暗号資産市場を揺るがす経済政策と地政学的不透明感──ビットコイン、セーフヘイブン資産となるには

進化を続ける暗号資産(仮想通貨)市場にとって、2023年は手ごわい挑戦の年となっている。中央銀行が急激な利上げでインフレ圧力に対応し、地政学的緊張が不透明感の影を落とすなか、暗号資産は岐路に立たされている。

本稿では、暗号資産市場を揺るがす重要な要因、すなわち金融引き締め政策、米ドルの復活、そして長引くインフレ懸念について掘り下げる。また、世界の金融と安定という文脈における暗号資産、特にビットコインの進化する役割についても考察する。

量的引き締めとドル高

下のグラフは、2023年の米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)による量的引き締めの影響を示している。

上:FRBバランスシート(橙)、ECB総資産(紫)、RRPアワード金利(青)
下:FF金利(赤)、10年国債利回り(緑)、20年国債利回り(青)

量的引き締めは中央銀行による国債の売却を伴い、国債利回りの上昇をもたらす。国債利回りの上昇圧力は、積極的な利上げの実施によってさらに悪化し、国債利回りはピーク水準に達している。

長期の国債利回りが4%を超えて急騰しているため、資本は暗号資産のようなリスク資産から、より安全な資産へと流出。米ドルを強化し、暗号資産市場の需要と流動性を低下させている。

2008年以来の記録的な国債利回りと7月以来の安定したドル高が、株式だけでなく暗号資産にも下落圧力を生んだ。7月に始まった市場の反発は広範囲に及んでおり、DXY(他の通貨に対するドルの相対的な価値を示す指標)が年初来高値を更新したこととタイミングを同じくしている。

上:ビットコイン(黄)、S&P 500(赤)、ナスダック総合指数(緑)、金(青)、DXY(紫)の年初以来のデイリーリターン
下:BTC-ゴールド(紫)、BTC-S&P 500(赤)、BTC-ナスダック総合指数(緑)の30日間ローリング・ピアソンの相関係数

2023年3月に起きた複数の銀行危機を受け、FRBは保有国債の切り下げと流動性の逼迫に悩む銀行を支援するため、バンク・トレジャリー・ファシリティ・プログラム(BTFP)を実施した。

この措置は、流動性危機の緩和に役立った。FRBは現在、量的引き締めの一時停止や金利引き下げの計画を示しておらず、今後の方針は不透明なままだ。そのため、長引く懸念はインフレに集中している。

インフレ懸念と地政学的リスク

下のグラフは、今年最高水準に達しているアメリカのガソリン価格と原油価格の顕著な上昇を表している。

原油価格(紫)、消費者物価指数の前年比変化率(赤)、米国レギュラーガソリン価格(緑)

現在進行中のイスラエルとハマスの紛争は石油供給に支障をきたしてはいないが、懸念は残る。石油アナリストのレザ・ファラクシャヒ(Reza Falakshahi)氏は、衝突がこれ以上エスカレートすれば、世界の海上石油輸出の3分の1以上が毎日通過するホルムズ海峡のような重要な輸送ルートに支障をきたす可能性があると警告している。

主要な石油輸送の要衝に影響を及ぼす紛争による大幅な供給ショックは、インフレを長引かせ、中央銀行は消費者物価の上昇に対抗するため、世界中で積極的な利上げを維持せざるを得なくなる可能性がある。

現在、暗号資産市場の状況を見ると、機関投資家、個人投資家ともにリスク選好度が低下していることを反映して、年初から取引高は減少している。

上:暗号資産取引所のスポット取引高
中:分散型暗号資産取引所のスポット取引高
下:暗号資産取引所のデリバティブ取引高

複数の要因

取引高が減少した背景には、いくつかの要因が重なっている。

第1に、暗号資産業界に対するSECによる取り締まりと告発の強化は、規制の不透明感を生み出し、一部の市場参加者がより慎重なアプローチを取り、エクスポージャーを減らす原因となった。

第2に、抑制的な金融政策により、リスクの高い暗号資産市場から安全な金融商品への資本流出が起きている。

最後に、地政学的な不確実性の高まりがリスク回避を生み、投資家に暗号資産のような未成熟な資産へのエクスポージャーを減らすよう促している。

ビットコインは最終的に、ゴールドと同様の価値の保存手段として機能する可能性があるとの意見もあるが、普遍的に受け入れられるセーフヘイブン(安全な避難先)な資産クラスとしてのポジションを確立するには至っていない。

世界的に機関投資家による暗号資産の採用が増加しているため、ビットコインへの投機が価値の保存手段としてのメインストリームでの利用を上回っている。

ビットコインに対する需要は、ファンダメンタルズに基づく投資行動よりも、主に投機的な活動によってもたらされているようだ。そのことは、暗号資産取引所においてスポット取引よりもデリバティブ取引が大きく優位を占めていることからも明らかだ(2023年の平均デリバティブ取引高はスポット取引高の約4倍)。

最近の価格急騰は、安定した機関投資家からの需要よりも、むしろ個人投資家の熱狂やボラティリティ戦略が主な要因となっている。

セーフヘイブン資産になるためには

広範なセーフヘイブンとしてのビットコインの可能性は、伝統的な通貨や価値の保存手段と同じような、普遍的に認知された規制やユースケースがない限り、不透明なままだ。

短期的には、投機資金の流入を抑制するマクロ経済的・地政学的要因が、暗号資産市場のアクティビティとボラティリティを引き続き抑制すると予想される。

米証券取引委員会(SEC)は注目度の高いビットコインETFの申請審査を何度も延期しており、メインストリームへの普及の道を妨害している。

ビットコインが機関投資家の投資手段となり、世界の投資家にとって真のセーフヘイブン資産となるためには、規制当局による承認が不可欠。投機的な資金フローへの依存を減らし、ボラティリティの高い時期にポートフォリオを多様化する資産としての能力を高めるためには、機関投資家の認識と参加が広まることが不可欠だ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:How Economic Policy and Geopolitical Uncertainty Could Affect Crypto Markets