マスアダプションの障害はUXではなくPMF(プロダクトマーケットフィット)

暗号資産(仮想通貨)の普及促進に関する議論では、UX(ユーザーエクスペリエンス)の改善や向上に焦点があてられることが多い。一般的な考え方は次のようなものだ。

Web3プロダクトはUXが遅れており、オンボーディング(ユーザーの参加)には複数の摩擦要因があり、技術的なことを理解するためには学習が不可欠。Web3には、より広範な普及への扉を開けるシームレスなアプリケーションのエクスペリエンス(体験)が欠けている。

UXの改善・向上は確かに重要だが、それよりも私は「人々が望むものを開発すること」の方がより重要かつ緊急の課題と考えている。Web3が抱えているのは、UXの問題ではなくプロダクトマーケットフィットの問題だ。

ニーズを満たす

プロダクトマーケットフィットとは、製品が強いマーケットニーズを満たしていることを言う。消費財メーカーにとって、消費者向けの製品を作ることの素晴らしさと難しさは、人間が時代を超えて驚くほど一貫したニーズを持っていることにある。

生理的な欲求(衣食住)から心理的な欲求(帰属、愛、娯楽、自尊心)に至るマズローの欲求階層説が、その登場から1世紀近く経った今もなお、支持を集めている理由はそこにある。

消費財スタートアップの歴史は、斬新な方法で人間のニーズを解決する絶え間ないイノベーションの歴史だ。人々はしばしば、新しい消費者向けアプリケーションを軽薄なカテゴリー(「ダンスビデオを作る10代の若者たち」など)における漸進的なイノベーションと見なしているが、真実は、成功したスタートアップは人々のコアニーズを満たせるよう、段階的な機能向上を提供し続けているということだ。

Amazon(アマゾン)は、ほんの数クリックで本(そして他のあらゆるもの)が購入でき、商品の調達プロセスは劇的に簡単になった。Facebook(フェイスブック)は、大切な人とすぐにつながることを可能にしてくれた。Tinder(ティンダー)は、現実の生活で偶然出会うよりも桁違いに多くの潜在的な恋愛相手との出会いを可能にしてくれた。

ユーザーが受ける恩恵が十分に大きい場合、ユーザーはUXのハードルを飛び越え、新しい行動を学ぶことをいとわないという事例は、暗号資産やそれ以外の分野でも数多く存在する。

例えば、物理キーボードを搭載していなかった初代iPhone、インターネットそのもの、そして現在までに大きな普及を遂げたすべての暗号資産やアプリケーション(前回の強気相場におけるNFTがその主な例)などだ。コアとなるニーズを解決する製品にとって、複雑なUXは決してハードルにはならない。

多面的なユーザーニーズが数多くあるにもかかわらず、これまでのところ、暗号資産が独自に対処できるチャンスの探求は、主に金融分野に限られている。収入は広範なニーズだが、投機から収入を得る商品は、市場が上昇すれば機能するが価格が下落すると魅力を失う。特に、ユーザーがリスクや不確実性を抑えて収入を得るための代替手段がある場合、アピールすることは難しい。

普及に向けた出発点

暗号資産開発者には、帰属意識、コミュニティ、娯楽など、人間の他のニーズによりよく対応する製品を開発するチャンスが残されている。それはどのようなものだろうか?

小規模ながら、NFTコミュニティや分散型自律組織(DAO)は、資産所有に基づく斬新なソーシャルグラフを形成し、一部の人々の帰属欲求を満たしている。金銭的な利害を共有することが「真の」人間関係の基礎になるはずがないと思うなら、私たちの現実世界でのつながりの多くが、隣り合った住宅所有者であれ、スタートアップの従業員であれ、ポケモンカードのコレクターであれ、所有権に基づくものであることを思い出してみよう。

所属、尊敬、つながりの問題を解決する新しいコミュニティの基盤として、オンチェーン資産を活用できるチャンスがある。2023年8月だけで、イーサリアムとそのレイヤー2のスケーラビリティプロトコル全体で9450万ものNFTが発行された。ユーザーの活動量が増えるにつれて、オンチェーンでの行動に基づいてユーザーの興味を推測し、豊富な活動履歴に基づいてつながりを提供できることを想像してみてほしい。

オンチェーンメディアは、私たちのエンターテインメントの選択肢を広げ、オンライン上で消費したり創造したりするものに私たちが関与できるようにする。

Sound.xyz、Friend.tech、Zoraのようなプラットフォームでは、ユーザーは自分が信じるメディアやクリエイターに投資でき、コンテンツ体験を向上させ、これらのネットワークを金融化されたゲームに変えることができる。すべてのメディアがNFTとして取り入れられる世界では、インターネット体験を豊かにする新たな経済的次元が生まれるだろう。

これらは、暗号資産がプロダクトマーケットフィットを見出し、単なる収入以上のニーズに対応するための出発点に過ぎない。ここから、さらに多くの実験を行う余地がある。

広範な普及を達成し、現在のニッチを超えて進化するためには、暗号資産プロダクトは暗号資産抜きでは不可能なソリューションを通じて、人間の体験を向上させる必要がある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Mike van den Bos/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:The Barrier to Mainstream Crypto Adoption Isn’t UX — It’s Product-Market Fit