成熟した大人の振る舞いを見せなかったDCGとジェネシスの責任

私の同僚で、勇敢な記者兼編集者のニキレシュ・デ(Nikhilesh De)は先日、サム・バンクマン-フリード氏(通称SBF)の現在進行中の刑事裁判の詳細が明らかになるにつれ、暗号資産(仮想通貨)業界がいかに素人くささを露呈しているかについて記した。

SBFが率いた取引所とトレーディング事業における不正な取引は、ある程度までほぼ許すことができる。結局のところ、FTXとアラメダ・リサーチ(Alameda Research)は、SBFと長年の緊密な関係の友人たちによって運営されていた。彼らは皆、金融の経験が浅く、世界をより良い場所にしたいという純粋な功利主義的願望に導かれていたようだ。

アラメダのキャロライン・エリソン(Caroline Ellison)元CEOが数日間にわたる証人喚問を行った際、彼女はアラメダのビジネスパートナーに不正に操作した帳簿を送りつけ、FTXの投資家や顧客を欺くための長期的な策略を実行した罪を認めた。CoinDeskの姉妹会社で、デジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group:DCG)のレンディング子会社であるジェネシス(Genesis)も欺かれた。

親会社が同じだからといって、私は口を慎むつもりはない。エリソン氏の証言では、名目上はSBFの悪巧みの被害者であるジェネシスは、同情できない参加者だ。

ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズ(Leticia James)氏は10月19日、ジェネシスとDCG、およびその主要経営者であるジェネシスの元CEOマイケル・モロ(Michael Moro)氏と、DCGの創業者でCEOのバリー・シルバート(Barry Silbert)氏を相手取り、顧客と一般市民に対して嘘をついたとして訴訟を起こした。

この訴訟は暗号資産取引所ジェミナイ(Gemini)、1世紀前からある証券取引法、ジェミナイの個人投資家向け暗号資産レンディングサービス「Earn」が絡む複雑なものだ。

「大人」たちの失態

この訴訟で痛ましいことは、暗号資産業界の一流と思われていた組織が訴えられていることだ。実際に多額の資金が関わっており(Earnの顧客は10億ドル以上を失ったと推定されている)、定評ある企業が関与していた。ジェネシスの一部門が今年破産を宣言する前、同社の従業員は「部屋の中の大人」、つまりビジネスを最もよく知る人々と広く考えられていた。

DCGは最盛期には、財閥並みに大きくなったスタンダード・オイルに例えられていた。しかし、シルバート氏の帝国を解体する必要がないことが判明した。自滅したのだ。

詐欺と「新人の初歩的な過ち」の境界線は、FTXのストーリーを通して顕著なテーマとなっている。SBFの弁護士は、FTXの不手際を飛行中に作られた飛行機のようだと表現した。

エリソン氏の証言は、アラメダとジェネシスの砕けた関係を物語っており、テレグラムのチャットで何億ドルもの取引をすることは日常的なことのようだった。このレベルの軽率さは、専門知識によって得た自信と、基本的な判断ミスの両方を物語っている。

もちろん、それは信頼のもとに築かれたカジュアルな関係でもあった。そしてSBFとその幹部たちは、その信頼を進んで裏切ったとされている。

騙されたという点ではジェネシスは被害者だ。しかし、レティシア・ジェームズ司法長官は、ジェネシスとDCGが世界の目をごまかそうとしたことも批判している。

ジェネシスは、ド・クォン(Do Kwon)氏が所有するボロボロのステーブルコインとビットコインとの10億ドル(約1500億円)のスワップをサポートしたり、FTXのカジノトークンとでも言うべきFTTを数十億ドルの融資の担保として受け入れたりするなど、お粗末なリスク管理を露呈する、今にして思えば非常識な決断を下した。

一線を越えたのは、ジェネシスとDCGが損失と不始末を隠そうとしたときだとジェームズ司法長官は主張するかもしれない。

その中心にあるのは、DCGがジェネシスに発行した11億ドルの約束手形で、ジェネシスの「真の財務状況」を隠すために使われたとされている。一時期、アラメダはジェネシスの融資残高の60%を占め、リスクの集中が懸念されていた。さらにその融資が担保不足であったことが、リスクを悪化させた。

ウィンクルボス兄弟が率いるジェミナイも司法長官に訴えられている。2021年2月時点でジェネシスがリスクを抱えていることを知っていたにもかかわらず、「低リスク」であるはずのEarnプログラム向けに利回りを得るために、顧客資金をジェネシスに預けていたのだ。

騙し、騙される

これは素人仕事だろうか? それとも、過熱した市場における役員レベルの金融取引に期待されることなのだろうか?

ジェームズ司法長官の訴訟で事態が複雑になりすぎる可能性があるのは、いくつもの会社(その多くは公に反目している)をひとまとめにし、いくつもの取り決めを「2つの異なる詐欺的スキーム」にグループ分けしていることだ。

「ジェミナイ・スキーム」では、暗号資産のレガシー組織であるジェミナイが、資金を貸すべきではないとわかっていたはずの会社(ジェネシス)に資金を貸し付け、自社の提供商品(Earn)についても誤った説明を行っていた。

一方の「DCGスキーム」は、ジェネシス・キャピタルの10億ドルの「構造的な穴」を隠そうとしたものだ。ジェミナイは顧客に嘘をついたとしてこの件の当事者になっているにもかかわらず、訴訟は「嘘をつかれた」とする同社の立場を正当化するものだと述べている。

この「嘘をついた」「嘘をつかれた」という状況は「大馬鹿者理論」に近いものがある。この理論は、ある「愚か者」が過大評価された資産を購入し、それを「より愚かな者」にさらに高値で売って利益を得ようとするもので、強気相場を牽引する要因を説明するものとされている。

暗号資産では、企業は思っている以上に絡み合い、依存し合うことが多く、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital:3AC)、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、ブロックFi(BlockFi)のような企業を崩壊させたスキームもすべて同様のものだ。共通しているのは、「嘘をついた」「嘘をつかれた」というフレーズだ。

ジェネシスの穴は3ACの破綻後に見つかり、3ACの破綻自体は、ド・クォンのステーブルコイン「UST」の崩壊によってもたらされた。

しかし、これまでで最大の暗号資産市場の高騰の後に起きた多くのビジネス上の失敗には、種類や程度に確かな違いがある。それでも、その中から学ぶべき教訓がひとつあるとすれば、それは、経験豊富な人でさえ、希望的観測の餌食になる可能性があるということだ。そして成熟とは、その対処法を知ることにほかならない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:DCGの創業者兼CEOバリー・シルバート氏(DCG)
|原文:DCG, Genesis Were the ‘Adults in the Room’ but Didn’t Behave Like It