マクドナルドがメタバース進出。今なぜ?

マクドナルドは、チキンマックナゲット40周年を記念して、メタバース「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」に「McNuggets Land(マックナゲット・ランド)」をオープンした。

ファストフード大手のマクドナルドが、バーチャルの世界に興味を示すのはこれが初めてではない。同社は2022年、「宅配を売り物にしたオンライン・バーチャルレストラン」を運営する特許を申請している。だが、Web3に対する消費者やVCの関心が低迷しているなか、なぜ今なのか、なぜこれなのか、そしてグリマス(マクドナルドのキャラクター)はそこにいるのか、といった疑問が湧いてくる。

マックナゲットのメタバース体験

マックナゲットの世界に参加すると(私は2回トライして10分以上かかった)、「コーチ・マックナゲット」や、「アシスタント・コーチ・マックナゲット」という名前の彼のアシスタントなど、ピクセル化されたマックナゲットのキャラクターが出迎えてくれる。

マックナゲットのコーチたち(The Sandbox)

マクナゲット・コーチは、プレイヤーに4つのマクドナルドの看板を見つけることから始めようと誘うが、そんな冒険を喜ばないゲーマーがいるだろうか?

私もさっそく探しにかかった。プレスリリースによると、このゲームをすることで、プレイヤーは総額約44,000ドル(約620万円)相当の10万SANDの賞金や「ミステリーボックス」などの報酬を受け取ることができる。

このプロジェクトはマクドナルドの香港部門が主導しており、香港のユーザーには大きな賞品だけでなく、「チキンマックナゲット365日無料」クーポンを獲得するチャンスもある。

やや粗い画像で作られた世界では、看板や漫画のような吹き出しに「シェアしてください」というキャッチフレーズが溢れている。これは友人とナゲットをシェアすることを促すものだが、必死の訴えかけのような印象を与えている(私は、ジェブ・ブッシュが2016年の選挙戦の遊説先で「拍手してください」と悲しげに呼びかけたことを思い出した)。

マクドナルド香港のランディ・ライ(Randy Lai)CEOは「マクドナルドは常に革新的な体験とハッピーモーメントを提供しようと努力してきた」と語ったが、最近アメリカで流行したグリマスの誕生日を祝うシェイクとは異なり、このWeb3体験は、ゲーム化された体験の中で、ピクセル化されたマックナゲットが宣伝文句を述べるという激しくマーケティングされたものに感じられる。

擬人化されたナゲットが栄光の最期を迎える前に、どのソースを選ぶかと尋ねられた時には、私はバーチャルなゴールデン・アーチから退出する気満々だった。

スモーキー・ナチョ・チーズ・ソースを絶賛するマックナゲット(The Sandbox)

ザ・サンドボックスのセバスチャン・ボルジェ(Sebastien Borget)CEOは、プレスリリースの中で「広範な顧客基盤を抱えるマクドナルドのようなグローバルブランドとのコラボレーションは、ザ・サンドボックスを新たなレベルに引き上げ、メタバースのマスアダプションという究極の目標の実現に近づける」と述べている。

意義に欠ける各ブランドの取り組み

しかし、本当にそうだろうか? ザ・サンドボックスでは、アディダス、アタリ、グッチなどがバーチャルワールドを作り、また複数のビッグブランドが自社メタバースを立ち上げている。私は個人的に、1日のアクティブユーザー数の維持に苦労しているライバルの「ディセントラランド(Decentraland)」よりも、ザ・サンドボックスの方がずっと使いやすく、概して楽しいと感じている。とはいえ、もし私の仕事がWeb3の取材でなかったら、ザ・サンドボックスを訪れるだろうか? おそらく訪れないだろう。

飲料メーカーのSnapple(スナップル)が食料雑貨品店をオープンしたり、ファストフードのタコベル(Taco Bell)がメタバース・ウェディングを開催したりと、各ブランドは何年も前から、ドン引き寸前の奇妙な取り組みによって、さまざまなメタバースで活性化を試みてきた。

このような体験に食べ物や飲み物が導入される場合、メタバースでは食べたり、飲んだり、匂いを嗅ぐことすらできないのに、ビールブランドのミラー・ライト(Miller Lite)の「メタ・ライフ・バー」やスパイスメーカーのマコーミック(McCormick)の「ハウス・オブ・フレーバー」に意味があるのかと疑問を抱かずにはいられない。

最近、コンビニエンスストアのセブン-イレブンが、毎年恒例の「7/11の日」の一環として、人気ドリンク「スラーピー」のNFTを無料で提供。同じ日、スナックブランドのスリム・ジム(Slim Jim)は「Meataverse」を立ち上げ、人々に無料の「GigaJim」NFTの発行を呼びかけた。

「Meataverseに参加して、今すぐ無料のGigaJimを受け取ろう」

どちらの試みも、開始当初はツイッター上である程度の盛り上がりを見せたが、2週間も経たないうちに、これらの小道具的な取り組みはすでに、無用の長物と化しており、どちらのNFTについても話題にしている人や取引している人はほとんどいない。

メタバースに参加する「理由」が必要

ベンチャーキャピタル(VC)資金の多くがメタバースからAI(人工知能)に移行し、ディズニーのような巨大企業がメタバース部門を閉鎖するなか、ブランドがWeb3に参入するのにはタイミングが悪いように思われる。SEC(米証券取引委員会)の取り締まりや現在進行中の「暗号資産の冬」といった2023年の雰囲気では、暗号資産が絶好調だった頃にはバカバカしくも、楽しそうに思えたかもしれない取り組みも、恥ずかしく奇妙に思える。

マクドナルドのようなブランドがWeb3で成功したいのであれば、「McNuggets Land」が提供しているものよりも、優れた「理由」を人々に提示しなければならない。

スターバックスのWeb3ロイヤルティプログラム「オデッセイ(Odyssey)」は、途中でつまずいたが、顧客の既存の行動(実店舗でコーヒーを買う)とバーチャル特典やデジタルコレクティブルを結びつけることで、顧客がすでに行っている行動に付加価値を与え、より本質的な意味を生み出している。

さらにその過程で、スターバックスはコミュニティを作り、オデッセイを全顧客に展開する際と同時に貴重なフィードバックも集めている。

関連記事:スターバックス、Web3を活用したロイヤルティプログラムのβテスト開始

ちなみに、「McNuggets Land」で最もハッピーでなかったことは、グリマスがどこにも見当たらなかったことだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:McNuggets Land(The Sandbox)
|原文:McDonald’s Opens McNuggets Land in the Metaverse, but McWhy?