暗号資産の足かせは? 規制当局のみならず創業者たち

ブロックチェーンと暗号資産(仮想通貨)をめぐる過去数年間の一般的なストーリーは、規制が業界にとって最大のリスクというものだった。だが、それは誤りだ。

過去2年間で学んだことがあるとすれば、規制当局はそれぞれのペースで規則や規制を整えているのであり、私たちはWeb3テクノロジーについて、世界的な啓蒙やロビー活動を続けていかなければならない。

しかし、業界として我々はまた、誰もが認識しているが見ないふりをしている重要な問題に対処する必要がある。それは、創業者リスクだ。当然のこととして受け入れてはならない。

この業界の第一人者たちは瞬く間に、ニュースターからインチキセールスマンへと変貌を遂げた。破綻した企業リストは、わずか2年前には重要だった組織を並べたリストのようだ。

FTX、ボイジャー(Voyager)、さらにさかのぼればクアドリガ(Quadriga)やマウントゴックス(Mt.Gox)など、リストは永遠に続くかのようだ。これらのプラットフォームはなぜ破綻したのだろう? なぜ、何十億ドルもの顧客資金を道連れにできたのだろう?

規制当局に責任があるのか?

私たちの業界は、規制当局がプロジェクトを追及してくるとき、明確な規制がないと派手に抗議する。そして私は、このような抗議の約90%が正しいと考える。しかし、預かっていた顧客資産を紛失したり、不正に使用した取引所の創業者は、規制の明確性の欠如を弁明として利用することはできない。

暗号資産とWeb3の市場構造には、伝統的市場とは異なる一面があり、この違いがこの業界の苦悩の大半を引き起こしている。それは、資産カストディについて業界標準がないことだ。

基本的な金融を理解している人なら誰でも知っているシンプルな真実、それは、資産は取引場所から分離されるべきということだ。

取引を行うプラットフォームが、資産の保管場所であってはならない。これは明らかな利益相反であり、是正されない限り、資産の蒸発は続くだろう。

暗号資産業界の著名人のほとんどは、伝統的市場での経験があると主張して、その信頼性を築いた。ジェーン・ストリート(Jane Street)にいたサム・バンクマン-フリード氏から、ETradeにいたボイジャーのスティーブ・エーリック(Steve Ehrlich)CEOまで、人々はウォール街での経歴を誇示する傾向がある。

伝統的金融の世界では、取引所や取引会社はオーダーブックで取引される資産を保有していない。アップル株を取引したい人が、ナスダックに株券を渡して「取引が決済されるまで私の株を持っていてくれ」とは言わない。取引所が資金を預かっている間に、何か問題が起こる可能性があることをほとんどの合理的な人は理解しているからだ。

シュワブやTDアメリトレードのようなブローカーを仲介している場合でも、資産が通常、BNYメロンやフィデリティのような第三者のカストディ事業者に保管されているのはそのためだ。

取引ベースのプラットフォームは、たとえ創業者が「銀行はあなたの味方ではない」と主張したとしてもカストディアンとして機能すべきではない。

暗号資産の抱える難問

中央集権的な暗号資産取引所やブローカーはすべて、ほぼ同じ仕組みを持っている。 それは、そこで取引する資産をカストディするという仕組みだ。

現在、公に知られている捜査や刑事告発、裁判の数を考えると、このような仕組みがなぜまだ可能になっているのか私には理解できない。

次のようなシナリオを考えてみてほしい。中央集権的な取引所に参加し、取引をしようとする。自分の資産を取引所の管理下に移し、残高を反映した口座台帳を手に入れ、それをもとに取引ができる。

しかし、あなたの資産は実際には取引所に保管され、他のトレーダーの資産と混在している。分別管理された口座はなく、ユーザーはプラットフォームが自分の資産を自由に移動できることを承認している。

実際、多くのプラットフォームの利用規約には、ユーザーは破産した場合の無担保債権者として記載されている(利用規約を本当に読む人はいないので、ほとんどの人は知らないだろう)。

規約に記載がなくても、ほとんどの司法管轄区ではあなたの資産はそのように扱われる。言ってしまえば、あなたは一生懸命稼いだ投資資金を好きなようにできる第三者に渡すことになり、破産した場合には、小銭を受け取れればラッキーなのだ。

さらに悪いことに、取引所があなたの資産を動かすことができるなら、彼らはあなたの信頼を悪用できる。実際のところ、あなたの資産が本当はどこにあるのか、そして取引所があなたの資産で何をしているのか明確なことはわからない。こうなると、騙される方が悪いという感じだ。

解決策はある

多くの人は、セルフカストディが答えと考えている。しかし、セルフカストディなどと言うものは存在しない。なぜなら、カストディアンであるためには、その存在理由として資産を保有するような、対立しない第三者でなければならない。

セルフカストディにこだわる業界の一部の人々は、セルフカストディ・ウォレットを使い、シードフレーズを管理するために必要な技術的な知識、能力、意欲をほとんどの人が持っていないという当たり前のことをまだ理解していない。こうして、2億5000万ドルの損失を嘆く人々が全国ニュースに登場することになる。

あなたと私はカストディアンにはなれないが、シャード化されたデータベースでのキーリカバリーをサポートするKYC/AML(顧客確認/アンチマネーロンダリング)による自己所有という妥協策がある。複雑に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。

取引所とやりとりするためには、まずKYC/AMLコンプライアンスをクリアしたのち、取引所とシームレスにやりとりできる、あなたが特別に指定し、管理するノンカストディアル・ウォレットに資産を入れる。他の中央集権型取引所で使用されているオムニバス口座に起因するリスクは一切ない。

これが意味するのは、FTXやアラメダ・リサーチ(Alameda Research)で起こったこととは違い、あなたの資産が物理的に他人の資産と混ざり合うことはないということだ。中央集権型の組織/個人の行為から安全に守られる。

このプロセスを経ることで、あなたは悪人ではないこと、他の悪人と取引していないことを保証し、あなたの取引プラットフォームは規制要件を遵守していると示すことができる。

また、シードフレーズを紛失した場合には、KYC/AMLプロセスを経てデジタルアイデンティティ(デジタルID)を証明することで、シードフレーズを回復できる。

前に進むために

現在、オンラインユーザーの大半はWeb2プラットフォームを利用しており、私たちは彼らをWeb3に移行させたいと考えている。 未来はすぐにやってくるが、人々に、分散化された自律的な資産の所有という考え方に徐々に慣れてもらうために約10年かかる。この移行は容易ではないが、人類史上、最も意義深いシフトのひとつとなるだろう。

セルフカストディを行う人の数はすでに最大限に達している可能性が高く、取引所の内部リスクや創業者リスクから守りつつ、マスアダプションを可能にする、より洗練されたソリューションに進化する必要がある。

ローマは1日にして成らず──明日の金融市場も一朝一夕には築けない。しかし、この苦労はすべて報われるはずであり、私たちは業界に対して、ユーザーがイノベーションを受け入れる準備が整う前に無理矢理イノベーションを押し付けるのではなく、中間地点でユーザーと折り合うよう呼びかける。

そうすることで、資産を保全し、Web3プラットフォームの生き残りを可能にするマスアダプションに必要な信頼を築くことができる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:FTXの創業者サム・バンクマン-フリード氏(ev radin / Shutterstock.com)
|原文:What’s Holding Crypto Back? It’s the Founders, Not Just Regulators