン」、その可能性とリスク

暗号資産に新たな盛り上がりが生まれている。いわゆる「BRC-20トークン」はビットコインブロックチェーン上で展開される新たなトークンで、一部は市場で大きな動きを見せ始めている。BRC-20規格は、ネット上で「Domo」と呼ばれる開発者が3月に発表、多くの興味深い可能性を秘めている。

ビットコインブロックチェーン上のトークン

ビットコインブロックチェーン上のトークンは、決して新しいアイデアではない。実際、初期の実験的取り組みである「カラードコイン(colored coin)」は、同じようなことを目指していた。しかし、Ordinalが実現したビットコインNFTと同様にBRC-20トークンは、直近のアップグレード「タップルート(Taproot)」で導入された新しい機能によって可能になった。

BRC-20の重要なポイントは、この新しいテクノロジーで何が可能になるのかを正確に知ることだ。Domoに連絡すると、BRC-20トークンについてより深く知りたい人向けの情報源を教えてくれた。

開発者向けの基本情報では、BRC-20の展開方法が解説され、まだ解決されていない疑問点についての議論が展開されている。Domoによる詳細な技術解説もある。さらに、ユーチューバーのpazNGMIによる発行やウォレットについての情報を含んだ紹介動画もある。

しかしDomoも他の多くの専門家たちも、BRC-20トークンへの投機に強い警告を発している。実際、実験的な規格であるBRC-20を発表した直後にDomoは「(新規格を使ったトークンは)無価値になるだろう。大量に発行してお金を無駄にしないで欲しい」と呼びかけている。

だがBRC-20を使った多くの新しいミームコインがすでに取引されている、少なくとも一部の人たちは警告に耳を貸さなかったようだ。だが、そうした人たちを批判することは難しい。暗号資産では、新しいトレンドに最初に飛びつくことは、投機家にとってそれなりにうまくいく戦略だ。

「無価値になる」

ではなぜ、このエキサイティングで、新しいテクノロジーで作られるトークンが「無価値」になるのだろうか?

まず第1に、BRC-20は現時点では単なる提案に過ぎない。ウォレットや取引所などに幅広く取り入れられる保証はない。一般ユーザーはおそらく当面、BRC-20トークンにアクセスすることは難しいだろう。

ウォレットは、Ordinals、つまりビットコインNFTへの対応機能を搭載する必要があり、さらにBRC-20トークンに対応する特別な機能も必要となる。同じことが取引所にも言える。

Domoが3月に警告したように「BRC-20トークンが既存のマーケットプレイスで安全に取引できるようになる可能性は低い」。BRC-20対応を急ぐ取引所もあるが、仮にBRC-20トークンが幅広く受け入れられるようになったとしても、市場が十分な流動性を獲得するにはしばらく時間がかかるだろう。

標準化そのものも遠い道のりだ。BRC-20の設計は必ずしも最終決定されておらず、十分な検証や普及はまだ先だ。理論的にはビットコインブロックチェーン上にトークンを展開する他の方法や、現在のBRC-20をさらに改善する方法があるかもしれない。競合する規格や改善された規格が幅広く普及すれば、現在のBRC-20トークンは過去の産物となるかもしれない。

第2に、より根本的な理由として、ビットコインブロックチェーン上で発行されたトークンの経済的価値がどこにあるのかが依然として不明確なことがある。

これはとりわけ、BRC-20トークンがスマートコントラクトやDeFi(分散型金融)と互換性がないために生じる問題。イーサリアムブロックチェーンの「ERC-20」に倣って名づけられたにもかかわらず、BRC-20とERC-20には技術的な類似性はなく、さらにビットコインブロックチェーン自体にもDeFi機能はない。仮に何らかの次善策が登場したとしても、DeFiでBRC-20トークンを活用するためには、ブリッジなどのリスクの高い仕組みが必要となるだろう。

つまり現状、BRC-20トークンは、分散型自律組織(DAO)や、実用性や価値を生み出す複雑なシステムなどを支える存在にはなり得ない。

その他のデメリット

さらにBRC-20トークンには、より直接的なデメリットもある。

BRC-20トークンはDeFiに使用できないために、トレーディングプールといったDeFiサービスが提供する流動性の恩恵を受けられない。そのため、純粋に投機目的で投資しても、イーサリアムブロックチェーン上で発行された同様のトークンのような、大幅な価格上昇は起こらないかもしれない。

実際、すでにそうした事態が生まれている。「ペペ(Pepe)」と呼ばれるBRC-20トークンが現在、リスクを恐れないトレーダーによって取引されている。ペペや他のすべてのBRC-20トークンの完全希薄後時価総額(fully diluted value:FDV)は5月2日時点、1億3700万ドル(約185億円)にのぼる。

しかし、イーサリアムブロックチェーン上にもミームコイン「ぺぺ」があり、FDVは当記事執筆時点、12億ドル(約1620億円)。

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BRC-20トークンはきわめて興味深いポテンシャルを持った、魅力的なイノベーション。だが、生き物をモチーフにしたカジノ的トークンの一時的な上昇に乗る低俗なスリルを求めるなら、まだイーサリアムブロックチェーンをベースにしたままの方が良さそうだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Andre Taissin/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Pump the BRCs: The Promise and Peril of Bitcoin-backed Tokens