ETFが承認されたら、ウォール街はビットコインをどうマーケティングするか

ビットコインETF(上場投資信託)申請が相次いたことで、ウォール街はビットコイン(BTC)にダイレクトに関与する態勢が整いつつある。伝統的金融機関は、ビットコインETFをリスクオフのセーフヘイブン(安全な避難先)投資としてアピールする可能性が高いが、ETFは従来の暗号資産(仮想通貨)取引所とは異なるタイプのビットコイン投資を可能にする。

ビットコインETFは、分散型で検閲に強い無記名資産を提供するわけではない。つまり、ウォール街はビットコインの本来的な価値をアピールできない。

だが、ビットコインのテクノロジーとカストディに特化したビットコイン企業は、ウォール街のマーケティングキャンペーンを利用して、自社の比較優位性を強調し、マーケットシェアを獲得できる。

ビットコイン企業は、そのようなマーケティングを計画し、ETFのストーリーと現実のギャップを識別し、その違いを利用すべきだ。

ウルフ・オブ・ウォールストリート

「水に血が混じっている。やっつけに行こう!」と1980年代、モルガン・スタンレーのトレーディングフロアで元CEOのジョン・マック(John Mack)氏が叫んだ。

新たな規制やよりソフトな企業環境がウォール街のカルチャーを和らげてきたとはいえ、金融商品を売って稼ぐというウォール街の目的は変わらない。ビットコインETFも同じだ。

ビットコイン商品を販売することは、金融仲介者としての役割を脅かすテクノロジーを推進することにつながるため、これらの既存企業にとってはユニークな挑戦となる。

そのため、彼らはビットコインの中核的な思想を曖昧にしながら、ビットコインの魅力を捉えた商品を作らなければならない。投資家にとってはわかりやすく、規制当局にとっては扱いやすく、発行者にとっては儲かるもの、いわば「ビットコイン・ライト」とでも呼べるもの。ビットコインを革命的なツールから金融メニューの一品に変えるストーリーだ。

既存のETFで実証済みのマーケティングストーリーを活用し、ウォール街のマーケティングチームはすでに、人々がビットコインETFを買うべき理由についてのストーリーを作り上げている。

それはどのようなものだろうか?

ストーリー1:「ビットコインをセルフカストディすると、紛失したり盗まれたりする可能性がある」

ウォール街は、2004年に始まった金ETF商品のプロモーションの成功に基づき、ビットコインETFに関するストーリーを作り上げるだろう。金(ゴールド)を自分で保有することはリスクが高く不便なように、ビットコインのセルフカストディもリスクが高く、不便だとするのだ。

このストーリーは、ビットコインのハードウェアウォレットやシードフレーズで秘密鍵を保持することの複雑さ、馴染みのなさをほのめかす。

スキャンダルに見舞われ、破綻したセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)を例に出し、秘密鍵の破壊や紛失によって永久に動かせなくなっている推定数百万のビットコインを強調するだろう。

ビットコイン企業は、次のように対抗しなければならない。

つまり、ユーザーはビットコインのカストディプロセスを学ぶ必要があるが、秘密鍵を自宅や貸金庫に保管することは安全で簡単だ。

また、消費者は現在、世帯内で秘密鍵を安全に共有できる画期的な「共同カストディ」アプリを使用できる。このようなアプリを使えば、誰も他メンバーの許可なく資金を移動させることはできなくなる。

ストーリー2:「取引所でビットコインを保有していると、紛失したり盗まれたりする可能性がある」

ウォール街のもうひとつの戦術は、FTX、セルシウス、ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)、ブロックファイ(BlockFi)といった企業の倒産や詐欺行為を強調することだろう。

ウォール街の幹部が「規制の欠如」といったバズワードを使い、自分たちとこうした企業を比較することも予想される。

ウォール街は、コンプライアンスに膨大な時間と資金を費やしている。消費者がこうしたコストを負担しているにもかかわらず、既存の金融大手は消費者の目には、最近破綻した暗号資産プラットフォームよりも安全に映る。

ビットコイン企業は、顧客の預託金のごく一部を手元に保管する取引所以外にも、ビットコインを入手する手段があること。すなわちビットコイン専用のブローカレッジやピア・ツー・ピア取引が存在することを説明する必要がある。

また、セルフカストディを対処できるレベルのリスクはあるが、圧倒的なメリットを持つ「第3の方法」と位置づけなければならない。

ストーリー3:「市場のボラティリティが不安? ワンクリックでビットコインに移行できる」

以前は批判していたにもかかわらず、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)のラリー・フィンク(Larry Fink)CEOは現在、ビットコインへの投資を「クオリティへの逃避」と見なしている。フィンクCEOは、あるインタビューでこのフレーズを何度も繰り返し、このフレーズが同社が推進する明確なマーケティングストーリーの一部であることを示した。

フィンクCEOのインタビューは、ビットコインの相関関係を投資家の貪欲さから投資家の恐怖へとシフトさせる広範な戦略の第一歩となる。

新たなストーリーは、ビットコインが不安定な市場環境下で価値を保存する可能性をブラックロックが認識していることを示している。

資産運用会社は主にフローで儲けるものであり、ゲインで儲けるのではないことを忘れてはならない。「安全への逃避」というマーケティングストーリーが支配的になれば、ブラックロックのような企業は「恐怖と貪欲指数」の変動に合わせてビットコインの取引を促すことで優位に立つことができる。

ウォール街がビットコインをリスクオフの資産としてアピールすることで企業によるカストディに反論するなか、ビットコイン企業は直接的に恩恵を得ることができる。

資産運用会社がこのストーリーをアピールするためにマーケティング費用を費やす一方で、ビットコイン企業は、現物のビットコインを所有することの真の価値を顧客に教えるために、うまくいっているものを再利用し、それを基に開発を行うことができる。

ストーリー4:「規制されたブローカレッジを通じてビットコインが利用できるようになり、個人がセルフカストディする理由はなくなった」

規制当局は、国家安全保障のストーリーをお膳立てしつつあり、ウォール街もそれに追随する可能性が高い。エリート層のアメリカ人によるビットコイン所有はすでに広まっており、セルフカストディを禁止する機運が高まる前に、規制されたブローカレッジを通じてビットコインに「アクセス」する実行可能な選択肢が必要だ。

ビットコイン企業は、ビットコインを使用する権利は自然法、言論の自由、プライバシー、財産権から発していることを説明し、思想の戦いに備える必要がある。ビットコイナーたちはすでに、これらの問題について議論している。

思想的リーダーは大衆の心をつかむことができるが、ウォール街のマーケティング、使いやすい金融商品、規制の圧力が大きな課題となることを予期しなければならない。

ビットコインETFを宣伝するマーケティングストーリーは、マネーテクノロジーにおける画期的なイノベーションであるビットコインを、伝統的な金融商品として曖昧なものにしてしまうだろう。

ウォール街は一部だけの真実、あるいは誤解を招くようなストーリーでビットコインを特徴づけるかもしれないが、彼らが費やすマーケティング費用は関心を生むだろう。ビットコイン企業は、マスの注目を集め、分散型で検閲に強い無記名資産としてのビットコインについて補完的なストーリーを提供する、またとない機会を手にするはずだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:What Will Wall Street’s Bitcoin Narrative Be?