Web3開発はビットコインで進めるべき【オピニオン】

ビットコインコミュニティにおける根源的な議論がBitcoin Ordinalsの登場で再び活発になっている。ビットコインブロックチェーンで開発を行うべきか否かという議論だ。

ビットコインブロックチェーンで新しいアプリケーションを開発すれば、最も安全でレジリエント、流動性のあるネットワークをWeb3開発に活用できるというメリットがある。ソーシャルネットワークから金融サービスまで、Web3アプリケーションは最も機密性の高い日常のタッチポイントをトラストレスなシステムに移行しようとしている。

中央集権的なコントロールを排除することは、Web3アプリケーションの基盤となるシステムは可能な限り安定し、信頼できるものである必要があることを意味する。

ビットコインのアドバンテージ

ビットコイン(BTC)は長年、通貨であり、価値の保存手段としか考えられていなかった。

だがビットコインブロックチェーンは10年以上、常に安定して確実に運用され、最も安全で経済的にも実行可能なブロックチェーンとしてWeb3の基盤として理想的であることを証明してきた。ビットコインでの開発を怠ることは、インターネット、さらには世界全体をより良い場所にする可能性を秘めたネットワークの鍵となるようなアプリケーションを諦めることになる。

他の暗号資産には見られないようなビットコインの分散化レベルは、直接、改ざん耐性につながる。盗みや取引の取り消しが可能なのは、ネットワークの51%以上の演算能力を奪う攻撃だけだ。そして、それほどの演算能力を獲得するには法外なコストがかかるため、そうした攻撃はほぼ不可能だ。

ビットコインは、お金の未来をリードし、グローバルな商取引の手段として広く機能するのに最適な暗号資産。最も分散化していることに加え、最も流動性の高い暗号資産であり、現在の時価総額は5000億ドル(約68兆円、1ドル136円換算)を超える。ネットワーク効果も最も高い。つまり、他のどの暗号資産よりもビットコイン保有者の数は多い。

ビットコインブロックチェーンで新しいアプリケーションを開発すれば、デジタル資産、DeFi(分散型金融)、DAO(自律分散型組織)を促進するものかどうかにかかわらず、ビットコインのネットワーク効果の恩恵を受けつつ、ビットコインの一層の普及を後押しすることになる。

ビットコインの流動性は、イーサリアム(ETH)をはじめ、あらゆる暗号資産の中で最も高く、流動性プールの上に成り立つDeFiにとっては特に重要だ。プロトコルの持つ流動性が大きければ大きいほど、金融のユースケースにより適したものになる。

またビットコインには、市場で確立された歴史あるポジションという明確なアドバンテージがある。安全性、希少性、流動性の高さは、価値の保存手段として他の暗号資産にリプレースされないことを意味する。つまり、永遠に存続するよう設計された通貨ネットワークという、ビットコインの理論的な価値提案は達成されている。

さらに他の暗号資産とは違って、ビットコインは米証券取引委員会(SEC)や他の規制当局の執行措置とは無縁。これは少なくとも、完全で証明可能な分散化がその1つの要因。人々は他の暗号資産で行っているように、ビットコインで投機を行うかもしれないが、その普及や利用から最も恩恵を受ける単一組織は存在しない。

ライバルの現状

だがイーサリアムブロックチェーンが事実上、Web3アプリケーション開発のための「選ばれし存在」となっている。

その主な理由は、ビットコインではプログラム可能性が限られているために難しい、柔軟性に富んだスマートコントラクトをイーサリアムブロックチェーンは最初からサポートしているからだ。

とはいえ、ビットコインのこうした側面は、DeFiやWeb3アプリケーションをサポートするうえで、バグではなく仕様だ。ビットコインは、機密性の高い複雑な取引を大量にサポートするために設計されており、その結果として生まれる高い安全性と安定性によって、Web3アプリケーション開発に理想的なプラットフォームとなる。

ビットコインはこれまで常に、新しい分散型アプリケーション開発のためのネットワークという視点からは見過ごされてきた。2022年後半時点で、イーサリアムの時価総額2000億ドルのうち、350億ドルはDeFiに起因するものだった。

対照的に、ビットコインの4000億ドルの時価総額のうち、より複雑なアプリケーションを実行することを目的としている4つの主要レイヤー2スケーリングシステム、リキッド(Liquid)、RSK、ライトニング、スタックス(Stacks)の時価総額はわずかに5億5000万ドルにとどまっている。

さらにイーサリアムは、2022年に暗号資産エコシステムの中で最も多くの開発者を惹きつけた。2位のビットコインの946人の2.8倍に当たる、推計5819人の開発者を抱えていた。エレクトリック・キャピタル(Electric Capital)のレポートによれば、ビットコインは2022年、月あたりのアクティブ開発者数を3倍に伸ばしたが、ポリゴン、ポルカドット、ソラナの開発者数は5倍に増えた。

変化を嫌うカルチャー

この点から考えると、ビットコインのパワーをより広範なWeb3アプリケーションに活用するうえでの大きなハードルは、テクニカルなものではなく、カルチャー的なものと言えるだろう。

ビットコインコミュニティでは、イノベーションに対する抵抗はよくあることだ。その主な理由は、ビットコインをピア・ツー・ピア(P2P)のデジタル通貨にするという、サトシ・ナカモトの本来のミッションを純粋に追求したいという気持ちが強いからだ。

変化やイノベーションに対するビットコインコミュニティの嫌悪感は、多くの点でネットワークにとっては「善」だった。ビットコイン開発者やファンは、エネルギー負荷の高いプルーフ・オブ・ワーク(PoW)コンセンサスメカニズムや、トークン供給量の上限など、ネットワークの中核的デザイン、そしてネットワークの完全性を頑なに守り続けている。

しかし、ネットワークの基本的な特徴を守ることは、一部の人にとって、その潜在能力を開花させることと矛盾するようになってしまった。ビットコインは決済システムとして作られたが、だからといって、他のあらゆる可能性を否定して、通貨としてのみ機能すべき、ということにはならない。

大手企業のWeb3戦略

モノの生産と購入の双方にドルが使われることと同じように、ビットコインもデジタルのモノやサービスを生み出すことにも、それらを購入することにも使用できる。通貨はこれまでの歴史の中で常に、表現のためのアイテムや実用品の創造を支えてきた。

スマートコントラクト開発の面では、ビットコインは他のプロトコルに後れをとってきたが、内在的な強み、さらにはアップグレード「タップルート(Taproot)」で生まれる新たなスケーラビリティの可能性を考えると、分散型アプリケーション開発において他のプロトコルを凌駕することは容易だろう。

しかしそのためには、ビットコインコミュニティ内で開発に向けた活発な自発性、さらには開発者をエコシステムにオンボーディングさせるための協調的な取り組みが不可欠となる。

DeFi、決済、NFTのためのベースレイヤーとしてのビットコインブロックチェーンで開発が進めば、ビットコインの知名度は大幅に高まり、普及が加速するだろう。

スターバックス、アマゾン、セールスフォース(Salesforce)などの大手企業は「Web3戦略」の確立を目指している。これら企業は、何十億人もの人々に届くプロフダクトを支えるインフラ構築のためにイーサリアムやポリゴンのようなプロトコルを選んでおり、ロイヤルティプログラムやNFTなどをはじめ、基盤となる暗号資産の普及が進むだろう。

アルトコインのネットワークは、ビットコインのような市場優位性や分散化には欠けているが、世界中に広がる膨大な消費者ニーズに応えることのできるイノベーションへの投資が強みだ。

それでも、Web3を支えるためにビットコインを使うことから生まれる可能性は画期的なものだ。わずか数週間で40万を超えるOrdinalsが発行されるなど、数カ月で爆発的に普及したOrdinalsプロジェクトが、ビットコイン上のデジタル資産に対する関心の高さを浮き彫りにしている。

ビットコイン上でゼロ知識ロールアップ(ZKロールアップ)などのテクノロジーを活用することも、スピーディーでエネルギー効率の高い方法で国際的取引を決済するパワフルな方法を生み出すことができる。イーサリアムで使われている実験的なスケーリングモデルであるZKロールアップは、変更不可能性や決済の確実性など、ブロックチェーン固有の特徴を受け継ぎ、ビットコインで分散型金融をサポートする際に重要な役割を果たすことができる。

Web3の未来に向けて

ビットコイン上で開発されたWeb3プラットフォームは、世界のすべての人の金融サービスへのアクセスを可能にする安全な基盤となるだろう。ビットコインを基盤としたWeb3の未来では、Wi-Fi接続さえあれば世界中の誰もが通貨および生産資本としてのビットコインが実現する完全にデジタルでソーシャルなエコノミーを通じて、つながることができる。

ビットコイナーはすでに、投票などのプロセスを改善するためにビットコインアプリケーションを活用する方法を夢見ている。投票のためにビットコイン上でスマートコントラクトを使うことは、対面での投票の機会コストを削減し、現代の政治を悩ませる不信感を排除しつつ、透明性と安全性の向上を実現する可能性がある。

ビットコインは他の暗号資産に比べてはるかに有利なスタートを切ったにもかかわらず、金融ユースケース以外では開発を行わないことによって他のプロトコルに負けるリスクを持っている。

イノベーションに抵抗するような雰囲気によって、最も献身的な開発者以外の開発者は、ビットコインブロックチェーンで開発する意欲を削がれ、開発のチャンスがより豊富でお金にもなるイーサリアムブロックチェーンのようなプロトコルに優秀な人材を奪われ続けることになる。

ビットコインを基盤としたWeb3の未来を実現するために結集するか、ビットコインの潜在能力を完全に発揮させないで無駄にするリスクを冒すのか──。すべてはビットコインコミュニティと開発者にかかっている。

アレックス・アデルマン(Alex Adelman)氏:ビットコイン還元サービスを提供するショッピングアプリLolliの共同創業者兼CEO。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Josh Olalde/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Web3 Should Be Built on Bitcoin