至高の目標なのか、ビットコイン現物ETFがもたらす波及効果

ビットコイン(BTC)現物ETF(上場投資信託)が年内に上場される可能性はほぼ確実となった。米証券取引委員会(SEC)は、数年にわたる法廷闘争の末、米控訴裁判所の決定に対して控訴しなかった。同裁判所は先日、SECが先物ベースのETFを承認する一方で、実質的に類似した現物ベースのプロダクトを否定するという偏った判断を下したと、SECを批判していた。

至高の目標

株式市場で取引されるビットコイン現物ETFは、すでにカナダや欧州で取引されているにもかかわらず、暗号資産(仮想通貨)業界にとっては至高の目標のようになっている。

その理由は、SECがこれまでのところ数十件の申請を却下しており、ビットコインを直接購入せずにビットコインへのエクスポージャーを求めるアメリカの投資家にとっては、手の届かないものとなっていることにほぼ起因している。

例えば、グレイスケール(Grayscale)が2021年10月にビットコイン現物ETFを申請し、2022年6月にSECが却下したときは、8月に米控訴裁判所の3人の裁判官がSECは「間違っていた」との判決を下したときと比べると、ニュースに取り上げられることははるかに少なかった。

裁判所の判決のニュースは、ブラックロックが最近提出したビットコイン現物ETFの承認申請にどのような意味を及ぼし得るかという点で暗号資産と金融の世界に大きな波紋を広げた。

「ブラックロック: 世界を所有する秘密の会社」といったニュースを見れば、世界最大の資産運用会社である同社からのETF申請の発表後11日で、ビットコイン価格が20%上昇したことも不思議ではない。最初の上昇は、将来の強気への楽観的な熱狂を引き起こした。

ブラックロックの(他の資産での)ETF承認実績は99.8%であるにもかかわらず、SECはこれまでビットコイン現物ETFを承認しておらず、アメリカを拠点とする主要な暗号資産取引所を積極的に取り締まりのターゲットにしていることから、SECがこの件に関してどのような決定を下すかはまだ不透明だ。

とはいえ、ビットコインとブラックロックの結びつきは、一部のビットコインと暗号資産至上主義者に楽観的な見方を与える一方、中央集権的な組織がこの領域で力を持ちすぎることを懸念する見方もある。

TradFiとビットコインの複雑な関係

ブラックロックのビットコイン現物ETFは、実際のビットコインを裏付けとするようであり、そうなるとブラックロックは販売するETFと同量のビットコインを購入する必要がある。つまり、ビットコイン価格を後押しすることはほぼ間違いない。

しかし、ビットコインや暗号資産に対する機関投資家の関心は今に始まったことではない。2013年にウィンクルボス兄弟が最初のビットコインETFを申請した後、UBS、シティ、バークレイズなどの大手金融機関が暗号資産とブロックチェーンに関心を示してきた。そしてこれらはすべて、2017年の強気相場が始まる前のことだった。

それ以来、あらゆる規模の金融機関が暗号資産サービスの提供を模索し続けている。DeFi(分散型金融)サービスやトークン化された現実資産(RWA)などを安全に提供するために必要なインフラを機関投資家に提供することに特化したプロジェクトのエコシステムが続々と登場してきた。

例えば、ギャラクシー(Galaxy)傘下のGK8は、信頼できるカストディプラットフォームと主要製品であるCold Vaultのセキュリティ保証によって機関投資家にさまざまなデジタル資産サービスを提供している。

機関投資家を暗号資産のフロンティアに導くこのようなプロジェクトは、銀行や投資会社が暗号資産の採用を拡大しながら、新たな収益源を見つけることをサポートしている。

取引の透明性とスピードは、銀行がより迅速でスムーズな資金移動を促進するために、業界コンソーシアム内で協力して共通のブロックチェーンプラットフォームを開発するきっかけとなった。

JPモルガン・チェースも、何年も前からプライベートブロックチェーンネットワークを開発しており、現在は独自の暗号資産ウォレットをリリースする予定だ。

TradFiの暗号資産への関与が増え、ブロックチェーンやその他の暗号資産関連テクノロジーの利用が拡大するなか、1つの疑問が生じる。ブラックロックのビットコインETF申請が承認されれば、ビットコインの価格上昇以上に現在とどのような違いをもたらすのだろうか?

暗号資産を飲み込むクジラ

楽観主義者にとっては、ブラックロックのETFがSECに承認されれば、ビットコインだけでなく暗号資産業界全体が正当化されることになる。この考え方はほとんど議論の余地がない。

他に例のない9兆ドルの運用資産残高と30カ国に70のオフィスを持つブラックロックは、ビットコインと底知れない富をつなぐ架け橋だ。そして、世界最大かつ最も権威ある資産運用会社が特定の資産やアセットクラスに関心を示せば、世界中の投資家が注目する。

ビットコインの正常化に向けたこの時代の流れは、アメリカにおける規制の明確化によって後押しされる可能性もある。

機関投資家の関与が強まれば、伝統的な金融機関が暗号資産プロダクトを提供する際の競争力が高まり、暗号資産市場に資本が注入され、価格と流動性の上昇につながる可能性が高い。

しかし、価格の上昇は必ずしも暗号資産の長期的な持続性を意味しない。私たちは過去6年間で、複数の強気サイクルと大きな価格変動を目の当たりにしてきた。また、ビットコインの価格上昇が暗号資産全体の価格上昇につながる保証もない。

分散化純粋主義者が、TradFiの特定の要素が自分たちが主に築き上げた分野での役割を拡大することに脅威を感じるのは当然。彼らにとって、巨大な資産運用会社や投資銀行はイデオロギー的な敵であり、彼らはそのような敵が過度の影響力を振り回し、あるいはもっと悪いことに、聖書の預言者ヨナを飲み込むクジラのように暗号資産ネイティブ企業を完全に飲み込んでしまうことを恐れている。ヨナは3日後に吐き出されたが、TradFiのクジラによる乗っ取りは、暗号資産とDeFiがここ数年で成し遂げてきた進歩をすべて消し去るかもしれない。

共存共栄

ビットコイン現物ETFが誕生し、アメリカと欧州でバランスの取れた規制が導入されれば、暗号資産(主にDeFi)とTradFiは共存できる。というのも、両者は異なるサービスや商品を異なる層に提供しているからだ。

デジタル資産と現実資産(RWA)にイノベーティブな金融ソリューションを適用することに加え、暗号資産企業は主に発展途上国の銀行口座を持たない人々に金融サービスを提供することで普及を拡大することもできる。

さらに、大手金融機関は、暗号資産に直接関与するために必要な技術的ハードルにあまり慣れていない投資家に対して、ステーキング、レンディング(貸し出し)、借り入れといったDeFiプロダクトへの便利なアクセスを促進できる。

少し前まで、TradFiは確立された中央集権的な金融世界の必要性を弱めようとする新興の暗号資産業界に脅かされていた。そして、不透明な規制、ビットコインETFの可能性、TradFiからのさらなる関心によって、そのシナリオはひっくり返った。

しかし、TradFiと暗号資産ネイティブ企業はそれぞれの強みを生かすことで、SECがETFを承認するか否かにかかわらず、マスアダプションを促進できる、より強固な暗号資産エコシステムの構築に貢献できる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Ripple Effects of a Spot Market Bitcoin ETF