アメリカの政治家たちは今、「債務上限」と呼ばれるアメリカの法律の奇妙なねじれをめぐる、熱のこもった、バカげた議論から抜け出せずにいる。アメリカの予算割り当てプロセスでは1917年以来、実際の予算(すでに議会によって承認されている)と、政府がその支払いのために国債を販売する力を切り分けている。

イエレン財務長官は、新しい国債が6月1日までに承認されなければ、米政府は国債への利子の支払いの一時停止を含め、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性があると語った。

この奇妙なプロセスは、劇場型で、メディアを意識した政治手法として非常に魅力的なツールとなっている。財政保守派はここ30年でますます頻繁に、債務上限の引き上げに関する投票を、支出削減を訴えるチャンスとして使うようになっている。差し迫る期限のなか、必死の交渉が繰り広げられるが、予算の具体的な要素について議論する政治的リスクはないため、テレビで扱うには格好のネタになる。

その空虚さにもかかわらず、債務上限論争は、伝統的金融セクターには実際的な影響を与える。特に注目すべきは、すべての人にとって借り入れコストを上げる点だ。さらに、債務上限をめぐる膠着状態は長期的には、グローバル金融の基軸としてのアメリカの立場にシステミックな影響をもたらす。

そして、これら2つの影響から、ビットコインも無縁ではない。

デフォルトの第1段階のダメージ

とりわけシリアスな人たちは、債務上限をめぐる「対決」を純粋な政治劇と見なしている。その理由はまず、支出に反対して大胆な立場をとっているとされる政治家たちがすでに支出に賛成しているからだ。

2つ目は、アメリカが実際にデフォルトに陥ることの影響は、理解を超えるほど壊滅的で、エコノミストたちは政治家が実際に脅しを実行するとは考えていない。

しかし、債務上限をめぐる対決で最も声高なのは、共和党内保守強硬派の「フリーダム・コーカス(自由議連)」と呼ばれる極右ポピュリストであることを考えると、そうした仮説はそれほど説得力を持たなくなる。そのため民主党議員たちは、ケビン・マッカーシー下院議長を含めた、より穏健な共和党議員たちと取引を試みている。

それでも、米国債のデフォルトが実際に起こる可能性はきわめて低い。だが、仮にそうなったとしたら、ビットコイン価格などは、ほぼすべての人の心配事リストの中で、ずっと下の方に追いやられるだろう。イエレン財務長官はデフォルトの影響を「アメリカの家計にとって深刻な困難」と述べ、あまり深刻に捉えていなかったが、米経済に深刻な打撃を引き起こすだろう。

ダメージは2段階で襲ってくる。最初の影響は、生活保護の給付から多額の軍関連の契約まで、政府によるあらゆる支払いの中止。そうなれば、GDPや株式市場などの伝統的指標は即時に急落するだろう。ビットコインとIT株の強い相関関係を示すデータが最近発表されたことを考えると、ビットコインも短期的に下落する可能性が高い。

繰り返しになるが、デフォルトの可能性はきわめて低い。しかし、その影響はあまりに甚大で、その些細な可能性すらもすでに市場に反映されている。米10年国債と30年国債の利回りはすでに少しずつ上昇し、保有リスクの高まりを反映している。ダウ・ジョーンズ工業株価平均とビットコインもここ2週間、下落している。しかしこちらは、市場の他の不透明感によるもので、債務上限問題に直接関係した値動きかどうかの見極めは難しい。

しかし、デフォルトによって引き起こされる経済的破滅の第2段階は、より複雑で継続的、そして致命的なダメージとなるだろう。

グローバル経済への大きなダメージ

米国債のデフォルトは、グローバル金融システムを劇的に作り変え、グローバル金融インフラとしてのビットコインの役割は大きくなるだろう。これは壊滅的なシナリオに対して、理論的にはヘッジとして機能するビットコインの役割のもうひとつの例。つまり、人間社会にとって非常に好ましくないからこそ、ビットコインにとってはプラスとなるシナリオだ。

デフォルトはまず、米国債の保有意欲を世界中から消滅させる。そうなると、既存の国債の利子を支払うコストは非常に高くなり、アメリカはおそらく、厳しい緊縮財政を余儀なくされるだろう。そうなると、グローバル経済は劇的に減速し、これもビットコインへの下方圧力となる。

また同様に、アメリカのデフォルトは世界中で貿易や投資のツールとしての米ドル離れを加速させるだろう。米ドルの最大の魅力はその強さと安定性であり、デフォルトは間違いなく、ダメージを与える。サウジアラビア、ロシア、中国は最近、原油貿易を米ドルから切り離す動きを見せているが、デフォルトとなれば、そのような動きは現実に近づく。

このような不安は、国際的な貿易ツールとしてのビットコインに、少なくともある程度の需要をもたらすだろう。しかし、それだけではない。

持続不可能な道

債務上限をめぐる膠着状態は純粋な政治劇と私が冷笑するのは、政府支出の削減という名目的な目標に同意できないからではない。むしろ、半年ごとに発生する債務上限をめぐる対立は、財政責任を追及するうえできわめて不適切な方法であることに不満を感じている。

債務や赤字は、アメリカだけでなく、世界全体で非常に深刻な問題だ。アメリカでは、連邦政府の歳出の7%が債務返済に充てられている。税金はもはや、経済の強化や国民生活の向上には役立っていない。そして毎年、財政赤字となるたびに、債務返済のための支出は増えている。

私たちは明らかに、持続不可能な道を歩んでいる。しかし、他の国も同じだ。世界中の国の債務は、現在、GDPの102%に達し、過去最高を記録している。個々の国が持続可能とされる約100%を少し上回る水準だ。そのため、一部の人が「グレートリセット」と呼ぶ、連鎖的な国家のデフォルトが起き、国債保有者に大規模な影響を与えるのではないかとの懸念が高まっている。

国債はグローバルなバランスシートの資産のきわめて大きな割合を占めているため、デフォルトの影響は壊滅的。そして、アメリカの債券市場の不安定さは連鎖反応を引き起こす可能性が高い。

このようなシナリオは、ビットコインがグローバルな準備通貨や貿易手段として台頭するための、より幅広い主張の根拠の一部となる(深刻な技術的問題はひとまず脇に置いておこう)。

デフォルトが多発する環境では、ビットコインの中立的な通貨としての機能は、国家の債務リスクとは無縁なために、巨大なバックネットとなり得るだろう。アメリカの債務上限をめぐる対立は、幼稚でバカげているが、そのリスクの深刻さと予測の難しさを浮き彫りにしている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:米下院(Shutterstock)
|原文:What Does the Debt Limit Showdown Mean for Bitcoin?