暗号資産を嫌っていたワールドコインのテクノロジー責任者【インタビュー】

OpenAI(オープンAI)のサム・アルトマン(Sam Altman)氏が生み出した暗号資産(仮想通貨)プロジェクト、Worldcoin(ワールドコイン)は「Proof of Personhood:PoP(人格証明)」を使用し、スタンリー・キューブリック風の個人認証デバイス「Orb(オーブ)」を使ってユーザーの虹彩をスキャンすることで、多くのメディアの注目を集めている。

このユーザー認証システムに関して、多くのブロックチェーン専門家から、ブロックチェーンを利用することを選択した人のプライバシーをどのように保護するのかという点について懸念の声が上がっている。

ワールドコインを開発しているTools for Humanityの製品・エンジニアリング・デザイン責任者ティアゴ・サダ(Tiago Sada)氏は、当初は暗号資産分野に参加することに懐疑的であり、業界のプロジェクトの多くは詐欺であると今でも信じていると語った。

しかし、彼をブロックチェーンに引き込んだのはイーサリアムだった。イーサリアムについてサダ氏は「以前はデジタル化できなかったものをデジタル化できるようになった」と語る。彼は今、Proof of Personhoodでアイデンティティと分散化の重要性を伝道する使命を担っている。

米CoinDeskは数週間前にサダ氏に話を聞き、ワールドコインや他のブロックチェーンの話題について質問した。ハイライトは以下の通り。

  • サダ氏がブロックチェーンと暗号資産の世界に足を踏み入れた個人的な経緯
  • ヴィタリック・ブテリン氏によるProof of Personhood批判に対するサダ氏の見解
  • AI(人工知能)とワールドコインの関係

暗号資産を嫌っていた過去

Q:この仕事に誘われたとき、ブロックチェーン分野での経験はあったのか?

A:自分のスタートアップを立ち上げていた頃は、実は暗号資産が大嫌いだった。正直なところ、すべて詐欺だと思っていた。フィンテックの創業者としての仕事の一部として、なぜ暗号資産ではなくフィンテックを開発することに意味があるのかを説明することに長けていなければならなかった。しかし、その会社を売却した後、私は1年間休暇を取り、探検したり、砂漠で暮らしたり、いろいろなことを経験し、未来がどこに向かっているのかを十分考える機会を得て、暗号資産にもう一度チャンスを与えることにした。

正直に言うと、私は今でも暗号資産の80%はうまくいかないと思っている。しかし、残りの20%は、信じられないほど奥深く、信じられないほど重要だと思う。

特に私にとって、イーサリアムは本当に衝撃的だった。これまでデジタル化できなかったものをデジタル化できるようになったのだ。

そして、コンポーザビリティに関して言えば、旧来のレガシーな世界で製品を作るという手段を経て、今では週末に以前にはできなかったようなものを作ることができる。本当に、本当にクレイジーなことだ。

それが、私がこのプロジェクトに参加する前のこと。私は暗号資産の分野でかなりいろいろと試し始め、興味深いプロジェクトをいくつか立ち上げた。

Q:暗号資産は詐欺だという方向からこの分野に取り組んでいる話は興味深いと感じた。あなたはおそらく良い仲間に囲まれているのだろう。

まず、あなたが所属しているテックコミュニティでは、この6カ月間で暗号資産に対するセンチメントがよりポジティブになったのか、それともあまりポジティブでなくなったのかを聞かせてもらいたい。

A:この半年でかなり良くなったと思う。

昨年のFTX騒動は、エコシステムにとって間違いなく最悪の時期だった。その前の強気サイクルは、才能ある人材を大量に獲得することに非常に適していた。FTX以降の1年間で、多くの雑音が消えたと思う。

この分野を信じていなかった人たちは、他のことを探求するようになった。そのため、粘り強くやり続けている人たちは、最も興味深いことに取り組んでいる傾向がある。なぜなら、彼らは正しい理由のためにやっているからだ。

人格とアイデンティティの証明

ティアゴ・サダ氏(Tools for Humanity)

Q:あなたはまた、ユースケースの観点から、懐疑的だとおっしゃっていた。そして、暗号資産の80%ほどは消えていくだろうと。暗号資産の世界でさえ、あなたの意見に反対する人はあまりいないと思う。

しかし、あなたは将来もユースケースが存在することを前提としたプラットフォームを開発しようとしている。あなたが言及していたイーサリアムもプラットフォームだが、それ自体はユースケースではない。では、あまり「こうあるべき」的な話にせずに、ご自身でDapp(分散型アプリ)やプログラムを立ち上げてみて、ワールドコイン上で、あるいはWorldIDを認証方法として使用することで、どのようなユースケースが生まれると予想するか?

A:なるほど。私の考えは少し違う。ワールドコインとWorldIDはブロックチェーン上に構築されており、特にイーサリアムを使用している。なぜなら、それが最高のテクノロジー、技術的に根源的なものであり、こうした分散型のものを開発したい場合、公共財となり得る形で開発したい場合、完全にプライバシーを保護するような形で開発したい場合に最適な方法だからだ。

World IDを使ったインテグレーションのほとんどは、Web2企業であり、私たちのユーザーも同じだ。

私たちはひとつだけ、少し違ったアプローチをとっていて、それは12語のシードフレーズや複雑な原則を理解する必要はないと考えている。これは非常に重要なことだと考えており、World AppやWorld IDのために多くを活用しているが、私たちの開発者やユーザーのほとんどは暗号資産の開発者ではなく、暗号資産のユーザーでもない。彼らはただの人間だ。彼らはただ送金したいからアプリを使っているだけだし、Webサイトにサインインしているだけだ。

例えば、私たちの最も人気のあるインテグレーションの1つは、ディスコード(Discord)とのインテグレーションだ。人々はWorld Appを使ってディスコードにサインインしている。その裏側で、私たちはゼロ知識証明で決済しており、それはとても重要なことだが、ユーザーや開発者が知ることはない。

だから私たちは、現在の世界に取って代わる、あるいはアップグレードする分野として暗号資産やDeFi(分散型金融)に賭けているわけではない。私たちが本当に賭けているのは、世界における人格とアイデンティティの証明の必要性だけ。それがモバイルアプリであれ、Web2であれ、もちろんスマートコントラクトやWeb3アプリケーションであってもだ。

ヴィタリック氏の批判に対する反応

Q:あなたはProof of Personhodについて言及したが、私はヴィタリック・ブテリン氏のProof of Personhodに対する懸念についてのコメントを読んだ。彼の懸念に対するあなたの見解を聞きたい。

A:ヴィタリックの見解は素晴らしいと思う。彼がそれを投稿する前に、私たちは彼と多くのことを話し合う機会を得た。

あれをワールドコインへのフィードバックと受け取る人がいることにとても驚いた。基本的には、仮説のほとんどを検証していると言えるだろう。彼が「プロジェクトの分散化のために機能するはず」と言うときは、積極的に取り組まれていることを示している。異論を唱える人はいないと思う。

私はヴィタリックのブログをいつも人に送っている。彼は、なぜこれがこれほど重要な問題なのか、そして、基本的にワールドコインがそうであるように、アプローチ以外の選択肢があまりない理由を、実にうまく説明していると思う。また、完璧なアプローチではなく、いくつかのトレードオフがあるが、彼はそれらをうまく説明している。

私たちは、コミュニティの多くの人々と協力して、それらを解決したり軽減したりする手助けをしている。

Q:AI(人工知能)とProof of Personhoodの関係は?

A:AIは人類にとって信じられないような新しいツールである。火を発明するようなものだ。しかし、火を発明するには、その火に対処できる新しいツールが必要となる。

Proof of Personhoodは、今日のインターネットではすでに重要なことだ。そうだろう? だからキャプチャのようなものがある。KYC(顧客確認)のようなものがあるのもそのためだ。しかし、この問題はより重要で、より困難なものとなっている。

既存の解決策はすべて、私たちが最も必要としているときに機能しなくなる。サムの視点に立てば、誰かがこの問題を解決することになることがわかったのだと思う。

ワールドコインのようなシステムは、分散型、かつプライバシーが守られる方法で開発されることが非常に重要だった。

ほとんどの人に話を聞くと、このようなシステムが存在するかどうかの問題ではない。唯一の問題は、それが分散型かどうか、オープンソースかどうか、プライバシーが守られるかどうかだ。

健全な懐疑心

Q:立ち上げ後、自分たちがどのように描かれているのかを見ることは悔しかったと思う。プライバシーを保護するための暗号化のステップでは、あなた方が実際に開発しているものと、目玉の情報を盗んでいるだけの人たちという描かれ方とを区別するために、多くの苦心をしてきたと思う。

この誤解はどこから来ていると思うか?また、「私たちはこのデータで実際に何かをするわけではありません」と人々に説明する計画はあるのか?

A:一部の声高なツイッターユーザーと、現場の現実には違いがあると思う。プロジェクトが始まった当初、私たちが最初にテストしなければならなかったことのひとつは、人々がこのことにワクワクしているのか、心配しているのか、懐疑的なのか、Orbについてどう感じているのかということだった。初期の段階で多くの場所を訪れた理由のひとつは、ただ人々を理解し、話を聞くことにあった。

一般的な人々はよく理解しており、生体認証が、プライバシーを保護することなく使われていることに慣れていることがわかった。人々のほとんどは、携帯電話に顔認証IDを搭載している。職場に着いたとき、外出するとき、何らかの生体認証を使って認証している。入国審査でも、生体認証のデータをすべて提供している。

だから、プライベートな方法で、しかもはるかに侵入的ではないシステムがあると聞けば、人々は通常、登録することにとても興奮する。

だから、態度が大きく変わる可能性があると言いたい。同時に、懐疑的であることはとても健全なことだとも思う。私たちは、世界と人々のプライバシーにとって間違いなく、とても重要なことをしていると思っている。

私たちは過去10年間、大企業が私たちのプライバシーにとってあまり良くないことをしてきたことで騙されてきたのだから、人々は懐疑的になるべきだと思う。

このプロジェクトがうまくいっている理由のひとつは、そしてツイッターで時々嫌ってくる人を見かけ、6カ月後にはそのような人たちがワールドコインがいかに素晴らしいかを語っているのを見かける理由のひとつは、実際に何が起きているのかを理解すると、人々はそのシステムにワクワクするからだ。

というのも、ワールドコインは、これまでに開発されたこの規模のシステムの中で最もプライベートなシステムだからだ。どんな新しいテクノロジーでも時間がかかる。

今は率直に言って、アーリーアダプターの需要に追いつこうとしているところだ。だから、私たちがレイトアダプターに追いつけるようになる頃には、レイトアダプターのことをもっと心配するようになるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Orbを見つめる米CoinDeskスタッフ(Jeff Wilser/CoinDesk)
|原文:The Tech Guru Behind Worldcoin: a Q&A With Tiago Sada