ペイパルのステーブルコイン戦略の真実──顧客からの預かり資産で利回りを得る

ペイパル(PayPal)がイーサリアム・ブロックチェーン上で米ドル連動型ステーブルコインを発行するというニュースは、当然のことながら暗号資産市場を刺激し、市場は小幅ながら上昇した。楽観論者たちは、フィンテック大手による、金融の分岐点と捉えている。

しかし、巨大決済企業のペイパルにとって、テクノロジーそのものは最も大きな要因ではないと疑う理由がある。むしろ、より直接的な動機はきわめてシンプルかもしれない。

つまり、ペイパルは利回りを稼ぎたいだけだ。

ペイパルUSD(PYUSD)は、パクソス・トラスト(Paxos Trust)が管理する信託に保管されたドル預金と流動性の高い現金同等物によって裏付けされる。PYUSDの裏付けの大部分を占めると思われる米国短期国債は、現在なんと5%の利回りを提供している。ペイパルはその利回りを手にできる。

つまり、ペイパルの暗号資産責任者、ホセ・フェルナンデス・ダ・ポンテ(Jose Fernandez da Ponte)氏のコメントは別の見方ができる。ダ・ポンテ氏はCNBC Cryptoに対して「我々はPYUSDをペイパル残高の延長と考えている……ペイパル・エコシステムの外でも利用できるようしている」と語っていた。

ペイパル残高とは、顧客がペイパルにに残すお金のことで、PYUSDの場合は、PYUSDと引き換えにペイパルに残すお金を意味する。念のために言っておくが、ユーザーは絶対に多額のお金を残すべきではない。理由の1つは、ユーザーのお金が差し押さえられるリスクがあるためだ。さらに重要なことは、ペイパルは利回りをユーザーに支払わない。だからこそ、金利上昇とともに、ユーザーのお金はペイパルの新しい収益機会となった。

預かり資産の残高は?

ペイパルはユーザーからの預かり資産の数字を完全に明らかにしていない。四半期決算では、同社は「Revenues from Other Value Added Services(その他の付加価値サービスからの収益)」と名づけられた大カテゴリーの一部として、顧客の預かり資産に対する金利収入を報告している。これには「顧客残高の基盤となる特定の資産から得られる利回り」に加えて、「紹介料、利用料、ゲートウェイ手数料、その他のサービス」などが含まれている。つまり、このカテゴリーは、ペイパルがユーザーのお金からどれだけの利回りを得ているかを示す明確な指標ではない。

わかっていることは、「付加価値」収入が取引手数料収入よりもはるかに急速に増加していること。具体的には、2022年第2四半期から2023年同四半期にかけて、付加価値収入は37%増加、一方、取引収入はわずか4.5%の増加にとどまった。顧客の預かり資産に対する金利上昇がこの乖離の主な要因である可能性は極めて高いだろう。

このような状況の変化は、ペイパルにとってステーブルコインをより魅力的なものにするだろう。2つのわかりやすい理由がある。

第1に、ダ・ポンテ氏が示したように、ステーブルコインが実現する幅広いサービスは、ユーザーがPYUSDでより多くの資金を、より長く保有することを促すだろう。理論的には、PYUSDの利用方法が従来のペイパル残高よりも多い場合は、その可能性が高くなる。PYUSDの担保残高が大きくなれば、ペイパルにとってはより多くの利回りが発生することになる。

しかし、もっと重要なことは、ステーブルコインはペイパルの財源から離れないことだ。例えば、ペイパル残高による家賃支払いは、現在、家主の銀行口座に送金する際にはドルに変換されている。だが今後は家主もPYUSDでの支払いを受け入れ、PYUSDを業者などへの支払いに使用することを望むかもしれない。

そうなれば、PYUSDをドルに「キャッシュアウト」するユーザーは少なくなる。つまり、ペイパルにとっては利回りを得るチャンスは大きくなる。金利が過去10年よりも長期的に高くなる時代を迎えると仮定すると、ペイパルの収益構成は預かり資産に対する利回りへのシフトを加速させる可能性がある。

ステーブルコイン市場は競争が激しくなっているが、PYUSDが人気を集めれば、ペイパルの企業戦略にとって、少なくとも暗号資産と同じくらい重要な存在になるだろう。

|翻訳:CoinDesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:ペイパルの暗号資産責任者、ホセ・フェルナンデス・ダ・ポンテ氏(CoinDesk)
|原文:PayPal’s Real Stablecoin Strategy: It Wants to Earn Interest on Your Deposits
※編集部より:本部を一部修正のうえ更新しました。