NBA選手らを惹きつける人気の「Friend.tech」、衰退が予想される理由

2週間前にローンチされた分散型ソーシャルメディアアプリ「Friend.tech」は、大きな人気を集め、激しい競争を勝ち抜けている。

NBA選手やeスポーツの大物が初期ユーザーとして名を連ね、ベンチャーキャピタル(VC)大手パラダイム(Paradigm)をシードラウンド投資家に抱えるFriend.techは、数字だけで判断すると登場からわずかな期間で、すでにフェイスブックやTikTokのようなビッグ・テックのライバルを引きずり下ろうとする暗号資産業界で最も成功した試みのひとつかもしれない。しかし残念ながら、だからといって今週末になっても注目に値し続けるとは限らない。

華々しいデビュー

すでに10万近いユニークアドレスがこのアプリとやり取りしている。しかし実際のところ、10万人に近いのか1000人なのか、それとも100人だけがFriend.techを利用しているのかはわからない。

多くの人は、将来のエアドロップの可能性を期待して急いでアカウントを作成したのだろう。いずれにせよ、Friend.techはすでに暗号資産業界に大きな影響を与えている。

例えば、20日には、わずか24時間で112万ドル(約1億6200万円、1ドル145円換算)の手数料収入を生み出した。8月11日にベータ版をローンチして以来では、合計で280万ドル(約4億600万円)にのぼる。これは同期間のビットコインネットワーク全体を上回り、Friend.techが基盤とする、コインベース(Coinbase)が開発したたイーサリアムのスケーリングレイヤー「Base」を、ここ数カ月、No.1の座を争ってきたライバルの、アービトラム(Arbitrum)とオプティミズム(Optimism)を上回り、最大の「レイヤー2」に押し上げるのに十分な数字だ。

暗号資産の世界では、このような急成長は明らかに誰かがリッチになっていることを意味する。このアプリ自体は、ツイッターのプロフィールに隣接する通貨レイヤーのようなもので、ツイッターのインフルエンサーが独自に発行するトークンを買いたいファンのために設計されている。私のような凡人でもアカウントを持つことができるが、「セレブ」と呼ばれる人々は取引手数料の一部を得ることができる。だが5%の取引手数料のほとんどをアプリが持っていくのだから、アプリが最大の勝者といえるだろう。

Friend.techは、簡単なUXとUIで暗号資産関係者の間ですでに称賛されている。開発者がウィンドウズ95からヒントを得ているようなこの業界では、UXとUIが長年の懸案事項。今のところモバイル専用だが、トークンを購入すればセレブにDMを送ることができる。イーロン・マスク氏のXがほとんどのユーザーのプライベートメッセージ機能を制限している今、ユニークなセールスポイントだ。

他の勝者は誰だろうか?

多くのアカウントはすでに、3ETH(~5200ドル)以上に上昇している。Friend.techを開発したと推測されている「Racer」のトークンは最も価値が高くなっており、150人近くがトークンを保有している。Cobie、Hsaka、Ansemのような他のツイッターインフルエンサーも負けてはいない。

分散型取引所(DEX)のユニスワップ(Uniswap)がこのイノベーションを解き放って以来、多くの暗号資産アプリと同様に、Friend.techもボンディングカーブアルゴリズムを使用して価格を設定している。これは買い手がいないときでも取引が可能な、数学を多用したシステムだ。

過去の失敗例

ボンディングカーブは、以前にも分散型ソーシャルメディアで試みられたことがある。主なメリットは経済的なものだ。理論的には、誰でも自分の評判を収益化できるようになり、トークン価格が、存在するトークンの数に比例して自動的に上昇するため、できるだけ早い段階で購入するインセンティブが働く。しかし、過去の実験は人々に嫌な印象を残してきた。

BitCloutを覚えているだろうか? 「クリプトスーパーサイクル」の末期に登場し、一時的な成功を収めたソーシャルメディアだ。後にDeSoと呼ばれる本格的なブロックチェーンにリブランディングされ、拡大したこのアプリは、独自コインでインフルエンサーのアカウントに事前に資金を提供したため、ソーシャルメディアで人々の注目を集めた。また、巨大な支援者であるアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)と、ボンディングカーブから得られる利益が小さくなる前に参入しようとする大量の初期採用者たちによって、うわべだけは立派なものに見えた。

BitCloutの栄枯盛衰は、Friend.techにとってプラスでもありマイナスでもある。ブロックチェーン上のソーシャルメディアがいかに困難なものだったかを考えると、Friend.techもまた廃れていくだろうと多くの人が考えている。しかし、匿名開発者のRacerは、もし彼がFriend.techを作ったのだとすれば、どうやらそれらの試みを見て学んでいたようだ。

分散型ソーシャルメディアの難しさ

私も、すぐに忘れ去られるような、がっかりするような夏の見世物だと考える一派のひとりと思ってもらってよいだろう。ひとつには、分散型ソーシャルメディアというこの路線は、自律性を高め、「テクノロジーの検閲」を制限するというブロックチェーンの実際のセールスポイントを生かしきれていないからだ。しかしまた、多くの(おそらくほとんどの?)人にとって、他人が自分のステータスを収益化することを見るのは不快なことだ。

だからといって、ソーシャルメディアを使った経済的な実験に反対しているわけではない。「1000人の真のファン」仮説(クリエイターとして成功するためには真のファンを1000人つかめば良いという仮説)は、すでに1000回以上実証されているし、人々が簡単に「インディーズ」になれるようなものは、ほぼ何でも良いものだろう。

私はニック・カーター(Nic Carter)氏とエリック・ウォール(Eric Wall)氏のOrbプロジェクトが好きだ(ワールドコインとは関係ない)。これはブロックチェーンを利用して、彼らのようなインフルエンサーが深い暗号資産の知識を収益化できるようにするものだ。お金を払ってOrbを保有すれば質問できる。これはまた、富の独占という難問に解決策を見出そうとうする野心的なハーバーガー税の実例でもあり、行動経済学的な美しさを持つ希少な取り組みだ。

非中央集権的なソーシャルメディアは、マストドン(Mastodon)ような暗号資産の汚名を背負っていないプラットフォームでさえ、成功させることは難しい。しかし、それがより公正なソーシャルメディアを作ること自体が難しいからなのか、それともFarcaster、Bluesky、Nostrのような流行の最先端を行くものも含め、ほとんどすべての「分散型ソーシャルメディア」プラットフォームが文字通りツイッターのクローンだからなのかはわからない。クリプト・ツイッターが業界の広場になっているのは確かだが、もう少し想像力を働かせて欲しいものだ。

暴かれた問題点

さらに、Friend.techに関する深刻な疑惑については言うまでもない。称賛しているのは多くの場合、黙ってアプリを使えば、大きな現金が手に入りそうな人々だ。問題点のひとつには、Friend.techがプライバシーポリシーなしでスタートしれたらしいことが挙げられる。ブロックチェーンが個人情報や金融情報の宝庫であることを考えると、これは大きな危険信号だ。そういえば、サインアップするだけで、ユーザーはアプリに自分の代わりにXに投稿することを許可すると言われており、Friend.techがAPIを通じてウォレット情報を漏らしている証拠もある。

DeFi(分散型金融)の伝説的存在であり、こうした多くの問題について投稿している暗号資産開発者Banteg氏は、GithubにあるFriend.techのコードリポジトリの「リーク」バージョンを見た後、10万1183のFriend.techユーザーアカウントのリストを実際に公開し、彼らのBaseウォレットアドレスとツイッターのプロフィールを結びつけるという大胆な行動に出た。

Banteg氏はドキシング(インターネット上で個人情報を公開すること)をしたとして、厳しく非難されるべきなのだろうか? それとも情報はどちらにしても流出していたのだろうか?

Friend.techはこの情報によって、問題を早く解決しようと考えるだろうか? それとも、その終焉を早めることになるのだろうか?

Friend.tech側は、この問題を報道したWebメディアのThe Blockを無責任だとし、いわゆるリークは「誰かがあなたの公開ツイッターフィードを見たことをハッキングと呼ぶようなものだ」と付け加えた。すべての情報は公開チャンネルから集められたものだからだ。しかし、それこそが問題なのであり、だからこそ人々はわざわざ現実世界とオンチェーンのアイデンティティを分けている。

とはいえ、著名な関係者たちは、Friend.techをフェアに扱うつもりだと述べている。0xCygaar氏は先日、このプロトコルのユニークな経済的インセンティブに関するスレッドを投稿した後、「私はさまざまな暗号資産トピックについて、より生々しく、独断的な考えをシェアするためにFriend.techを使用するつもりだ」と述べた。そして、初期のソーシャルトークン実験の多くが頓挫したとはいえ、数字は好調に推移しているようで、Friend.techはそれらの中心的なリポジトリになるきっかけをつかんでいる。

結局のところ、あなたのリスク許容度や暗号資産に興味を持つことになった動機次第では、Friend.techはあなたのためになるかもしれない。7月のハムスターレースのトレンドは、暗号資産が車輪の上で立ち往生していただけだったが、それとは異なり、少なくともソーシャルメディアネットワークは成長し、発展する可能性がある。

しかし、フェイスブックが今日でも数十億ドル規模のプラットフォームである理由を説明することに役立つ重要な先行者利益は、暗号資産には当てはまらない。コードを盗み、少し手を加え、その日のうちにツイッターでみんなが話題にするものになることは比較的簡単なのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Friend.tech Attracted NBA Influencers. So Why Does Everyone Think Crypto’s Latest Trend Will Die?