決済は暗号資産の差別化要因ではない──FedNowのローンチで再認識

決済、特に国境を越えた決済(クロスボーダー決済)は、ブロックチェーンにとって重要なユースケースであり、価値提案であるとしばしばアピールされる。しかし残念ながら、テクノロジー、競争、規制環境のいずれを見ても、その考え方を裏付けることはあまりできない。

7月下旬に米連邦準備制度理事会(FRB)が新しいリアルタイム決済サービス「FedNow」をローンチしたことは、多くの人々や企業にとって、基本的な決済サービスに暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーンを利用するという価値提案があまり魅力的でない理由を考察する良い機会となった。

強みの欠如

ブロックチェーンと暗号資産エコシステムには、他の分野でも魅力的な強みがあるが、法定通貨による決済はそのひとつではない。何よりもまず、単純で大量の決済は、中央集権的なシステムで実行する方が安くて速い。ブロックチェーンには複雑なコンセンサスメカニズムと台帳データが分散されている多数のノードがある。つまり、中央集権型の決済は単一のインフラを素早く流れるが、ブロックチェーン決済は何千ものノードにコピーされ、ネットワークの混雑具合によって速度とコストが変化する。

FedNowの取引手数料は1件につき0.05ドル(約7円)以下と予想される。アメリカで最も一般的な銀行間決済手段のACH(Automated Clearing House)の手数料は現在、プロバイダーによって0.25ドル~となっている。

一方、ビットコインの取引手数料は平均1ドル前後だが、大きく変動することがあり、イーサリアムの取引手数料も同様に高く、変動する。 ビットコインもイーサリアムも、0.04ドルまでコストを引き下げることができるレイヤー2ネットワークを備えているが、これらはまだ広く利用できるものではないし、大量に利用されたこともないため、それほど低く抑え続けられるかどうかはわからない。

ブロックチェーン決済の普及を阻む2つ目の大きなハードルは、経路依存性である。 私たちはすでに、デビットカードや銀行口座と連動したシンプルな決済システムを広く展開している。新しいテクノロジーが参入し、旧来のインフラを一掃することは、よほどの優位性がない限り稀であり、ほとんどの場合、ブロックチェーン決済は、せいぜい価格競争力があるくらいで、小売業者などがチャージバック、払い戻し、ロイヤルティポイントなどに活用している多くの高度な機能はない。

問題はテクノロジーにあらず

ブロックチェーンや暗号資産の推進者が特に有望な分野としてよく挙げるのが、国境を越えた送金(クロスボーダー決済)だ。このような場合、伝統的な銀行や決済システムの手数料はかなり高く、多くの人々は銀行口座を持っていないため、単純にそのサービスを受けられない。しかし残念ながら、手数料の高さやサービスの欠如の根本的な原因は、ブロックチェーンで解決できるような技術的なものではない。コストを増加させる本当の障害は、規制、インフラ、競争の欠如であることが多い。

規制上の問題とは主に、一部の国では、身元確認書類が限られている、あるいはまったくない、あるいはその書類から不法就労や不法滞在であることがわかるような人々に対して銀行が口座を開設することを法律が認めていないことだ。

このようなハードルが緩和されたり、政府が銀行口座を持たない人々に銀行サービスを提供することを優先するようになった国では、銀行はいち早くこのような人々にサービスを提供している。

ブラジル、インド、ケニア、タンザニアはいずれも、規制や身分証明に関するハードルが緩和されれば、銀行や金融サービス事業社がいかに迅速に市場に参入できるかを示す輝かしい事例となっている。これらの国々はいずれも、低所得者層向けの市場が活況を呈しており、ここ数年で数百万人に銀行サービスを提供している。

国境を越えた決済の2つ目の大きなコスト要因は、インフラと規制の組み合わせだ。ここで言うインフラとは、コンピューティング・インフラではなく、物理的なインフラ、資金を移動させ、それを分配するためのサプライチェーンのことだ。ある人から別の人へ現金を送るには、現金を受け取り、払い出すための物理的なインフラが必要だ。

ウエスタンユニオンは世界中に50万以上のアクセスポイントを持つと報告されており、競合のマネーグラムは30万のアクセスポイントを持つと主張している。実店舗は、純粋なオンラインシステムを維持するために多くのコストがかかるが、競争上の大きな差別化要因になる。既存企業は、文字通り数十年にわたって個人ユーザー向けネットワークを構築してきた。ウエスタンユニオンは、1871年から送金事業を展開している。

国境を越えた送金を提供する企業において、オンライン間の決済と現金間の決済を比較することは有益だ。私は2つの業者と2つの通貨について簡単な調査を行ったが、手数料は完全にデジタルな決済で1~2%、店舗から店舗への250ドルの現金の送金では5%以上と幅があった。

価値を生み出せる分野

ブロックチェーン決済がクレジットカードやデビットカードに取って代わる可能性は低いと思うが、ブロックチェーンが卓越した価値を持つケースが2つあると思う。そして、ブロックチェーンが決済分野で計り知れない価値を生み出すのは、このような分野だろう。

1つ目は、伝統的な法定通貨ではないものすべてにある。銀行システムは、たくさんのお金を確実かつ低コストで移動させるという、驚くほど優れた仕事をする一連の驚異的なインフラだ。しかし、そのどれもがお金以外のものには機能しない。トークン化の天才的な側面は、銀行が通貨にもたらす規律(二重支払いの防止)を、価値のあるものすべてに適用できることだ。

2つ目の魅力的な価値提案は、購入する商品の受け渡しをすることとまったく同じエコシステムで決済ができること。すべての取引は、お金とモノの交換を伴う。現実の世界では、お金とモノはまったく別のシステムに存在する。コンビニで買うソーダの缶は別の在庫システムで追跡され、決済は銀行システムを通じて行われる。この取引の本当のコストは決済ではなく、異なるシステム間での照合だ。

ブロックチェーンと暗号資産ビジネスは、しっかりと根付いた既存の決済システムを追いかけるのではなく、消費者と企業に魅力的なメリットを提供する機会を追い求めるべきだ。

ブロックチェーン・エコシステムの柔軟性とプログラマビリティはコストがかかるが、単純な照合から複雑なビジネスロジックに至るまで、取引にあらゆる種類の複雑さを追加した瞬間に魅力的なメリットをもたらす。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:FedNow Is a Reminder That Payments Aren’t Crypto’s Differentiator