議論を呼ぶ「Worldcoin」の目的は? 80億人のためのベーシック・インカムを目指すプロジェクトの実態は:CEOインタビュー

Web3プロジェクトの中には、より良い暗号資産(仮想通貨)を作ろうとしているものがある。自己主権型アイデンティティ(ID)の問題に取り組むものもある。AIが生成したフェイクと真実の違いを見極めようとするものもある。ガバナンス向上のためのシステムを開発しているものもある。分散化の原則を通じてAI開発を改善しようとするものもある。世界的な不平等を減らそうとするものもある。

Worldcoin(ワールドコイン)は、上記すべてに取り組んでいる。

壮大な計画

そのゴールはシンプルで控えめ。最終的に、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)として、地球上に暮らす80億すべての人に自由にトークンを分配するシステムを作ることだ。しかし、AIの台頭によって、誰が人間なのか、誰がデジタルフェイクなのかを見極めることが難しくなるため、Worldcoinはまず、世界中のすべての人が自分は本当に人間であると証明できるシステムを作る必要がある。

そのためにWorldcoinでは、眼球をスキャンする装置「The Orb」を発明。最終的な目標は、地球上のすべての人の眼球をThe Orbでスキャンすることだ。すべてが順調に行けば、どこかの時点で、すべての人がオープンソースで分散型の金融ツールにアクセスできるようになる。

Worldcoinが、どこの誰かもわからないような暗号資産好きの人間による発案だとしたら、誇大妄想として笑って片付けられてしまうだろう。だがこのプロジェクトには、真に知的な手応えがある。AI開発の最も中心的な人物と言って良い、ChatGPTを手がけるOpenAI(オープンAI)のCEO、サム・アルトマン(Sam Altman)氏が共同創業者なのだ。

AIが人間の能力を真に超える汎用人工知能(AGI)にまで進化すれば、世界は永遠に変わるとアルトマン氏は考えている。

そのような世界は、映画『ターミネーター』に登場するAI「スカイネット」のように、人類を絶滅させるような恐ろしいディストピアなのかもしれない。しかし、AGIが生産性を驚異的なほど飛躍的に向上させ、世界に経済的利益をもたらす可能性もある。

ソフトウェア開発者で投資家のマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)氏が先日、AIについてきわめて強気の論説で主張したとおり、「経済全体における生産性の成長は劇的に加速し、新しい産業の創出、新しい雇用の創出、賃金の向上を促進し、世界中で物質的な繁栄の高まる新しい時代が生まれる」かもしれない。

AGIがすべての仕事をこなしてくれれば、私たち人間は、詩を書いたり、歌を歌ったり、あるいはもっと現実的には、ソーシャルメディアでの議論に時間を費やし、余暇を楽しむことができるかもしれない。AGIが本当に、有意義な形で社会に恩恵を与えるとしたら、その恩恵を市民に公平に行き渡らせるには、どうしたらいいだろうか?

そこで、自動化する世界に対処するためのアイデアとしてシリコンバレーで人気のUBI、さらにWorldcoinの出番だ。

Worldcoinは、暗号資産の世界で最も野心的なスタートアップであるだけでなく、歴史上で最も大胆なプロジェクトのひとつとも言えるだろう。まるで、大学の寮で語られる空想話のようだ。「まったくバカらしく聞こえた」と、2019年に初めてそのアイデアを聞かされた、当時25歳で、理論物理学を学んでいたアレックス・ブラニア(Alex Blania)氏は認めた。

アルトマン氏はプロジェクト参加に興味があるかを探るために、ブラニア氏にメールを送った。「正直に言って、しばらくの間は真面目に取り合ってはいなかった」とブラニア氏。しかし、面接のためにサンフランシスコまで出向き、Worldcoinを共同創業、CEOを務めている。

Worldcoinを立ち上げてから最初の1年間、ブラニア氏とチームは研究に専念した。そしてプロトタイプを開発。2021年には、The Orbを発表し、展開していった。Worldcoinプロジェクトには現在、180万人がサインアップしている。究極の目標は、80億人だ(CoinDeskのデビッド・Z・モリスは、この目標を心から憂慮すべきものと考えている)。

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もしそれが実現したら? この荒唐無稽な計画を成功させ、地球上のすべての人に自己主権型IDとユニバーサル・ベーシック・インカムを提供できるようになったら?

先日、Zoomインタビューでブラニア氏にこの質問をぶつけると、その瞬間は「これまでに起きた中で、最も深遠な技術的シフトのひとつ」になるだろうと考え、ほとんど言葉を失いそうになっていた。

※下記インタビューは要約、編集されています。

プロジェクト参加の経緯

──サム・アルトマン氏からWorldcoinのアイデアを持ちかけられた時の反応は?

アレックス・ブラニア氏:正直に言うと、しばらくの間、真面目に取り合ってはいなかった。それが正直な答え。マックス・ノベンドスターン氏(もう1人の共同創業者)とサムが、いくつかのアイデアを説明する2、3ページの文書を用意していた。まだ、そんな段階だった。

──その文書の要点は?

考え方の流れを説明すると、まず、AGIは実現するということ。有意義な形で社会をディスラプトするだろうと書かれていた。サムは、UBIはいずれ実施される必要があると確信していて、社会にとって最も大切なことのひとつだろうと考えていた。

2つ目にサムは、業界で昨年起こった多くのことについては非常に懐疑的だが、実は暗号資産全体を大いに信じていること。彼が目にしてきたことのひとつが、人々が常々、ネットワーク効果の重要性を過小評価しているということ、そしてひとたびネットワーク効果が発揮されれば、それはいかに激しく重大なものであるかということ。(暗号資産など)私たちが必要としているものの多くがすでに存在しており、普及を軌道に乗せるためには、はるかに多くの人たちが使えるようにスケーリングする必要があるだけだ。

──非常にシンプルなストーリーに思える。

すごくシンプルだろう? そして文書の最後の段落は、すべての人に向けてトークンをローンチできたらどうなるか、ということについてだった(編集部注:規制上の懸念から、Worldcoinは現在、アメリカ向けには計画されていない)。

ただ人間らしく生きるため、そしてネットワークを非常にすばやく成長させるためのインセンティブを揃えるために、結果的に、政府によるものではなく、真にオープンなアイデンティティ・金融ネットワークを自力で立ち上げることになる。

まったくバカらしく聞こえた。しかし当時私は(これが失敗に終わっても)いつでも地元に帰って、別の仕事に就けばいいのだから、挑戦してみればいいと考えた。

Worldcoinの基礎

──Worldcoinのゴールを説明するとしたら?

Worldcoinのゴールは、すべての人に所有権を与えることによって、通貨を発行すること。その結果として、すべての人に世界的なIDを与え、分散型金融ツールにアクセスできるようにすることにある。

──その仕組みは?

ユーザーとしてサインアップすると、現状では、World Appというノン・カストディアル型ウォレット・アプリをダウンロードすることになる。アプリをダウンロードして、デバイスの前に立つ。そのデバイスが、さまざまなサービスで匿名の認証に使えるWorld IDを発行する。

それが終わったら、(将来的には)参加しているだけで、毎週本物のトークンの所有権を受け取ることができるようになる。つまり、3つの要素から成り立っている。World ID、World App、そしてWorldcoinだ。

──アイデンティティを証明することが、すべてにおいてなぜこれほど中心的な役割を果たすのか?

問題は非常にシンプル。問題は、すべての人が完全にプライバシーを保護できるような固有IDを確実に持てるようにする必要があるということ。それが課題だ。政府発行のIDでは、役に立たない。アメリカやヨーロッパではしっかり機能するかもしれないが、世界の大半では、実際に認証可能なデジタルIDが存在しないからだ。

──確かに。では「The Orb」に話題を移そう。ユーザーは実際に、眼球をスキャンするために、デバイスのあるところに出向かなければならないと言っていたが、なぜその必要があるのか?

最初は、アイデンティティの解決には取り組みたくなかった。その考えそのものが、あまりに野心的過ぎるからだ。しかし、この問題を避けて通る道はないと観念した。アイデンティティの証明の方法について考えるときには、3つの大きなコンセプトがある。信頼できるネットワークがあり、そしてもちろん、政府によるKYC(本人確認)があり、さらにはさまざまな生体認証も使える。

これら3つをかばーできるプロトタイプを開発した。最初の年に、開発した。

──最終的には生体認証を採用することになったのはなぜか?

現在運用されているシステムの多くは、(AIが向上する)世界ではかなりの困難に直面するだろう。インターネット上での捏造はきわめて簡単になる。CAPTCHAや、もっと複雑な形態のCAPTCHAなど、特定のタスクをこなすように求めることは、いずれは機能しなくなるだろう。根本的に、実際の世界への橋渡しを行い、人間であることが何を意味するのかを測る必要がある。だからThe Orbだ。

──The Orbは、特にクリプト・ツイッターの世界では、控えめに言っても、「意見の対立を招く」ものとなっているが?

このプロジェクトに関して、最も大きな論点のひとつだと思う。暗号資産業界の中には、とにかくこれを嫌って、「信じられない。これはあまりにひどい。なぜThe Orbなんて名前をつけているのだ?」と言っている人たちがいる。しかし、他方では、皆が話題にしていて、なんとなく定着しているだろう?

──少なくとも、ツイッターの世界に素晴らしいコンテンツを提供していることは確かだ。その点は感謝する。

最初のミーティングで、サムがWorldcoinについて語ってくれたお気に入りの言葉がある。Worldcoin最大のリスクは、誰にも気に留められないこと、というものだ。

懸念に対して

──人々は気にかけている! そしてもちろん人々は、監視やプライバシーの点で「The Orb」が何を意味するのかを懸念している。そのような懸念にどのように応えるか?

それに対してざっくりと回答するなら、World IDのようなものはゆくゆくは存在するようになるだろう、ということ。つまり、好むと好まざるとに関わらず、インターネット上で(自分が人間であるということを)証明する必要が出てくるだろう。AIの進展に伴って、間違いなくそうなると思う。おそらくこの先数年でそうなるだろう。

現時点では、パワフルな組織に受け入れられるレベルに到達でき、同時に完全にプライバシーを保護し、政府のインフラに頼らないで済む唯一の道はWorldcoinだと思う。さらに、すべてがオープンソース。暗号資産の世界が理論的に大好きなはずのことばかりだ。

──iPhoneのような顔認証ではなぜダメなのか?

iPhoneのFaceIDは、あなたが再び顔を見せている、ということしか証明できない。同じ人物が携帯を使っていることの証明だ。これはかなり簡単に証明できること。私が、あなたとまったく同じ見た目になることは非常に難しいからだ。1対1の比較だ。

しかし、Worldcoinの場合、逆の問題がある。1人のユーザーがWorldcoinにサインアップすると、そのユーザーを、すでにサインアップしたすべてのユーザーと照らし合わせる必要がある。

つまり、「私はあなたとまったく同じに見えるか?」ではなく、「私は、ネットワーク内で新しい人間であるか?」という点が問題になる。演算の観点から言うと、その問題を解く方が、各ユーザーに関してはるかに多くの情報が必要となる。各ユーザーについての情報がなければ、何千万人もの人がサインアップした後に、比較することができない。そこで壁にぶつかってしまう。

この「Proof of Personhood(個人の人間性と固有性の証明)」という、10億人の中の固有の人間であることの証明の問題を、フェイスカメラやFaceIDのようなもので解決しようとすれば、数千人がサインアップした時点で失敗に終わってしまう。だが虹彩はきわめて固有性が高い。偽造も極めて難しい。時間が経っても、とても安定している。この問題を解決するのに最適な多くの特徴を備えている。

人間であること、固有であることの2つだけ

ここで、Worldcoinの親会社Tools for Humanityの最高コミュニケーション責任者レベッカ・ハーン(Rebecca Hahn)氏がインタビューに加わり、The Orbが収集して「いない」ものについて説明した。

レベッカ・ハーン氏:The Orbは虹彩の画像をキャプチャし、固有の識別子となるコードを生成する。この識別子は、あなたが人間であり、固有の人物であることを示す。あなたがレベッカなのか、ジェフなのか、男性なのか、女性なのか、その他の特徴については示さない。人間であること、固有の人物であるという2点だけだ。

──現在、180万人がサインアップしている。The Orbがキャプチャするものについて今言ってくれたとおり、固有で人間であるということ以外は、サインアップした人について何も知らないということか?30%はヨーロッパの人で、55%が男性といったことは把握しないと?

ブラニア氏:(異なる地域にある)Orbがどれだけ多くのサインアップに対応したかといったことは数えることができる。実際のサインアップ・プロセスからのメタデータだ。しかし、最も重要なことは、The Orbの前にユーザーが姿を現すこと。そして最初にするのは、あなたが実際の人間であるということを検証することだ。

多くのセンサーを搭載している。サーマルカメラもある。ToFカメラ(距離を計測するカメラ)もある。それらが、あなたがディスプレイではなく、実際の人間であることを確かめる。そこから、レベッカが説明したとおり、画像化が行われ、虹彩コードが算出される。

The Orbがそれに署名して、固有性のチェックがクラウドで実施される。ここが素晴らしいところなんだが、固有性のチェックは、ユーザーの知識証明とは切り離されている。基本的にユーザーは、自分の情報や鍵などを実際に公開することなく、他の固有のユーザーの集合の中に含まれていることを証明するだけだ。

異なるプラットフォームを超えて使える、匿名性のある固有の識別子を手にすることになる。ちなみに、グローバル識別子ではない。すべてがユーザー次第だ。ユーザーがそれぞれのプラットフォームとどれくらいの情報を共有したいかを選ぶことができる。

ハーン氏:つまりこの先、AIが生み出す経済的利益が分配される世界になるかもしれないということ。しかし現状では、とても基本的に見えるかもしれないが、World IDをツイッターに組み込んで、多くの問題を解決することができる。

──自己主権型ID(SSID)という言葉は使っていないが、その問題を解決しようとしている、ということであっているか?

ブラニア氏:そうだ。

未来予想図

──また、シンプルな話だ! 最後に、Worldcoinが成功した未来を想像してみたい。開発しようとしているものすべてにおいて、完璧に成功したとする。難解な問題を解決してみせたとする。World IDとWorldcoinが至るとことにある。ユニバーサル・ベーシック・インカムが地球上のすべての人に分配されている。その世界はどんなものか?

(沈黙)

(さらに長い沈黙)

ブラニア氏:正直に言って、そこまで先の予測を立てることは、きわめて難しくないだろうか? サインアップが30億人を超えた途端に、これまでに起きた中で最も深遠な技術的シフトのひとつとなるだろう。

ソーシャル・ネットワーク、フェイスブックなどよりはるかに深いシフトになるからだ。アイデンティティがあり、根源的な通貨を持つネットワークなのだ。それは深遠なシフトだ。だから予測を立てるのは、かなり難しいと思う。

しかし、私にとってエキサイティングで、私が起こるだろうと考えていることをいくつか話そう。

──どうぞ。

ブラニア氏:まず、暗号資産から。私は早くから暗号資産に関わっていた。ビットコインのホワイトペーパーは、発表から数週間後に読んだ(編集部注:ブラニア氏は2018年時点で、14歳くらいだったはず)。とても刺激的だった。分散型金融ネットワークというアイデアだ。

当時は、ピア・ツー・ピアの通貨が中心だった。今は価値の保存手段と言っているが、当時は違っていた。

Worldcoinで起こる本当にエキサイティングなことのひとつは、(将来的に)そこまで行けば、実際のピア・ツー・ピアの利用が見られるようになることだろう。それはWorldcoinではないかもしれない。

ユーザーが公開鍵と秘密鍵、そしてアイデンティを実際に手にするということ。そして、日々の暮らしの中で暗号資産を使い始める。テスラが電気自動車への移行を加速したように、Worldcoinがそのようなプロダクトへの移行をかなり劇的に加速すると考えている。それ自体が刺激的で、エキサイティングだ。

(AI開発と)Worldcoinをめぐって起こることはなんでも、かなりクールなものになると思う。つまり、うまく行けば、Worldcoinのユーザーは、世界で展開される最大級のAIシステムの開発に影響力を持つことができるだろう、ということ。

ユーザー数80億人を達成すれば、ログインして、World IDを通じてUBIを実際に受け取ることができるようになる。

あまりに深遠過ぎて、何と言ったらいいか……何が起こると思う?

──専門家はあなたの方で、私は話についていっているだけだが、どうなるか待ちきれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Worldcoinの共同創業者アレックス・ブラニア氏(左)とサム・アルトマン氏(Marc Olivier/Worldcoin)
|原文:An Orb, a Token and Money for Everyone: Worldcoin’s CEO on Crypto’s Most Daring Project