自ら混乱を引き起こすバイナンス──求められる広報戦略の改善

バイナンス(Binance)は、もうすでに十分な問題を抱えていて、自ら問題を引き起こすことはないと普通なら思うだろう。例えば、ユーロ取引はもう利用できないとソーシャルメディアで誤って発表してしまうようなことは……。だが8月21日、この世界最大の暗号資産(仮想通貨)取引所は、企業広報の不手際からちょっとした混乱を引き起こした。

広報上の不手際

誤解を解くために言っておくと、バイナンスはヨーロッパでの取引に対応できなくなったわけではない。バイナンスのヨーロッパでの銀行パートナーであるペイセーフ・ペイメント・ソリューションズ(Paysafe Payment Solutions)は、単一ユーロ決済圏(SEPA)で行われる出金と入金は、9月25日まで利用可能と述べた。これは、6月に「戦略的見直し」の結果、バイナンスを顧客から外すと発表した際に提示していた期日と変わらない。

ペイセーフはバイナンスが引き起こした混乱の後始末に追われたが、バイナンスを顧客から外すことに一段と正当性を感じているかもしれない。

ミスは起こる。X(旧ツイッター)は、人々が毎日後悔するようなことが投稿されているからこそ面白い。しかし、今回の間違いはバイナンスにとって、これ以上ないほどタイミングが悪かった。

バイナンスは声明を撤回したものの、本質的には、ペイセーフが手を引いたときに起こるだろうと予想していることを述べている。

「現時点では、SEPAによる送金が再開される時期は決まっておりません」

確かに、これは憶測に過ぎないが、ソーシャルメディアのアカウントにアクセスできる人物が用意したにしては、極めて公式な言葉使いだ。

世界中が知る限り、バイナンスはまだペイセーフに代わるパートナーを見つけていない。しかし、バイナンスがイギリスで問題を抱え、フランスで捜査に直面し、オランダ、ドイツ、キプロスでは基本的に歓迎されていないことを考えると、代わりとなる候補の銀行はバイナンスとの提携をためらう可能性が高い。

つまり、ヨーロッパの税金逃れと金融の不透明性の中心地であるキプロスで金融上の問題を抱えている時点で事態がうまくいっていないことがわかる。さらに、アメリカでもバイナンスは証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)から別々に訴訟を起こされており、暗号資産市場を暴落させる懸念のおかげで、司法省によるマネーロンダリング容疑での告発はなんとか免れているようだ。

「FUDは無視」

私はバイナンスがこの混乱を乗り切ると考えているとすでに書いているが、私は他人のFUD(恐怖、不確実性、疑念)を嘆くことはしない。「CZ」ことバイナンスの創業者兼CEOのチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏は日常的に、FUDを無視するよう人々に言っている。ビリオネア起業家であるジャオ氏は、企業が困難に直面したときのキャッチフレーズとして、数字の「4」とだけ伝えるほどだ。

このちょっとした言い回しは謎めいている。バイナンスのブログでは、「4」の由来を説明するために次のように書かれている。

「暗号資産市場の不安定な1年を受け、CZは年明け2日にツイッターに投稿し、2023年はシンプルに、より限られた事柄に時間を費やすようにすると説明した。教育、コンプライアンス、製品とサービスという3つの『やるべきこと』を挙げた後、『FUD、フェイクニュース、攻撃などを無視する』という『やってはいけないこと』を4番目に追加した」

おさらいをすると、3つの「すべきこと」は、教育、コンプライアンス、そして製品とサービス。これらは明らかにインテグレートされている。そして、もうひとつは「やってはいけないこと」だ。

恐れるな。不安を抱くな。そして、疑いについては考えることさえするな。

さて、私は数学の達人ではないが、最後の「攻撃“など”」のところでわからなくなる。私の考えでは、この「など」は他の「やってはいけないこと」を示している。避けるべきこと、頭から追い出すべきことは無限にあるかもしれない。

もちろん、これは数学というより魔術かもしれない。暗号資産時代のためのニューエイジ思考のひとつであり、肯定的に考え、否定的なことを無視すれば、過去、現在、未来のすべての問題は克服可能であるというような。

しかし、ほぼ絶え間なく繰り返される広報上の悪夢に直面している暗号資産業界は、「ポジティブ・シンキング」よりも考えるべきことがあるのではないだろうか?

より良いコミュニケーションを

バイナンスのジャオCEOはかつて、この業界の多くのリーダーと同様に、その正直さ、つまりソーシャルメディアやインタビューにおいて自分の考えを人々に直接伝えようとする姿勢を称賛されていた。しかし、何事にも時と場合がある。

サム・バンクマン-フリード氏もかつてはツイッターを頻繁に利用していたが、しらじらしい嘘をつき、「正しいスローガンすべて」を口にするという自分の古いやり方では、FTXを復活させることはできないと悟ったとき、このことを痛感した(私はバンクマン-フリード氏の手柄を過大評価しているかもしれない。そのような知恵は、おそらく彼の弁護士から得たものだろう)。

この1年でバイナンスは、「国家統制主義者の手先には頭を下げない」というコミュニケーションポリシーから、全面的な屈従へと完全に変化した。バイナンスは現在、かつては無視していた規制当局と協力しようとすることで、自らがまいた種を刈り取っているにすぎない。ノア・パールマン(Noah Perlman)最高コンプライアンス責任者やエレノア・ヒューズ(Eleanor Hughes)法律顧問のようなバイナンスの幹部は、無理な仕事を抱えているが、難事を成し遂げようとしている。

しかし、誰もが罪のないミスを許したり、バイナンスの深刻な金融犯罪に対する信憑性のある告発を見逃してあげるわけではない。しかし、おそらくいまだに暗号資産の世界で最も重要な企業であるバイナンスが、適切な対処方法をまだ見つけられていないことは悲しいことだ。

確かにミスは起こる。暗号資産の向こう見ずなトレーダーたちを喜ばせながら、同時にプロの体裁を保つことは難しい。暗号資産の不屈の反抗心とパンチをかわす力は不朽の強みとなる。

しかし、ジャオ氏がCEOとして留まるのかどうか、バイナンスが正式な本拠地を定めるのかどうか、そしてヨーロッパで実際に何が起こっているのかを我々は知る必要がある。これらのことの多くには、まだ公式な答えがないかもしれないが、答えが出るまでは、バイナンスは自らFUDを生み出していることになる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:バイナンスのチャンポン・ジャオCEO(CoinDesk)
|原文:Binance Needs to Get Off Twitter